レベル99のおままごと

赤たまねぎ

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06 漫画の神様からのビンタ

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 私が漫画を描くことを決め、描き切った。

 決断したのが、一年前。

 その日から私の安息の日々は消えた。

 絵など勉強したことがないし、コマをどのように配置すればいいのかだって、私にはまるで分からない。

 なんとか3か月で漫画を一冊(24ページ・一話分)完成させることが出来た。その日の夜はぐっすり眠れた。

 だが、翌朝その漫画を読んでみた。

 クソだった。紙が勿体ない。

 夜のテンションで何かを描くと、なんでも素晴らしく見えてしまうことを初めて知った。『感動の夜と、絶望の夜明け現象』と名付ける。これは後世に残すべきだと秘密基地のデータバンクにしっかりと保存した。

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 6か月経った、漫画を描いている。

 まだ、完結していない。

 内容がクソでも一度は完成させた。確実に描く速度は上がっていた。計3巻を目標とし、2巻まで描くことが出来たのだが、問題が発生した。

 ……どう終わらせればいいのか分からない。

 せめてもの救いは、途中まで描いた漫画をクローン人間たちに見せていないことだった。ゼロからの作り直しをするだろうと私自身が予想していた。読者にとっては、それは余りに悲しいことだ。

 予想通りゼロからの作り直しを二回行った。だが、今回のケースの場合、それは通用しない。

 キャラクターが勝手に動くのだ。

 もちろん、私の意思で描いている。だが、このキャラクターならこのように言うだろう、言葉ではなく先に殴るだろう――とペンが動いてしまうのだ。それを曲げようとすると、キャラが崩壊してしまう。

 全く違うキャラクターになってしまうのだ。

 死ぬはずだった敵を主人公が助けてしまっている。そいつが死なないとストーリーが先に進まないのに。

 私は仕方がなく、より凶悪な敵を作り、死ぬはずだったキャラをきちんと死ぬようにする。そのための舞台設定やお助けキャラも作らないといけない。その街へ向かう理由も必要だ。せっかく死ぬはずのキャラが生きているのだから、意外な一面とかも見せないと勿体ないな――。

 私は、広げた風呂敷を包む方法を知らないまま、それでもペンを動かし続けた。

 走っていくうちにきっとゴールは見えてくると信じて。

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 2か月経った。漫画は完成した。計5巻だ。

 読み返して気が付いた。決定的な矛盾がある。漫画の内容を説明するのもアレ(精神的に辛いことを意味する)なので、別の表現をする。

 主人公が利き腕が左から右に変わっていた。敵を倒すために逆手持ちにさせた場面があった。あのときから剣を持つてを間違えている。

 よく見れば1巻と5巻の主人公の顔がまるで違う。こっちの方が致命的。

 1巻はどこか苦労人臭が漂っているが、5巻の顔が若く躍動感がある。

 ……ああ、ダメだ。漫画の中では2年経っているはずなのに、どう見ても主人公が若返っている。

 私の頭の中で、ゼロからのやり直しアラームが鳴る。

 ……死にたい。
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