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更なるプロデュース
02 二人目の友達は執着者
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円藤桜音。
彼女との出会いは施設『おやまえん』である。
知能が高いことで問題とされた黒部フネとはベクトルが違い、円藤桜音の頭は一般的な5歳相応のものであった。
だが、その集中力は黒部フネの目を持っても異常であった。
いや、集中力というよりも――執着力と呼ぶべきか。円藤桜音は一度始めたことを途中で止めることをしない。食べることも水を飲むことも忘れ、気が付けば眠ってしまう。
集中力がただ凄い子ども――それが、円藤桜音である。
その悪い癖は、15歳となった今でも治っていない。
◇ ◇ ◇
全力無双という刀を手にして戦うゲーム。
その中で不和ミドリは34回切り殺されていた。
「…………痛くない」
明治時代の侍を連想させそうな少しオシャレな戦闘着を身に着けている不和ミドリは仰向けのまま気持ちを吐露した。
ゲームを起動させ、いつの間にか握らされていた右手の刀の柄はよく馴染み――20回切り殺される頃には手足のように操れている感覚があり、20回切り殺し返した頃には、魂の一部のように思えてならない。
感情が麻痺しているのか、黒い峰が鈍い緑色の輝きを放っているように見えてしまう。
「――はい、私の勝ち!!」
感慨深げな気持ちを破壊するハイテンションな声に不和ミドリは、胡乱な目でその犯人を見る。
同じハイカラな戦闘着を纏ったピンク色の髪をした円藤桜音が、楽しそうに笑っていた。
「おしかったねー! さすがの私もヒヤッとしたものですね、はい」
「また、言葉がおかしくなってますよ。休憩しませんか?」
「のんのん! 熱いうちに鉄を打つように、勢いのあるうちは休んではいけないのよ! ほら、もう一本やるよ!」
このやり取りを12回行い、不破ミドリの休憩の提案を12回全て断られている。
やろうやろうと駄々をこね始めた円藤桜音に合わせ、不破ミドリは刀を抜く。
69回目、どこからか聞こえてくる戦闘開始の音とともに円藤桜音が首目掛けて刀を振るってくる。
◇ ◇ ◇
『貴女に足りないのは、相手を理解する心よ』
フネちゃんが私にそう言った。
こう見えても私は社交性の高い人間だ。相手の心が判らずとも、気持ちが判る自信がある。
『それじゃな、ダメなのよ。アイドルを語りたいなら心を理解しないと。金原優子は心を理解しているわ』
どうしてそこで優子ちゃんの名前を出すの?
そう、嫉妬心から訊ねた。
『金原優子を潰すためよ』
潰す? なんで?
『――『エンジェリング』を辞めるとミドリちゃんは言ったけれど、アイドルに未練はあるんでしょう? 見ていて判ったわ。でも、私としてはアイドルなんて辞めて欲しいの。私のゲームに偶像はいらない。リアルよりもリアリティいのある偽物が必要なの』
フネちゃんの言葉に私は驚く。
私がアイドルに未練があることに気付かれてからだ。この人は他人の心なんて興味がない、フネちゃんはそんな人間だと思っていただけに驚きで――そんな自分を今更ながら気づいてしまった自分自身にも驚いている。
『……あなたね~。『ユダ』で歌ったときのこと覚えてないの? アイドルの顔をしていたわよ』
フネちゃんは、ヤンチャで仕方がない我が子見るように、少し嬉しそう。
けれど、私はそう言われても、素直に喜ぶことが出来なかった。
私が――不和ミドリのアイドル人生に将来性は皆無。だから、『エンジェリング』を辞めることを決めた。だから、私のアイドルとしての可能性をフネちゃんを話したくはなかった。
せっかく決断したのに――――
赤裸々に感情をぶつける。
『……ごめんさない。あなたのアイドルの思いを私は無遠慮な言葉で傷つけてしまったのね。それが、どれだけ深いものなのかは判らないけれど、それだけミドリちゃんは覚悟を決めていたのね。本当にごめんなさい』
…………いいよ。
『でも、これだけは言わせて。最後に決めるのはミドリちゃん、あなたなのよ。だから、選択肢は残しておいたほうがいいと思うの。それに、アイドルを辞めるにしても、アイドルを続けるにしても――金原優子は不和ミドリの壁になる』
優子ちゃんの踊る姿を私は思い出した。
いつも、センターで踊る彼女の後ろ姿だ。センターで踊って歌うことに、微塵も疑問を抱かずに、当然のようにそこにいる優子ちゃん。
『だったら、超えて貰うしかないわ。そのために心を理解してもらう必要があるの』
そのための特訓が、剣戟だ。
◇ ◇ ◇
101回目の戦闘が終わったとき、円藤桜音はようやく自分が繰り出すであろう必殺技の出来に満足していた。それは序章が終わったことを意味していた。
「さあ、魔物を剣で倒す旅に行くわよ!」
「はいはい。今行きますよ」
ゲームのオープニングソングが流れてきた。よくやくゲームが始まった感が出て来ることに不和ミドリはかなり感動していた。
――必殺技が出来るまで練習したい!!
円藤桜音の提案に頷いたのが地獄の始まりだったと、不破ミドリは安易に了承してしまったことに深く後悔している。自分の首が飛ぶ瞬間の景色や、胴が泣き別れするとことなんてトラウマレベルの記憶を作ってしまった。
不和ミドリの必殺技までも真剣に考え、出来たときには喜んでくれた。ただ、悪意が一切ない善意なだけに、不破ミドリは円藤桜音を非難することが出来ない。
必殺技もそうだ。せっかく刀を使うゲームなのだから、専用の必殺技を作りたいという純粋な気持ちから来ていることを不和ミドリは直感的に判った。
「さあ、冒険の始まりだー!」
「おー」
前を元気よくかけていく円藤桜音。
その後ろで棒読みで腕を掲げながら追う不和ミドリ。
対照的な二人の様子を、黒部フネは遠くから見ていた。
彼女との出会いは施設『おやまえん』である。
知能が高いことで問題とされた黒部フネとはベクトルが違い、円藤桜音の頭は一般的な5歳相応のものであった。
だが、その集中力は黒部フネの目を持っても異常であった。
いや、集中力というよりも――執着力と呼ぶべきか。円藤桜音は一度始めたことを途中で止めることをしない。食べることも水を飲むことも忘れ、気が付けば眠ってしまう。
集中力がただ凄い子ども――それが、円藤桜音である。
その悪い癖は、15歳となった今でも治っていない。
◇ ◇ ◇
全力無双という刀を手にして戦うゲーム。
その中で不和ミドリは34回切り殺されていた。
「…………痛くない」
明治時代の侍を連想させそうな少しオシャレな戦闘着を身に着けている不和ミドリは仰向けのまま気持ちを吐露した。
ゲームを起動させ、いつの間にか握らされていた右手の刀の柄はよく馴染み――20回切り殺される頃には手足のように操れている感覚があり、20回切り殺し返した頃には、魂の一部のように思えてならない。
感情が麻痺しているのか、黒い峰が鈍い緑色の輝きを放っているように見えてしまう。
「――はい、私の勝ち!!」
感慨深げな気持ちを破壊するハイテンションな声に不和ミドリは、胡乱な目でその犯人を見る。
同じハイカラな戦闘着を纏ったピンク色の髪をした円藤桜音が、楽しそうに笑っていた。
「おしかったねー! さすがの私もヒヤッとしたものですね、はい」
「また、言葉がおかしくなってますよ。休憩しませんか?」
「のんのん! 熱いうちに鉄を打つように、勢いのあるうちは休んではいけないのよ! ほら、もう一本やるよ!」
このやり取りを12回行い、不破ミドリの休憩の提案を12回全て断られている。
やろうやろうと駄々をこね始めた円藤桜音に合わせ、不破ミドリは刀を抜く。
69回目、どこからか聞こえてくる戦闘開始の音とともに円藤桜音が首目掛けて刀を振るってくる。
◇ ◇ ◇
『貴女に足りないのは、相手を理解する心よ』
フネちゃんが私にそう言った。
こう見えても私は社交性の高い人間だ。相手の心が判らずとも、気持ちが判る自信がある。
『それじゃな、ダメなのよ。アイドルを語りたいなら心を理解しないと。金原優子は心を理解しているわ』
どうしてそこで優子ちゃんの名前を出すの?
そう、嫉妬心から訊ねた。
『金原優子を潰すためよ』
潰す? なんで?
『――『エンジェリング』を辞めるとミドリちゃんは言ったけれど、アイドルに未練はあるんでしょう? 見ていて判ったわ。でも、私としてはアイドルなんて辞めて欲しいの。私のゲームに偶像はいらない。リアルよりもリアリティいのある偽物が必要なの』
フネちゃんの言葉に私は驚く。
私がアイドルに未練があることに気付かれてからだ。この人は他人の心なんて興味がない、フネちゃんはそんな人間だと思っていただけに驚きで――そんな自分を今更ながら気づいてしまった自分自身にも驚いている。
『……あなたね~。『ユダ』で歌ったときのこと覚えてないの? アイドルの顔をしていたわよ』
フネちゃんは、ヤンチャで仕方がない我が子見るように、少し嬉しそう。
けれど、私はそう言われても、素直に喜ぶことが出来なかった。
私が――不和ミドリのアイドル人生に将来性は皆無。だから、『エンジェリング』を辞めることを決めた。だから、私のアイドルとしての可能性をフネちゃんを話したくはなかった。
せっかく決断したのに――――
赤裸々に感情をぶつける。
『……ごめんさない。あなたのアイドルの思いを私は無遠慮な言葉で傷つけてしまったのね。それが、どれだけ深いものなのかは判らないけれど、それだけミドリちゃんは覚悟を決めていたのね。本当にごめんなさい』
…………いいよ。
『でも、これだけは言わせて。最後に決めるのはミドリちゃん、あなたなのよ。だから、選択肢は残しておいたほうがいいと思うの。それに、アイドルを辞めるにしても、アイドルを続けるにしても――金原優子は不和ミドリの壁になる』
優子ちゃんの踊る姿を私は思い出した。
いつも、センターで踊る彼女の後ろ姿だ。センターで踊って歌うことに、微塵も疑問を抱かずに、当然のようにそこにいる優子ちゃん。
『だったら、超えて貰うしかないわ。そのために心を理解してもらう必要があるの』
そのための特訓が、剣戟だ。
◇ ◇ ◇
101回目の戦闘が終わったとき、円藤桜音はようやく自分が繰り出すであろう必殺技の出来に満足していた。それは序章が終わったことを意味していた。
「さあ、魔物を剣で倒す旅に行くわよ!」
「はいはい。今行きますよ」
ゲームのオープニングソングが流れてきた。よくやくゲームが始まった感が出て来ることに不和ミドリはかなり感動していた。
――必殺技が出来るまで練習したい!!
円藤桜音の提案に頷いたのが地獄の始まりだったと、不破ミドリは安易に了承してしまったことに深く後悔している。自分の首が飛ぶ瞬間の景色や、胴が泣き別れするとことなんてトラウマレベルの記憶を作ってしまった。
不和ミドリの必殺技までも真剣に考え、出来たときには喜んでくれた。ただ、悪意が一切ない善意なだけに、不破ミドリは円藤桜音を非難することが出来ない。
必殺技もそうだ。せっかく刀を使うゲームなのだから、専用の必殺技を作りたいという純粋な気持ちから来ていることを不和ミドリは直感的に判った。
「さあ、冒険の始まりだー!」
「おー」
前を元気よくかけていく円藤桜音。
その後ろで棒読みで腕を掲げながら追う不和ミドリ。
対照的な二人の様子を、黒部フネは遠くから見ていた。
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