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草むしりしたがる勇者

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〈旅人協同組合〉は、地域の人やボランティアが集まって作られた組織である。害獣の退治や人の護衛、ペット探しや草むしりでも、報酬さえ準備できれば誰でも組合に依頼を持ち込むことができる。

 町の役所になら無料で頼むこともできるが、手続きが手間だったり、対応してくれるまでに時間がかかったりするせいで、依頼達成までの早さは圧倒的に組合のほうが上だ。

「――また、持ち込まれた依頼は簡単に達成できる星1から、難易度が高いものを星9といった具合に分類されます。町の外などでは何が起こるか分かりませんので、あくまでも目安程度に思っておいてください」

 口調だけなら真面目、実際はお菓子を片手に台本を棒読みしているだけの職員、シュリは最後まで読み終わると同時に机に突っ伏した。

「あぁ疲れた……もう働かない……」

「おい寝るな。質問がある」

「だめです……おやすみなさい……」

 今までのシュリの対応にはなんとか目を瞑っていたレイだったものの、さすがに我慢の限界が近づいてきたらしい。顔は平静を装っているが、黒いオーラが体から滲み出てきている。

「この人……凄い……」

 ルナはレイの脇腹をつつき、「落ち着いて」と目で訴えながら言った。

 元魔王の威圧を真正面から受けながら、それでもスヤスヤと寝息をたて始めたあたり、ある意味かなりの熟練者だろう。

「ふん、まあいい。どんな依頼があるか見に行くぞ」

「うん」

 カウンターのわきに貼り出された無数の依頼書には、星1の買い出しの手伝いや、星7の凶暴な魔物の討伐など、様々なジャンルの依頼が星の多さで見やすく区切られていた

「星8も9もないのか。つまらん」

「ん、それだけ平和。良いこと」

「仕方がないか。星7で妥協しよう」

 星7、町から南西に5キロ離れた場所にいる害獣の群れの一掃。本来は大人数で受注する依頼なのだが……まあこの二人なら素手でも大丈夫なのだろう。

「待って、よく考えて。確かに魔物の群れは危険。だけど私達にはもっとやることがある」

 ルナが一枚の依頼書を手にとった。

 星1、町内の草むしり。

「……観光か」

「ち……違うし……」

 目をそらしながら、依頼書をレイに手渡す。

「レイは人間の町に興味ない……?」

「ふむ……いいだろう。お前の提案に乗ってやる」

 今まで殺伐とした世界で生きてきた少女が、戦う以外の目的で初めて旅をしているのだ。

「少しは好きに行動させてやるさ」

「ん? 何か言った?」

「なんでもない。ほら、さっさと行くぞ」

「うん、早く観光しよう」

「ボロが出るのが早すぎるな」

「……早く行こう」

 こうして、二人の初の依頼――もとい観光が始まった。
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みんなの感想(1件)

鶏先生
2019.11.25 鶏先生

面白かったです

たぬきよーぐると
2019.11.25 たぬきよーぐると

シンプルな感想!けどそれがとてつもなく嬉しい!(笑

これからもそのような言葉をかけて頂けるように頑張りますので、よろしくお願いします!

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