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12月24日 26個目。
初めて“したいこと”が叶わなかった。
クリスマスデートをする予定だった。
2人ともとても楽しみにしていて、朝10時から待ち合わせしていた。柄にも無くそわそわしてしまい、待ち合わせの30分前に着いてしまった。もしかしたらもう綾も来てるかも、と思ったがそんなことは無く、浮かれている自分が少し恥ずかしくなったが、その気持ちに変わりはなかった。
10時になっても綾は来なかった。彼女は今まで待ち合わせに遅刻したことがほとんど無いし、遅れる時は必ず連絡があった。連絡も返ってこず、1時間ほど待っても綾は来ない。
電話をかけると出たのは彼女ではなく、彼女の母親だった。
急いで病院に向かう。心臓が止まりそうだった。彼女は玄関先で倒れてしまったらしい。僕の予想通り、やはり彼女は僕と同じで30分ほど前に着くぐらいの早い時間に家を出ていたそうだ。
やっと病院に着いた、そんなに時間は経ってないはずなのに何時間も経ったような気がする。病室の扉を開くと綾はちょうど目を覚ましたようだった。綾は僕を見るなり俯いて、ごめんなさい、と小さく呟いた。僕は大丈夫だよ、と彼女を抱きしめた。彼女の母親も父親も見ていたが、気にしていられなかった。綾は行きたかった、と呟き、涙を流した。
僕は また行けばいいよ。と返した。
でも、クリスマスデートがしたかった、と言うから来年したら良いじゃん。と言った
彼女は暫く黙った後に、そうだね、と
細い腕で僕を抱きしめ返した。
彼女の母親も、静かに泣いていた。
……
それから彼女の体調が回復することはなく、そのまま入院する事になった。母親曰く冬が特に体調が悪化するので、毎年この時期は入院しているらしい。綾が眠った後、綾の母親から本当にありがとう、と伝えられた。なんとも言えない感情になった。
僕はアルバイトを減らし、なるべく綾の病室に通った。“したいことノート”はしばらく保留かと思ったが、この時のノートの内容は室内で出来ることが多かった。今思い返せば、“したいこと”はボールペンで書いていたから、書き直しはできなかった。つまり綾は計算していたのだと思う。計算した上で、自分がこの時期は入院しているだろうと予想して、室内で出来る“したいこと”を書いたのだ。その上で、どうしてもクリスマスデートだけは諦められなかった。どうしてその事に当時気付いてあげられなかったのか。これも僕が後悔している事の一つである。
……
時にはプロが折るような難しい折り紙に挑戦してみたり、時にはテレビゲームを一緒にしたり、調子が良い日は中庭で雪だるまを作って遊んだりした。
半年の記念日も病院の中でささやかにお祝いした。本当は一緒にお揃いの指輪を作りに行きたかったらしいが、それは難しかったので僕が綾の分も作ってきた。カップルが数組の中一人で作るのはかなり恥ずかしかったが、お陰で店主と仲良くなれた。僕は器用な方ではないから喜んでくれるか不安だったけれど、綾は泣いて喜んでくれた。世界で2つしかない僕と綾だけの指輪を、この日から今日までずっと肌身離さず僕はつけている。
すっかり入院中の子ども達とも仲良くなり、皆でも遊ぶようになった。春香は手作りのお菓子を持ってきたり、野々宮がオススメの本を持ってきたりしていた。その度に綾は本当に本当に喜んでいたし、そんな彼女を見て僕たちも喜んでいた。
……
少しずつ体調も良くなり、外出許可が降りるようになった。
まだ無理はさせたくなかったので遠出はしなかったが、綾がしたがっていたお菓子作りを春香と一緒にしたり、野々宮の妹2人(双子らしい)と遊んだり、なんだかんだ楽しく過ごしていた。
僕たちは2人とも誕生日が2月で、お互いの誕生日も2人でゆっくりと家で過ごしてお祝いすることが出来た。僕は綾に似合いそうな花柄のワンピースと、ネックレスをプレゼントした。綾は僕に腕時計をくれた。シックで僕好みの、素敵な時計だった。“したいことノート”も順調に進んでいて、段々と僕たちの日常が戻り始めていた。
初めて“したいこと”が叶わなかった。
クリスマスデートをする予定だった。
2人ともとても楽しみにしていて、朝10時から待ち合わせしていた。柄にも無くそわそわしてしまい、待ち合わせの30分前に着いてしまった。もしかしたらもう綾も来てるかも、と思ったがそんなことは無く、浮かれている自分が少し恥ずかしくなったが、その気持ちに変わりはなかった。
10時になっても綾は来なかった。彼女は今まで待ち合わせに遅刻したことがほとんど無いし、遅れる時は必ず連絡があった。連絡も返ってこず、1時間ほど待っても綾は来ない。
電話をかけると出たのは彼女ではなく、彼女の母親だった。
急いで病院に向かう。心臓が止まりそうだった。彼女は玄関先で倒れてしまったらしい。僕の予想通り、やはり彼女は僕と同じで30分ほど前に着くぐらいの早い時間に家を出ていたそうだ。
やっと病院に着いた、そんなに時間は経ってないはずなのに何時間も経ったような気がする。病室の扉を開くと綾はちょうど目を覚ましたようだった。綾は僕を見るなり俯いて、ごめんなさい、と小さく呟いた。僕は大丈夫だよ、と彼女を抱きしめた。彼女の母親も父親も見ていたが、気にしていられなかった。綾は行きたかった、と呟き、涙を流した。
僕は また行けばいいよ。と返した。
でも、クリスマスデートがしたかった、と言うから来年したら良いじゃん。と言った
彼女は暫く黙った後に、そうだね、と
細い腕で僕を抱きしめ返した。
彼女の母親も、静かに泣いていた。
……
それから彼女の体調が回復することはなく、そのまま入院する事になった。母親曰く冬が特に体調が悪化するので、毎年この時期は入院しているらしい。綾が眠った後、綾の母親から本当にありがとう、と伝えられた。なんとも言えない感情になった。
僕はアルバイトを減らし、なるべく綾の病室に通った。“したいことノート”はしばらく保留かと思ったが、この時のノートの内容は室内で出来ることが多かった。今思い返せば、“したいこと”はボールペンで書いていたから、書き直しはできなかった。つまり綾は計算していたのだと思う。計算した上で、自分がこの時期は入院しているだろうと予想して、室内で出来る“したいこと”を書いたのだ。その上で、どうしてもクリスマスデートだけは諦められなかった。どうしてその事に当時気付いてあげられなかったのか。これも僕が後悔している事の一つである。
……
時にはプロが折るような難しい折り紙に挑戦してみたり、時にはテレビゲームを一緒にしたり、調子が良い日は中庭で雪だるまを作って遊んだりした。
半年の記念日も病院の中でささやかにお祝いした。本当は一緒にお揃いの指輪を作りに行きたかったらしいが、それは難しかったので僕が綾の分も作ってきた。カップルが数組の中一人で作るのはかなり恥ずかしかったが、お陰で店主と仲良くなれた。僕は器用な方ではないから喜んでくれるか不安だったけれど、綾は泣いて喜んでくれた。世界で2つしかない僕と綾だけの指輪を、この日から今日までずっと肌身離さず僕はつけている。
すっかり入院中の子ども達とも仲良くなり、皆でも遊ぶようになった。春香は手作りのお菓子を持ってきたり、野々宮がオススメの本を持ってきたりしていた。その度に綾は本当に本当に喜んでいたし、そんな彼女を見て僕たちも喜んでいた。
……
少しずつ体調も良くなり、外出許可が降りるようになった。
まだ無理はさせたくなかったので遠出はしなかったが、綾がしたがっていたお菓子作りを春香と一緒にしたり、野々宮の妹2人(双子らしい)と遊んだり、なんだかんだ楽しく過ごしていた。
僕たちは2人とも誕生日が2月で、お互いの誕生日も2人でゆっくりと家で過ごしてお祝いすることが出来た。僕は綾に似合いそうな花柄のワンピースと、ネックレスをプレゼントした。綾は僕に腕時計をくれた。シックで僕好みの、素敵な時計だった。“したいことノート”も順調に進んでいて、段々と僕たちの日常が戻り始めていた。
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