【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~

つきよの

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それは……番さんのところに、ですか?

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(人事からのメールには、たしか来週からって……)

「なんでここにいるのかって、顔してますね」

 俺の表情からあまり喜んでいないと感じ取ったのか、東谷の表情は少し陰りを見せた。

「あ、いや……」

 俺はばつが悪くなり、俯き気味に目を逸らすと、デスクの上で開けっぱなしのノートパソコンを慌てて片手で閉じた。

「その……。出社は来週からじゃなかったのか?」

 本社へ栄転になった東谷が、これからうちの支社で始まる、大型プロジェクトのリーダーに任命されたこと。

 そして、短期間であったが支社へ戻ってくることは、人事からのメールで知っていた。

 だが、メール文面に東谷の名前を見つけただけで速まる心臓の音と、俺はどう向き合っていいのか分からなかった。

 そのため、それ以上考えることは止めて、必死に頭の片隅に追いやっていた。

(会うのは、あの日が最後だって思っていたのに……。だから……)

「ええ。実は今日中に手続きを終わらせて欲しいって、急遽言われてしまって。それでさっきまで、総務で手続きしてたんです」

「そう……だったのか……」

(俺、東谷とどんな話し方してたっけ……)

 昔は気軽になんでも自然と話せていたはずなのに、歯切れの悪い話し方で東谷の目も見られない自分に、俺は嫌気が差す。

「まだ終業時刻からそれほど経ってないですし、誰か知っている人でも残っているかなって覗きに来たんですけど、どこも真っ暗で。今日はノー残業デーだったんですね」

「あっ、ああ……」

 今日は月に一度の会社が決めたノー残業デーだったため、終業時刻を過ぎると皆早々に退社していき、照明も落とされていた。

 そのため、静まりきったフロア内は俺と東谷の二人きりだった。

「ねぇ、勇利先輩……」

 咄嗟に名前を呼ばれて俯いていた顔を上げると、東谷の顔は窓から差し込む月明りに照らされながら、ゆっくりと近づいてきた。

 真剣な顔で真っ直ぐと見つめてくるその目に俺が映り込むと、あの日のことが思い出される。

『勇利先輩……』

『東谷ッ……』

 眉間に皺を寄せ、少し苦しそうな東谷に見下ろされたとき、胸の奥から沸き立った愛おしいという気持ち。

 東谷の汗が俺の顔に滴り落ち、頬を伝う感触。

 頬に手を添えると、重ねるようにしながら握られた手のひらの温度。

 ほんの少し思い出すだけで、俺は顔に火照りと腰に甘い疼きを感じ、思わず内股に力を込めた。

 その時、ノートパソコンの横に伏せた状態で置いていた俺のスマホが、静かにバイブ音を鳴らした。

 ハッとして俺は慌ててスマホを手に取ってメッセージを確認すると、そこにはいつものように、時間と場所だけが書かれていた。

「ごめん。俺もう行かないと……」

「それは……つがいさんのところに、ですか?」
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