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「聖……さん」

 そこには、朝練で会った時のように微笑みを浮かべた聖が立っていた。

「どうしたの? 暗い顔をして」

 聖は一歩璃玖に近づき前屈みになると、璃玖と目線の高さを合わせ、璃玖の目をじっと見つめた。

「えっと……その……」

 聖の目は璃玖の気持ちを全て見透かしているかのように感じられ、璃玖はこの陰湿な気持ちを悟られまいと、咄嗟に聖から顔を背けてしまう。

「ねぇ、璃玖君。一樹君だけが特別に選ばれちゃって、悲しい?」

「えっ?」

 思いもよらなかった言葉をかけられ、璃玖は驚きのあまり、時が止まったかのように顔を背けたまま声を失う。

「おい、聖。言葉に気をつけろ」

 璃玖の隣で腕を組みながら壁に寄りかかっていた相良が、横槍を入れる。

 そんな相良の姿を聖は顔も向けずに横目だけで存在を確認すると、深い溜め息をついた。

「先輩には関係ないですよ」

 明るい声とは裏腹に、聖は冷たく言い放った。

「なっ……」

 聖の態度に相良は動揺を隠せない様子だが、聖はそんな相良の様子は御構い無しに、目を合わせようとしない璃玖に話を続ける。

「ねぇ、璃玖君は……変わりたいと思わないの?」

 聖は璃玖の長めで艶やかな漆黒の前髪に、そっと指先を絡める。

 そして、その絡めた髪を持ち上げて、璃玖の顔がはっきりと聖に見えるようにした。

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