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「……」

 璃玖は何もかも見透かされて吸い込まれそうな聖の瞳に、ただ怯えるように目を瞑ろうとしてしまう。

「ほら、そうやって璃玖君は目を背け続けるの? 璃玖君の欲しいものが伊織君に奪われて、悔しいと思わないの?」

 璃玖はハッとして、先程の休憩時間に言われた相良の言葉を思い出す。

『このままでいいのか?』

 伊織が自分より一樹とダンスの息が合っていたこと、自分ではなく伊織とバックダンサーに選ばれたこと。

 璃玖は羨ましい、しょうがないという気持ちはあったが、悔しいと思ったことがないことに気が付いた。

(悔しいと思わないのは……どこかで無理だって諦めているからだ。僕はこのままじゃ……一樹に並ぶどころか、追いつくこともできない……)

「璃玖君はまだ、ちゃんと自分と向き合っていない。本当に欲しいものを、このままじゃ手にすることもできないよ」

「僕の欲しいもの……」

「そう。本当に欲しいものは自分の力で手にしないと。僕はその力を、璃玖君の魅力を最大限に引き出してあげたいと思っているんだ」
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