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「へぇ……。まさか、あんなに聖さんのファンだった一樹がねー……。ちょっと前なら、そんなこと即答してたよね? やっぱり神山は一樹の邪魔をするしか能がないんだね」

「別に璃玖は……」

 関係ないと否定しようとしたが、伊織の言う通り、頭の中は璃玖と離れ離れになってしまうことへの不安でいっぱいの自分がいることに一樹は気が付いた。

「あっ、聖さんだ! こんにちわー」

 ダンススタジオの扉を開けて一人で入ってきた聖に、すかさず伊織は声を掛ける。

「こんにちは、伊織君。一樹君も、わざわざ見学に来てくれてありがとう」

「こんにちは……」

 まさに不安の元凶になっている聖の登場に、一樹は聖の顔を直視することができず、目を逸らしながら小さな声で挨拶をした。

「聖さん! 僕たち、プロの練習を見学できるなんて感激です。あと、僕たちを選んでくださって、本当にありがとうございます!」

 伊織は満面の笑みを浮かべてから、深々と聖に頭を下げた。

「やだなぁ、伊織君。僕こそ二人にはお礼を言わなきゃ。時間がないのに、無理を言ってごめんね。君たちを見たら、どうしても一緒のステージを作りたくて」

「そんなっ! ありがとうございます! ねっ、一樹!」

「……ああ」

 一樹は気のない返事をすると、入口の扉付近を気にしていた。

「璃玖君のこと、気になる?」

「別に……」

「残念だけど、今日ここには連れてきていないんだ」

「そうですか。まあ俺、璃玖のこと信用しているんで、別に構わないですけど」

「ふーん……。信用ねー。その割には僕のこと、なんだか睨んでいる気がするのは気のせいかな?」

「気のせいじゃないですか?」

「そっか。まぁ、璃玖君とは週末会えるよ。連絡はできないけど」

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