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歓迎会
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ついにこの日がやってきた。
今日はステラの歓迎会だ。
今日の昼過ぎにステラは帰ってくる。
その間に全ての最終チェックを済ませておいた。
使用人達も張り切っているように見える。
特にコック長なんてさっきから行ったり来たり大急ぎだ。
「歓迎会は食事から始まりますからね。リリウム様任せてください!」
と言われた時には感動したものだ。
飾りつけも綺麗にされている。
廊下や部屋なんて塵一つないピカピカ具合だ。
みんな頑張ってくれたんだな。
俺はこっそりと今月の使用人の給料を上げてあげようと考えた。
「リリウム様。ステラ様がもうすぐお帰りになられます。カルウスさんからあと5分ほどで着くとの連絡が入りました。」
「わかった。よし!みんな部屋を真っ暗にしてくれ!」
部屋を真っ暗にするというのは前世から引っ張ってきた俺のアイデアだ。
帰ってきて王宮の俺の住んでるスペースがいつもと違くて真っ暗だったらステラも流石に驚くだろう。
帰ってきた時にお帰りなさいの挨拶もない真っ暗な王宮を歩いて事前に伝えといた部屋の扉を開けるとパッと電気がついて全員で飛び出す作戦である。
万が一ステラに魔法を使われてサプライズが失敗にならないようにと念には念を入れて魔法が使えないようにする結界も魔法の講師にやってもらった。
俺は成功することを願いながら真っ暗になった部屋の定位置に隠れた。
そして5分後、バタバタと走る音が聞こえてきた。
え、なんで走ってるの、と思った瞬間
バンっっ!!!と大きな音が鳴って少し息を切らせたステラが入ってきた。
「ご主人様!!無事ですか!!なぜ王宮が真っ暗にーーー」
その瞬間魔法を妨害する結界が解かれる。
パッと電気がつけられて俺と使用人が飛び出す。
一人一人の手には魔法版クラッカーが握られている。
この世界にも似たようなものがあったのは驚いたが歓迎会には必需品だ。
そしてそれが発動し
パンっという音共に中から魔法の粉が出てヒラヒラとステラの周りに落ちていく。
びっくりしているのか何も言わないステラに俺は悪戯が成功した時のように笑いながら声をかける。
「ステラ!びっくりしたか?」
ステラは無言で近づいてきて俺の体を触った。
「怪我はないですか?ご主人様。」
ペタペタと触られるのがくすぐったくてまた笑ってしまった。
「真っ暗だったから心配したのか?ステラ、今日はちょっと遅いけどステラの歓迎会を計画したんだ!」
「歓迎会、、、。」
「前にご褒美があると言っただろう??」
「私のための歓迎会なのですか?」
「ステラ以外に誰がいるんだ??まあ、とにかくサプライズ成功みたいだな!ほら!ご飯にしよう!コック長が今日は張り切って作ってくれたんだぞ!よし、みんな食べよう。」
今日はお堅い感じにしたくなくてバイキング形式にしたのだ。
使用人達もそれぞれ自分の分をとりに行って談笑をし始めた。
「ほら。ステラ、俺たちも食べるぞ??」
「あぁ、はい。」
ステラはまだ戸惑っているのかなかなか動こうとしない。
俺は無理矢理ステラの腕を引っ張って連れていく。
「ステラは何が好きなんだ?ほら、このハンバーグなんて絶対美味しいやつだぞ!」
するとステラは俺のお皿にすっとハンバーグを置いてくれた。
「あ、ありがとう。あの、俺のじゃなくて、、ステラは何食べるんだ?」
「いえ、実は好きな食べ物がなくて、、迷ってしまって。」
「好きな食べ物がない??」
俺はびっくりしすぎて聞き返してしまった。
「いえ、正確にはあると思うのですが、、。少し事情があって、、食事のおいしさを忘れてしまったと言った方があってるのでしょうか。」
事情というのは祖国のことだろう。
食事中も気が抜けずに食べてきただろうステラが食事の美味しさを忘れてしまっていることはあり得るのかもしれない。
あぁ、俺はなんで馬鹿なんだろう。
そんなことも考えれなかったなんて、、。
後悔で少し泣きそうになりながらも明るく言う。
「そうか、、。じゃあ今日は俺がステラのために特別メニューを組んでやるぞ!」
俺はステラの好きそうなものを想像しながらお皿に乗せていった。
その間に1人の大柄な使用人から声をかけられる。
「リリウム様!何を探しているんですか??このサラダなんて絶品でしたよ!!」
「あ、実はこれステラのなんだ。」
「ステラ様のなんですか?」
「あぁ、好き嫌いがわからないらしいから俺が取ってあげてるんだ。」
オブラートに包みながら答えた。
「そうなんですか?じゃあ俺も選ばせてもらってもいいでしょうか?俺、食事が大好きなんです。おすすめのものがいっぱいありますよ!」
そうやって話していると近くで聞き耳を立てていたのかゾロゾロと使用人達が集まってきた。
「私も!おすすめの物のせますよ!」
「俺にも考えさせてください!」
「みんなありがとう。どうする?ステラ?」
ステラは少し驚いている表情をしていた。
そしてゆっくりと笑うと
「そうですね。みなさんお願いします。」
と答えてくれた。
そしてみんなであれだこれだと言いながらお皿に持っていく。
すぐにお皿がいっぱいになった。
「こんなに食べきれますかね。」
と心配そうな推しの表情が少し素顔が垣間見えたような気がして嬉しくなった。
「大丈夫だ!残したら俺がもらうよ!」
「リリウム様、それははしたないですよ。」
呆れたように後ろからカルウスに突っ込まれた。
こうして俺たちも食べ始めて大人のみんなはお酒が入ってテンションも高くなっていく。
おとなしい性格だと思っていた男の使用人が顔を真っ赤にして変な踊りを踊っている。
それにつられてみんな笑ったり踊ったり好きなようにしていた。
俺は未成年だから飲めないけどみんなが楽しそうなのを見てると嬉しかった。
昔の俺の孤独な心が癒やされた気がした。
ステラも笑ってくれてると良いなと思ってステラを見ると使用人と笑って話しているステラの表情はやっぱりいつもよりか人工的ではないような気がした。
うん、やっぱり歓迎会を開いてよかったなと俺はニコニコとステラを見続けていた。
歓迎会が終わりに近づいてきた。
ステラにプレゼントを渡すためにステラを中庭に呼び出した。
「今日は楽しかったか?」
「はい。私のためにこのような会を開いてくださりありがとうございました。」
「楽しんでくれたならよかった。でも、ステラ、まだ歓迎会は終わってないんだ。
俺、ステラに渡したいものがあるんだ。」
一生懸命練習をした通りに魔法を紡いでいく。
繊細に繊細にコントロールをして俺は何輪かのたんぽぽの花を作り上げた。
たんぽぽの花は俺の魔力を帯びて水色の淡白い光で包まれていた。
「これが俺のプレゼントというか伝えたいものなんだ。受け取ってくれ。」
たんぽぽの花をステラがそっと受け取ってくれた。
たんぽぽがステラの手に触れた瞬間、たんぽぽの花一枚一枚が散り空中にふんわりと飛ぶ。
ここからは俺も操作をしていないステラの記憶に沿って発動された魔法だ。
たんぽぽの花の一枚一枚はある1人の女性と幼い子供を空中に浮かび上がらせた。
きっとステラのお母さんと幼い日のステラだろう。
ステラの目が驚愕に開かれる。
ここまで感情を表すのを俺は初めて見た。
女性が幼い子供に向かって話し始める。
「こら、ステラ。またお母さんのベッドに潜り込んで。1人で寝れるって約束したじゃない。」
「母上、、。そうだけど、。」
「あぁ、もうわかったわ。また、ウィークの部屋に行って怖い話を聞いて眠れなくなったんでしょ。」
涙目の幼いステラが答える。
「違う、、母上。お化けが廊下に立ってるって兄上が言うんだ。だから母上を守ろうと思って、、。」
「ふふっ。わかったわ。今日は一緒に寝ましょうね。おやすみなさい。ステラ。」
女性の子守唄に合わせてステラの瞼が閉じていく。
「ステラごめんなさいね。」
女性が少し寂しそうに言った。
たんぽぽの花びらが綿毛に変わっていく。
それと同時に女性と子供の姿が崩れていく。
ステラを見ると真っ直ぐとその光景を見つめていた。
だけど俺の予想とは違ってその瞳の
“寂しい”という感情は今まで以上に濃くなってしまっていた。
俺は焦った。なぜなんだ。制御魔法をしっかりしたつもりなのに。
これで寂しいと訴えるステラの目を変えることができると思っていたのに。
俺が焦っているとステラは静かに俺に近づいてきた。
「ご主人様。これはどういうことですか。」
その顔はいつもとは違って真顔だった。
「なぜあなたが私の母上を知っているのですか。なぜあなたがこの思い出をここまで知っているのですか?」
だんだんと問い詰められていく。
きっとステラはあの映像を俺が作り上げたのだと思っているのだろう。
問い詰められて最終的には植えられていた木にぶつかってしまった。
もう逃げ場がないと思わせるくらいステラの目は暗かった。
だけどその目は動揺を隠せないようにゆらゆらと動いていた。
「ステラ。よく聞いてくれ。これは俺が見せたわけじゃない。触れた人の優しい記憶を思い出すような魔法を創作したんだ。だからこれはステラが自分で思い出したものなんだ。」
「私の優しい思い出、、、??私にはこれが優しい思い出などとは思えない。あなたにはわからないだろうが、母上は私のせいでっ!!!、、、、。こんな思い出、思い出したくなかった。」
俺はそっとステラの頬を掴んだ。
ハッとステラが気づいたように目を見開く。
「ステラ、そこまでだ。」
ステラが自嘲するかのように笑う。
「すいません、、。」
「違う。そこまでだ。その目をするのは。お願いだからしないでくれ。そんな”寂しい”という目を。」
「寂しい、、、目?」
「ステラはよくしているぞ。俺はそんな目をステラにして欲しくない。なぜたんぽぽを選んだかわかるか?たんぽぽの花言葉は幸せとか真心の愛とかがあるらしい。俺はステラに幸せにになってほしい。それが俺の真心なんだ。俺もかつては孤独だった。だからわかるんだ。その目をしている時はとても辛いんだ。だからステラお願いだから寂しい目をしないで、、。」
言っているうちに俺は泣き出してしまう。
「なぜあなたが泣くんですか。」
「わ、わからない。だけど涙が出てくるんだ。ステラにはきっとこれから、大切な人がどんどんできると思う。いやできる。俺はそうなって欲しい。」
「、、、、。大事な人などいらないです。大事な人はいつか必ず去っていきます。私の母上も兄上達も去っていきました。大事な人など、、いなくて良いんです。私のそばにずっといてくれる人などいないんですよ。」
ステラの目がまた暗くなってしまった。
「じゃあ俺がなる!ステラ、俺がステラとずっと一緒にいる。だから安心してくれ。ステラの大事な人に俺がなれるかはわからないけど、、。ステラの大事な人じゃなくても俺は絶対ずっとそばにいるから。」
専属奴隷契約とか、円満契約解除のこととか全て忘れて俺は反射的に答えていた。
ステラの目から涙がこぼれだした。
「なぜそんなことが言えるのですか、、。絶対などこの世に存在はしないのに、、。」
「ステラ見ていてくれ。」
俺はまた魔法を使った。もう綿毛になって散っていたたんぽぽの花を集めていく。
そして母親をもう一度作り上げた。
「ステラ。魔法石のことを覚えているか。あれは偽物だと言っていたが俺は本当だった。俺はステラにずっと会いたかった。だからもしステラのもう一度会いたいけど会えない人がこの人だというのなら、、。どうだろうか。俺が何度もこうやって会わせてあげる。本物じゃないけど、、。思い出すことはできるだろう?」
「母上、、、。」
泣き出したステラは年相応の15歳の青年だった。
俺はステラに駆け寄って抱きしめた。
ステラも遠慮がちにそっと抱きしめ返してくれた。
俺たちはお互い泣いていた。
俺はステラの目を見た。
その目はもう寂しいというものを克服し始めているような目だった。
俺はその目を見て安心した。
そして安心しすぎたのかブツリと視界が途切れてしまった。
眠ってしまった少年の体を美しい奴隷の青年はずっと抱きしめていた。
奴隷のルビーの瞳は細められていた。
その瞳の奥の感情に気づくことはなく少年は眠っていた。
今日はステラの歓迎会だ。
今日の昼過ぎにステラは帰ってくる。
その間に全ての最終チェックを済ませておいた。
使用人達も張り切っているように見える。
特にコック長なんてさっきから行ったり来たり大急ぎだ。
「歓迎会は食事から始まりますからね。リリウム様任せてください!」
と言われた時には感動したものだ。
飾りつけも綺麗にされている。
廊下や部屋なんて塵一つないピカピカ具合だ。
みんな頑張ってくれたんだな。
俺はこっそりと今月の使用人の給料を上げてあげようと考えた。
「リリウム様。ステラ様がもうすぐお帰りになられます。カルウスさんからあと5分ほどで着くとの連絡が入りました。」
「わかった。よし!みんな部屋を真っ暗にしてくれ!」
部屋を真っ暗にするというのは前世から引っ張ってきた俺のアイデアだ。
帰ってきて王宮の俺の住んでるスペースがいつもと違くて真っ暗だったらステラも流石に驚くだろう。
帰ってきた時にお帰りなさいの挨拶もない真っ暗な王宮を歩いて事前に伝えといた部屋の扉を開けるとパッと電気がついて全員で飛び出す作戦である。
万が一ステラに魔法を使われてサプライズが失敗にならないようにと念には念を入れて魔法が使えないようにする結界も魔法の講師にやってもらった。
俺は成功することを願いながら真っ暗になった部屋の定位置に隠れた。
そして5分後、バタバタと走る音が聞こえてきた。
え、なんで走ってるの、と思った瞬間
バンっっ!!!と大きな音が鳴って少し息を切らせたステラが入ってきた。
「ご主人様!!無事ですか!!なぜ王宮が真っ暗にーーー」
その瞬間魔法を妨害する結界が解かれる。
パッと電気がつけられて俺と使用人が飛び出す。
一人一人の手には魔法版クラッカーが握られている。
この世界にも似たようなものがあったのは驚いたが歓迎会には必需品だ。
そしてそれが発動し
パンっという音共に中から魔法の粉が出てヒラヒラとステラの周りに落ちていく。
びっくりしているのか何も言わないステラに俺は悪戯が成功した時のように笑いながら声をかける。
「ステラ!びっくりしたか?」
ステラは無言で近づいてきて俺の体を触った。
「怪我はないですか?ご主人様。」
ペタペタと触られるのがくすぐったくてまた笑ってしまった。
「真っ暗だったから心配したのか?ステラ、今日はちょっと遅いけどステラの歓迎会を計画したんだ!」
「歓迎会、、、。」
「前にご褒美があると言っただろう??」
「私のための歓迎会なのですか?」
「ステラ以外に誰がいるんだ??まあ、とにかくサプライズ成功みたいだな!ほら!ご飯にしよう!コック長が今日は張り切って作ってくれたんだぞ!よし、みんな食べよう。」
今日はお堅い感じにしたくなくてバイキング形式にしたのだ。
使用人達もそれぞれ自分の分をとりに行って談笑をし始めた。
「ほら。ステラ、俺たちも食べるぞ??」
「あぁ、はい。」
ステラはまだ戸惑っているのかなかなか動こうとしない。
俺は無理矢理ステラの腕を引っ張って連れていく。
「ステラは何が好きなんだ?ほら、このハンバーグなんて絶対美味しいやつだぞ!」
するとステラは俺のお皿にすっとハンバーグを置いてくれた。
「あ、ありがとう。あの、俺のじゃなくて、、ステラは何食べるんだ?」
「いえ、実は好きな食べ物がなくて、、迷ってしまって。」
「好きな食べ物がない??」
俺はびっくりしすぎて聞き返してしまった。
「いえ、正確にはあると思うのですが、、。少し事情があって、、食事のおいしさを忘れてしまったと言った方があってるのでしょうか。」
事情というのは祖国のことだろう。
食事中も気が抜けずに食べてきただろうステラが食事の美味しさを忘れてしまっていることはあり得るのかもしれない。
あぁ、俺はなんで馬鹿なんだろう。
そんなことも考えれなかったなんて、、。
後悔で少し泣きそうになりながらも明るく言う。
「そうか、、。じゃあ今日は俺がステラのために特別メニューを組んでやるぞ!」
俺はステラの好きそうなものを想像しながらお皿に乗せていった。
その間に1人の大柄な使用人から声をかけられる。
「リリウム様!何を探しているんですか??このサラダなんて絶品でしたよ!!」
「あ、実はこれステラのなんだ。」
「ステラ様のなんですか?」
「あぁ、好き嫌いがわからないらしいから俺が取ってあげてるんだ。」
オブラートに包みながら答えた。
「そうなんですか?じゃあ俺も選ばせてもらってもいいでしょうか?俺、食事が大好きなんです。おすすめのものがいっぱいありますよ!」
そうやって話していると近くで聞き耳を立てていたのかゾロゾロと使用人達が集まってきた。
「私も!おすすめの物のせますよ!」
「俺にも考えさせてください!」
「みんなありがとう。どうする?ステラ?」
ステラは少し驚いている表情をしていた。
そしてゆっくりと笑うと
「そうですね。みなさんお願いします。」
と答えてくれた。
そしてみんなであれだこれだと言いながらお皿に持っていく。
すぐにお皿がいっぱいになった。
「こんなに食べきれますかね。」
と心配そうな推しの表情が少し素顔が垣間見えたような気がして嬉しくなった。
「大丈夫だ!残したら俺がもらうよ!」
「リリウム様、それははしたないですよ。」
呆れたように後ろからカルウスに突っ込まれた。
こうして俺たちも食べ始めて大人のみんなはお酒が入ってテンションも高くなっていく。
おとなしい性格だと思っていた男の使用人が顔を真っ赤にして変な踊りを踊っている。
それにつられてみんな笑ったり踊ったり好きなようにしていた。
俺は未成年だから飲めないけどみんなが楽しそうなのを見てると嬉しかった。
昔の俺の孤独な心が癒やされた気がした。
ステラも笑ってくれてると良いなと思ってステラを見ると使用人と笑って話しているステラの表情はやっぱりいつもよりか人工的ではないような気がした。
うん、やっぱり歓迎会を開いてよかったなと俺はニコニコとステラを見続けていた。
歓迎会が終わりに近づいてきた。
ステラにプレゼントを渡すためにステラを中庭に呼び出した。
「今日は楽しかったか?」
「はい。私のためにこのような会を開いてくださりありがとうございました。」
「楽しんでくれたならよかった。でも、ステラ、まだ歓迎会は終わってないんだ。
俺、ステラに渡したいものがあるんだ。」
一生懸命練習をした通りに魔法を紡いでいく。
繊細に繊細にコントロールをして俺は何輪かのたんぽぽの花を作り上げた。
たんぽぽの花は俺の魔力を帯びて水色の淡白い光で包まれていた。
「これが俺のプレゼントというか伝えたいものなんだ。受け取ってくれ。」
たんぽぽの花をステラがそっと受け取ってくれた。
たんぽぽがステラの手に触れた瞬間、たんぽぽの花一枚一枚が散り空中にふんわりと飛ぶ。
ここからは俺も操作をしていないステラの記憶に沿って発動された魔法だ。
たんぽぽの花の一枚一枚はある1人の女性と幼い子供を空中に浮かび上がらせた。
きっとステラのお母さんと幼い日のステラだろう。
ステラの目が驚愕に開かれる。
ここまで感情を表すのを俺は初めて見た。
女性が幼い子供に向かって話し始める。
「こら、ステラ。またお母さんのベッドに潜り込んで。1人で寝れるって約束したじゃない。」
「母上、、。そうだけど、。」
「あぁ、もうわかったわ。また、ウィークの部屋に行って怖い話を聞いて眠れなくなったんでしょ。」
涙目の幼いステラが答える。
「違う、、母上。お化けが廊下に立ってるって兄上が言うんだ。だから母上を守ろうと思って、、。」
「ふふっ。わかったわ。今日は一緒に寝ましょうね。おやすみなさい。ステラ。」
女性の子守唄に合わせてステラの瞼が閉じていく。
「ステラごめんなさいね。」
女性が少し寂しそうに言った。
たんぽぽの花びらが綿毛に変わっていく。
それと同時に女性と子供の姿が崩れていく。
ステラを見ると真っ直ぐとその光景を見つめていた。
だけど俺の予想とは違ってその瞳の
“寂しい”という感情は今まで以上に濃くなってしまっていた。
俺は焦った。なぜなんだ。制御魔法をしっかりしたつもりなのに。
これで寂しいと訴えるステラの目を変えることができると思っていたのに。
俺が焦っているとステラは静かに俺に近づいてきた。
「ご主人様。これはどういうことですか。」
その顔はいつもとは違って真顔だった。
「なぜあなたが私の母上を知っているのですか。なぜあなたがこの思い出をここまで知っているのですか?」
だんだんと問い詰められていく。
きっとステラはあの映像を俺が作り上げたのだと思っているのだろう。
問い詰められて最終的には植えられていた木にぶつかってしまった。
もう逃げ場がないと思わせるくらいステラの目は暗かった。
だけどその目は動揺を隠せないようにゆらゆらと動いていた。
「ステラ。よく聞いてくれ。これは俺が見せたわけじゃない。触れた人の優しい記憶を思い出すような魔法を創作したんだ。だからこれはステラが自分で思い出したものなんだ。」
「私の優しい思い出、、、??私にはこれが優しい思い出などとは思えない。あなたにはわからないだろうが、母上は私のせいでっ!!!、、、、。こんな思い出、思い出したくなかった。」
俺はそっとステラの頬を掴んだ。
ハッとステラが気づいたように目を見開く。
「ステラ、そこまでだ。」
ステラが自嘲するかのように笑う。
「すいません、、。」
「違う。そこまでだ。その目をするのは。お願いだからしないでくれ。そんな”寂しい”という目を。」
「寂しい、、、目?」
「ステラはよくしているぞ。俺はそんな目をステラにして欲しくない。なぜたんぽぽを選んだかわかるか?たんぽぽの花言葉は幸せとか真心の愛とかがあるらしい。俺はステラに幸せにになってほしい。それが俺の真心なんだ。俺もかつては孤独だった。だからわかるんだ。その目をしている時はとても辛いんだ。だからステラお願いだから寂しい目をしないで、、。」
言っているうちに俺は泣き出してしまう。
「なぜあなたが泣くんですか。」
「わ、わからない。だけど涙が出てくるんだ。ステラにはきっとこれから、大切な人がどんどんできると思う。いやできる。俺はそうなって欲しい。」
「、、、、。大事な人などいらないです。大事な人はいつか必ず去っていきます。私の母上も兄上達も去っていきました。大事な人など、、いなくて良いんです。私のそばにずっといてくれる人などいないんですよ。」
ステラの目がまた暗くなってしまった。
「じゃあ俺がなる!ステラ、俺がステラとずっと一緒にいる。だから安心してくれ。ステラの大事な人に俺がなれるかはわからないけど、、。ステラの大事な人じゃなくても俺は絶対ずっとそばにいるから。」
専属奴隷契約とか、円満契約解除のこととか全て忘れて俺は反射的に答えていた。
ステラの目から涙がこぼれだした。
「なぜそんなことが言えるのですか、、。絶対などこの世に存在はしないのに、、。」
「ステラ見ていてくれ。」
俺はまた魔法を使った。もう綿毛になって散っていたたんぽぽの花を集めていく。
そして母親をもう一度作り上げた。
「ステラ。魔法石のことを覚えているか。あれは偽物だと言っていたが俺は本当だった。俺はステラにずっと会いたかった。だからもしステラのもう一度会いたいけど会えない人がこの人だというのなら、、。どうだろうか。俺が何度もこうやって会わせてあげる。本物じゃないけど、、。思い出すことはできるだろう?」
「母上、、、。」
泣き出したステラは年相応の15歳の青年だった。
俺はステラに駆け寄って抱きしめた。
ステラも遠慮がちにそっと抱きしめ返してくれた。
俺たちはお互い泣いていた。
俺はステラの目を見た。
その目はもう寂しいというものを克服し始めているような目だった。
俺はその目を見て安心した。
そして安心しすぎたのかブツリと視界が途切れてしまった。
眠ってしまった少年の体を美しい奴隷の青年はずっと抱きしめていた。
奴隷のルビーの瞳は細められていた。
その瞳の奥の感情に気づくことはなく少年は眠っていた。
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