中年中太り成金アロハシャツおじさんを地獄の底へ叩き落とす所から始まる異世界転移物語

トムボーイ

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第七章 怨敵との再会

カウントダウン

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 ジョンは剣を持った相手に対して素手で挑む
普通の人間ならこんな戦いはしないがジョンは普通ではない

「お前の動きはさっきの避け方で読めた。お前はそこまで速くない、それに剣技もお粗末、相手じゃない」

ジョンは剣士を挑発するが剣士は無反応

「おいおい、もしかしてこいつもお人形か?」
「姉さん……」

ジョンはゆっくりと剣士に近付く

「……」

ジョンが近づいても一切反応を見せない剣士
そしてお互い射程距離圏内に入る
先に動いたのは剣士、剣を振り上げ振り下ろす。それをジョンは両手で挟み、雄叫びを上げる

「うおおおおお!!」

叩き折る
そしてジョンは攻撃に転向する、プレートを外し裸になった顔に一発拳を叩き込む

「!?」

しかし剣士も殴られたぐらいでは引かない、その一撃を耐えたのだ。
剣士の鼻からは血が流れるがそんな事など気にせず折れた剣を上へ振る、それを間一髪、仰け反り避けるジョン
ジョンはさっきの一撃で剣士を沈めるつもりだったが目論見は失敗

(こいつ、痛みを感じていないな……だからあんなに速く反撃が出来た。こいつは手加減してたら倒せねぇ)

もう手段は選ばないと決めたジョン、まず最初に剣を持つ方の右腕をへし折る、これには流石の剣士も剣を落とす。
剣は落とすが左手で反撃を始める、それを受け止め左腕も折る
それを涙目で見守るライラだったが堪え切れず

「もう止めて!!」

ライラがジョン達に近付くがジョンに蹴飛ばされる

「俺は最初に言ったハズだぜ? 死ぬより惨めな事になるかもなってな……だからそうする」
「嫌だ! その人は私のお姉ちゃんなんだよ!?」

ライラの言葉は何処か子供を感じさせる拙さを帯びている

「知るかよ」

それを殺人鬼が冷たい一言で返す。
そして剣士にはまだ足二本が残っている

「まだやるか? どうする? もし襲って来たらその二本も無くす事になるが……選べ」

返答代わりの蹴りがジョンを襲うがそれも簡単に受け止められ……折られる

「あと一本だ。俺に勝てる最後の”可能性”だからな、よく考えて振れよ」

剣士はもう戦える状態では無いがジョンは念には念を入れるタイプ、四肢を全て折り完全勝利と考える
ライラがジョンを止める為にジョンの右足にしがみ付く
それを冷めた目で見下すジョン

「ライラ、姉を助けたいか?」

涙でクシャクシャになった顔でジョンを見上げるライラ
そして黙って何度も頷く

「じゃあ考えろ、どうやってこいつをこれ以上傷つけずに無効化する? 俺が納得する打開策を考えろ、時間は一分くれてやる、時間を過ぎれば最後の一本も折る」
「そ、そんな……」
「そんな事言っている間に十秒経過したぜ?」

ライラは必死に考えるが何も浮かび上がらない、あれもダメこれもダメと考える内に五十秒経過する
残り十秒、ジョンがカウントダウンを始める

「十」
「ま、まって!」「九」
「八」
「分からないよ!!」「七」「六」
「五」
「いやだ!」「四」
「三」
「二」
「一」

零と言う代わりに骨の折れる音が通路に木霊する

 ジョンの隣で泣きじゃくるライラ
それを呆れ顔で見るジョン

「何時までも泣いてるなよ……」
「だって……だって……」

非難の視線をジョンに送るライラ
ライラは自分の姉の四肢を全て折った男を非難する

「こいつは手足が使えたら何しでかすか分からんだろ? 今だって俺に嚙みつこうとして必死なんだぜ? こんな闘争心の塊みたいな女に手足は危険だから折ったんだ」

ジョンの肩で暴れる元剣士、口には口が閉じない為に猿ぐつわの様にタオルがかまされている

「こうして生きているんだから、プラスに考えろよ」
「考えられないわよ!」
「あっそ、勝手にしな」

ジョンがそう冷たくあしらうとライラは不満げに俯く

「それよりお前の姉妹は全員死んだと聞いたぜ? 何故生きてる?」
「分からないわ、確かに私の目の前で息を引き取ったハズなのに……」
「こいつも何かに操られているのは間違いないぜ、噂のラライクの糸の仕業だと思うか?」
「多分そうだと思う……姉さんはあの糸に操られているんだと思うわ」
「なるほどね、で、その糸は何処に有るんだ?」
「……貴方あの糸を悪用しない? 約束出来る?」
「どうだろうな? どう思う?」
「私の直感では貴方はあの糸を使ってとんでもない事をしそうだわ……」
「俺もそう思う、その糸を利用して国家転覆なんて事をするかもしれないな」

ライラはそのジョンの言葉を冗談では無く、本気と受け取る

「でも俺が国家転覆しようが何しようがお前とお前の姉には関係ないだろ? 俺が糸を悪用するとしても、お前達に危害を加える様な事はしないと約束する、どうだ?」

ライラの欲しかった約束は”糸を悪用しない”という約束だったが、ジョンは全く違う事を約束する
お前達には危害を加えない
ライラはジョンが思う様に動いてくれない苛立ちと共に溜息を吐く
そして溜息を吐き、落ち着いた頃に考える
確かに何処の国が滅びようが征服されようが生い先の短い私達には関係が無いと、それにジョンを連れて行けば大きな戦力になる、この先どんな障害が待ち受けているかも分からない……なら答えは一つ

「分かったわ、一緒に行きましょう、姉さんを助けてくれたら糸はあげる」
「契約成立だな、行こう」

いつの間にかにライラも子供のあどけなさを無くし冷静な女性に戻っている
そしてジョンが一歩前に足を歩みだした時、大きな地響きが訪れる

「何、どうしたの!?」

驚きの声を上げるライラ

「後ろから来るぞ! この振動から察するにこいつはさっきのでくの坊だ!」

でくの坊とは人間の型を取った大きな砂人形の事

「しかも、一体じゃない……数体居るぜ」
「勝てるの?」
「馬鹿言うな! 逃げるぞ!!」

そう言うとジョンはライラを担ぎ上げ走り出す。前へ

「両手に花……なんて言ってる場合じゃねぇな」

右肩にはライラの姉、左肩にはライラを担ぎ、ジョンは走る

「そこの通路、右行って!」

ライラはジョンに担ぎ上げられながらも道案内をする

「左! 右! 真ん中!!」

逃げても逃げても後ろからの音が止まない

「アイツ等、走っているな……走れるとは聞いてないぜ」
「右!」

遺跡は迷路の様に入り組んでいる
そしてジョン達が右、左、右、真ん中、右の順に通路を進み暫くした時、ジョンが走行を止める

「どうしたの?」
「……足音が前からも聞こえる」
「え……?」

ライラが耳を傾けると確かにジョンの言った通り前からも足音が鳴っている

「引き返しましょう」
「残念ながらそっちも手遅れ」

後ろからも聞こえる

「やられた。俺達は挟まれたんだ」
「な、何か手は無いの?」
「左手と右手しかないな……つまり、かなりヤバイって事だ。かなりな」
「本当に……?」
「マジだ」

 自分たちの命のカウントダウンを数えるライラ
奴等の足音はどんどんと近付いて来る、しかしまだ姿は見えない

(どうする? 戦うしかないか……? 別の手段は無いのか? 本当に?)

ライラが命のカウントダウンを数えている横でジョンは生き残る為の術を冷や汗をかきながら考えている
そして未だにジョンの肩で暴れているライラの姉、そこでライラが閃く

「貴方なら何とか勝てるんじゃないの!?」
「お前等を置いて行くならどうにかなるかもな」

でくの坊達の姿が露わになる、ジョンの言った通り前後からそして複数
走って来る、でくの坊たちかなりの迫力にライラが恐怖で涙目になってしまう
ジョンは辺りを見渡す。暗く狭い通路しかし使えそうな物は存在しない
戦う覚悟を決めたジョンはライラとその姉を下ろし透明の短剣と普通の短剣を取り出し二刀の構え

「大丈夫なの?」
「んな訳ないだろ、まぁやれるだけやるだけさ」

でくの坊達はジョン達に近付くと走るのを止め歩きに変わる、ジリジリと距離を縮められる

「けっ悪趣味なこったぜ……俺達をなぶり殺しにするつもりか?」

ドン……ドン……と奴らがやって来る

「お姉ちゃん……」

死を覚悟したライラがすがるように暴れる姉に抱きつく
ジョンは前と後ろから来るでくの坊たちを警戒しつつ思考を巡らす。勝つ為に生き残る為に

(こいつらは足を斬れば何とか無効化する事が出来る……が今回は数が多すぎる、こいつらの攻撃を全部避けきるのは至難、此処はクローン研究所どんな事があっても誰が侵入して来ても良い様に常に完璧な警備体制って事か、恐れ入ったね……ん? 待てよ? こいつらは此処を護る為に作られたんだよな? 此処を……クローン研究所を……クローンを……クローン?)

ジョンは閃く今この最悪の状況を打開するかもしれない唯一の策を

「ライラ! 立て!」

ジョンのその呼びかけに応え急ぎ立ち上がるライラ

「お前もだ!」

ジョンはライラの姉を掴み強制的にライラの姉の身体をおぶり自分の身体に纏う、自分を隠すように……

「な、何をしているの?」

そんな光景を見てライラは当然驚き困惑する

「ライラお前は前から俺を包め」

そんなライラなどお構いなしにジョンはライラにそう命令する

「どうしてよ!」
「いいから速くしろ! お前達の身体で俺を隠すんだ!」

ライラは一瞬悩もうとしたが悩んでいる状況では無いと思い出し、ジョンに言われたと通りジョンを隠す様にジョンに抱きつく

「は、恥ずかしいわ……! 何よこれ、こんな姿勢で殺されたらとんでもない間抜けじゃないのよ!」
「俺だってこんなのは御免だがこれしかないんだ。我慢しろ」

でくの坊たちはすぐ目の前に迫る、もう駄目だ! と目を瞑るライラ
そしてでくの坊たちは手を振り上げ……止まる、止まる
何故かでくの坊たちは動かなくなってしまった。
ライラは暫く後に目を開きその状況を目の当たりにする

「ど、どういうこと?」
「ふぅ……何とかなったな」
「説明してよ!」
「こいつらは此処を護る為に作られた人形なんだろ? ならその護る対象であろうクローンを攻撃しない様に出来ているんじゃないのか? と思ってな、実践してみたんだ。そしてそれが大当たり」
「そ、それで私達の身体で自分を隠せと言ったの?」
「その通り、こうやってやれば不器用なこいつらじゃお前等を退けて俺を攻撃出来ないだろ? 先に行くぞ、此処に居たら息が詰まりそうだ」

ジョンはライラとその姉に包まれながら中腰ででくの坊たちの間を縫って先を行く、傍から見ればとんでもなく間抜けな絵面に映るだろう……しかし本人達は生き残る為に必死なのだった。

 「ひゃっ!?」

ジョンの顔がライラの腹部に当たり悲鳴を上げるライラ

「腹に当たっただけだろうが変な声を出すなよ」
「だ、だって……」

顔を赤くするライラ

「ほら止まってないで進め進め」
「分かったわよ……」

色々と言いたい事があるが渋々とジョンの命令に従う
でくの坊たちはジョン達の後をついてくる、攻撃したいがジョンの身体の周りには守るべきクローンが張り付いているので攻撃できない上でくの坊たちはクローンだけを傷つけず退かせる程の器用さを持ち合わせていなかった。

「気が抜けねぇな、少しでも油断したら奴等が攻撃してくるぜ」
「分かってるわ……」

ゆっくりと前へ前進して行くジョン達

「こんな調子で糸の元まで着くのか?」
「大丈夫、もうすぐよ……」
「ならいいんだがな」

ジョン達が道を進んでいると通路の横に扉が見える

「そこの扉よ」

とライラがその扉に手は使えないので視線を送る

「とっとと入ろうぜ」

ジョン達が扉の前まで着くとジョンがライラの両脇からニョキッと両腕を伸ばし扉を開く
そして扉を潜る三人
でくの坊たちが入ってくる前に扉を急ぎ閉めるジョン
ジョンはでくの坊たちがこの扉を破壊しようとこの扉を攻撃するかと予想したがでくの坊たちは何もして来なかった。

「何とか助かったみたいだな……」
「そうみたいね……」

ライラはそう言うとヘロヘロ……と足の筋肉が動かなくなったかの様に地面に座り込んでしまう

「おいおい、大丈夫かよ、生きてるか?」
「大丈夫よ……緊張が解けて気が抜けただけよ」
「それで? この部屋に噂の糸があるのか?」
「えぇ……」

ライラは眠そうにウトウトとし始める

「お前、本当に大丈夫か? 気が抜けたって言ったって抜け過ぎだぜ、まだ危険なのは変わりないんだからな?」
「だいじょうぶ……」

そう言い終わったと同時にライラはクタッと眠ってしまう
そんなライラを見てジョンは何やら嫌な予感を感じる

「おい! ライラ! 起きろ!!」

ライラを揺すりながら大声で呼び掛けるが反応なし

(睡眠薬でも盛られたかのような眠り方だな……)

ジョンはライラが生理現象で眠ったのではなく誰かに強制的に眠らされたのでは? という憶測を立てる
ライラの隣を見るとライラの姉も眠っている

(この部屋に睡眠ガスでも充満しているのか? いやそれなら俺も今頃おねむのハズ……だが俺は眠くない、どうなってる?)

ジョンは部屋をザッと見渡す。
部屋は正方形で扉は今入って来た扉だけ、そして部屋の中にはものが一切置かれていなかった。
もぬけの殻、糸らしき物も見当たらなかったのである
そして部屋の外にはでくの坊たちが待って居るので外に出る事は出来ない

「どうしろってんだ?」

 何も置いていない部屋でただ一人呆然と立ち尽くす男、ジョン
部屋には数十体の砂人形が待ち受けている
ジョンの足元には二人の女性がスウスウと気持ちよさそうに眠っている、それを睨むジョン

「全く、俺も眠って居たかったぜ」

そう悪態を付きながら部屋の捜索を始める
しかし部屋を一周しても何か目ぼしいものは発見されなかった。

(これは不味くないか? 糸を発見できればもしかしたら、外のでくの坊達を何とか出来るかもしれねぇが、見つからないんじゃどうする事も出来ない)

脳をシェイクするかの様に頭を掻くジョン

(だがこの部屋には何かあるハズだ。でなきゃこいつらが眠っちまった説明が付かない、必ず見つけ出す)

と決心するジョンだが今の所これといった打開策は思い付いていない

「糸と言っていたからな……小さくて俺が気が付いていないだけか? いや糸の一本も落ちていないな……早く起きてくれないか? 困ってるんだからよ」

ライラはジョンの問いかけには答えないで静かな寝息を立てている

「全く……何でこんな事になっちまったんだがな……」

ジョンは少し前まで”復讐”の為にあちこち飛び回っていたのだ。飛行機を使って車を使って時には船、時にはバイク、ヘリコプター
しかしこの世界にはジョンにとって当たり前だったそんな移動手段も存在していない、在るのは馬車それに”ワープ”
この世界の技術レベルはジョンの世界よりも低いがその代わりに魔法が存在している、ジョンはそんな世界にいつの間にかに飛ばされ閉じ込められてしまった。
挙句の果てに今は命の危機に陥っている「何でこんな事になってしまったんだ?」とジョンが嘆くのも無理はないのかもしれない

(この部屋に糸? 本当に在るのか? いや違うな……考え方を変えよう、糸を隠すなら何処に隠す?)

そう思ったジョンは床を見る、床はタイル状になっており、正方形が幾つも並んでいる、そしてその正方形と正方形の間には僅かな隙間が開いている
ジョンが注目したのはその隙間、僅かな隙間だが細い糸なら簡単に入れる事が出来るだろう

ジョンはしゃがみ隙間を調査する
目視では糸は確認出来ないので手で触れてみる、隙間はギリギリ指一本が入るぐらいの幅がある
すると眼には何も見えないが手には確かに何かの感触がある
そしてそれを指に引っ掛けて持ち上げる、それはさっきまで確かに目に見えなかったがジョンが手を振れた瞬間、姿を現す。
それは紛れもない糸である、それも赤色の糸、それが床の隙間中に張り巡らされていたのだ。

「これが? これがそんな強力な物に見えないが……」

見た目だけならただの糸、何も知らない者ならそう思って捨ててしまうだろう
そして次の瞬間その糸が自動的に巻き戻り、毛糸の様に丸い塊になる
そして地響きが起こる、でくの坊たちが起こしていたものとは比にならない程の大きさの地響きである

「お、おいおい……何だ? 何が起きている?」

天井の石天井が崩れ始める

「ゲッ!? マジかよ!?」

ジョンは急ぎライラとその姉を担ぎ、部屋の外に出ようとするが何故か開かない
ジョンは二人を担いだまま扉にタックルをする、一度では開かない、二度三度目でようやく扉が開く
何故扉が開かなかったのか? 何故なら扉の前に砂が散乱していたからである、それが扉に引っ掛かって扉が開かなかった。そしてその砂はでくの坊たちの身体を構成していた砂である
しかし今のジョンにそんな事関係無い

左と右を確認するジョン、どちらに進むか?
ジョン達が来た道は右側なのでジョンは左に進む
崩壊は止まらない、天井が崩れ始め、進めない道もある、落ちて来る石欠を避けながら全力で走っているジョン

「ヤベェ!! おい!! まだ起きないのか!?」

ジョンはそうライラに叫ぶ

「え、ふぇ? あ、おはようございます……」

必死の形相のジョンとは対照的にライラの表情は寝起きで非常に間抜けな顔をしている

「!?」

しかし今の異常な事態を目の当たりにして眠気も吹き飛ぶ

「な、何ですか!? 一体何が起きてるんですか!?」
「ご覧の通りだ! この遺跡は崩壊し始めている! 出口を教えてくれないか!?」
「え……そんな事言われても……」

ライラは此処まで眠って居たのだ。なので今の地点が分かる訳がない

「運任せに進むしかないのかよ……勘弁してくれ」
「ごめんなさい……」
「何かあるハズだ。この通路に見覚えは無いか? 何か特徴的な物とか無いか? 通路の壁にある傷で見分けるんだ!」
「そんな……無茶言わないでよ……」
「二十九年間過ごしたんだろ?」
「だからって壁の識別なんて出来ないわよ!」
「そりゃ残念だな!」

ジョンは半分ヤケクソ気味になっている

「どうしてこんな事になってしまったんですか!?」
「さぁな! 糸を発見して触った途端にこうなった! だが今は関係ないだろ? 今は生きる為に脱出法を考えろ!」
「そ、そうですね……糸は手に入れたんですか?」
「あぁ、ポッケに入れてある」
「じゃあそれでこの辺りの砂や瓦礫を操作してください! そうすれば……」

ジョンの頭には糸を使うという発想がなかった。何故なら、ジョンは糸の使い方を知らないからである

「どうやってこの糸を使うんだ?」
「まずはその糸に自分の魔力を流し込んで下さい!」
「出来ない」
「え?」
「そんな事は出来ないっと言ったんだ!」
「え!? 貴方もしかして魔法を習った事ないんですか!? あんなに戦闘上手だったのに?」

この世界で戦闘のプロというのは武術と魔術を兼ね備えた者を指す。
何故なら当然自分の武術だけを頼るよりも魔術にも頼った方が強いからだ。
だがジョンには魔力が無いので魔術が使えない、だからこの世界の戦闘においてジョンは圧倒的不利だが今まではそれをジョンの武術で叩き潰していた。

「人には色々事情があるんだ。気にすんな」

誤魔化すジョン、異世界の事を話すと話が長くなるからだ。

「お前がやれ」

ジョンは糸を取り出しライラを下ろす。
そしてライラに糸を渡す。

「頼むぜ」
「わ、分かりました……」

ライラは目を瞑り糸に魔力を流し始める、丸い玉になったその糸がその魔力に反応し糸が自動的にその玉から糸が一本の伸びて素早く天井まで伸び天井に突き刺さり
そこの地帯の崩壊だけが止まる

「な、なんとかなりましたね……」
「……死ぬかと思ったぜ」

 何とか天井の崩壊を防げたジョン達だったがまだ安心は出来ない、何故なら崩壊が防げたのはジョン達が居る付近だけで他の場所は未だに崩壊が止まっていない

「少し考える時間ぐらいは稼げたみたいだな……」
「え、えぇ、そうね」
「お前じゃ此処の遺跡の全ての砂を操作する事は出来ないのか?」
「えぇ……今の私の魔力では出来ないわ」
「……このままじゃどの道俺達も生き埋めだ。何か手を考えないと不味いぜ」
「大丈夫よ、崩れてもこの糸さえあればこじ開けれるわ」
「マジかよ、すげぇ糸だな」
「それはそうよ、神様の作った魔具なのだもの」
「じゃあ、”俺達”は安全という事だな?」
「えぇ、まぁそうなるわね」
「そうか……」

ジョン達の命はひとまず安心しかしジョンには懸念があった。それはジャック達の事である

「その糸で捜索とかは出来ないのか?」
「無理よ、捜索するにはさっき私達を襲って来た砂人形みたなのを作る必要があるのだけれどあれを一体作っていたらこの遺跡はもう既に崩壊してしまっているわ」
「そう上手くはいかないか……」

考え込むジョン

「そう言えば貴方、仲間と一緒に此処に来たのよね? 仲間の心配をしているの?」
「その通り、なんせ俺は心優しいからな、自分で自分に惚れちまいそうだぜ、マジで」
「今の言葉が無ければ実は心優しい人なんだと思ったけど、今の発言を聞いてその気持ちが吹き飛んだわ」
「それはつまり俺に惚れましたという事か?」
「なんでそう聞き取れたの?」
「まぁお前が俺に惚れようが惚れまいがそんな事はそこらに落ちているゴミくず以上にどうでもいい事だ。俺は兎に角仲間を探したいだから協力してくれないか?」

ジョンのその願いを聞き間髪を入れず

「いいわよ」

と返すライラ

「なんだ、俺はてっきり断られると思っていたぜ」
「別に断る理由は無いわ、言ったでしょ? 私の寿命もそう長くないの、だから最後くらい誰かの役に立って死にたいわ」
「役に立って死にたいねぇ……俺の役に立ちたいと思うのか? 本気で?」
「出来ればもっとハンサムで良い人だったら良かったと思うけど此処には貴方しか居ないしこの際致し方ないわ」
「つまり、俺で妥協してくれるという事だな?」

ライラは何故か少しジョンに勝ち誇った顔をし答える

「えぇ、そうね、そういうことね」
「気に入らねぇな……」
「え?」
「俺はお前の慈悲に助けられるのは気に入らないと言ったんだ……悪いがさっきの言葉は忘れてくれ、俺一人で捜索をする」
「え!? 何を言っているのよ! 仲間が心配なんでしょ!? さっきのは冗談よ! 本気にしないで」
「さっきのハンサム発言の事を聞いてへそを曲げた訳じゃない、まぁそりゃ若干イラッとは来たがな、問題なのはお前が俺の依頼を無償で受けると言った事だ。
”無料より高いものは無い”これは俺の座右の銘でね、俺の依頼を受けるからにはお前には何かしらの報酬を受け渡す。どんなにそれを拒んでも俺を攻撃しようとも関係無い必ず渡す必ずな」

それを聞いて絶句するライラ、ジョンの言っていることが理解できないのだ。別に彼女はこの事に付け込んでジョンに割の合わない要求などするつもりは毛頭ない

「俺とお前は大の仲良しって訳じゃないんだ。対等の立場で居ようぜ、で? お前は何が欲しい? 何をしたい?」
「……別に欲しい物もしたい事もないわ、それよりいいの? こんな事している場合ではないんじゃないの?」
「確かにその通りだ。だが俺とお前の立場をハッキリとさせる事は大事だろ? それを見誤ると碌なことにならない」

とジョンが勝手に独り言を言っているとライラがある事を思い出す。

「一つ有ったわ、私の願い事」
「何だ?」
「私、外に出たいの一度でいいから太陽に照らされてみたいわ」
「願い事はそれでいいのか?」
「えぇ、姉さんも一緒にね」
「OK、なら契約成立だ。行くぜ」

口約束の契約を成立させジョンとライラは歩みだす。

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 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

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