そして、燻む。美しく。

頭痛

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第二章

胸騒ぎ

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 じんじんと痛む腕を無視し、シロと話しながら歩く。
僕は、シロの日焼けしていた肌が急に白くなっている事を指摘した。
シロは自分の腕を見て最初こそ驚きはしたものの、「こんなもんじゃなかったか?」と、別段気にはしていない素振そぶりだった。
 そうだったっけ?
寧ろ、あんなに白い肌のシロを見るのは、小さい時に数回程度の記憶しかない。
確かにシロは元々色白であったが、常に日焼けしていたというイメージの方が強い。
 そんな事よりも、その髪は何なのだろう。
シロは早くシャワーを浴びたいと言っているが、何かが付着したというよりも、色素を失ったという方が正しい気がする。
 とはいえ、あまり心配し過ぎるとシロはとても嫌がるので、これ以上は触れない様にした。
もうすぐ僕の家が見えてくる辺りまで来ると、道沿いに小さな公園がある。
そうだ、家に上がる前にここの水栓で、腕の傷を洗おう。
「シロ、公園寄って良い?」
 「あー、そうだな。ここの水道使うか」
そう言うと、二人で公園に入る。
 夏の暑さと、まだ昼頃という事もあり、公園には人っ子一人いなかった。
シロは潰れたペットボトルを自販機横のゴミ箱に捨てに行き、僕は水栓近くのベンチに鞄をおろす。
 強烈な陽射しに熱された水栓のハンドルを捻ると、これまた陽射しに熱されたお湯が出た後、ぬるい水へと変わっていく。
 腕の傷の部分に水をかけると、雑菌の所為か水の塩素の所為か激痛が走る。
「いっててて」
思わず悲鳴が漏れた。
傷口の砂を落とし、血や泥を洗い流して水を止める。
汗拭き用のタオルを鞄から取り出して濡れた腕を拭いていると、シロが戻ってきた。
 シロは鞄を僕と同じベンチに置き、タオルを取り出した。
タオルを片手に水栓のハンドルを捻ったシロは、頭を下げて髪の毛を洗い出すと、シロも悲鳴をあげた。
 「ふえーっ、冷てぇー!クロの前に洗えば良かったー!」
僕は、はははと笑った。

──「あれ?クロ?」

 いつの間にか公園の入り口から此方へ向かって歩み寄るアヤから声を掛けられた。
 「またうるせーのが来たな」
シロは、濡れた髪を絞って水気を切り、持っていたタオルで拭きながら言った。
 「うるさいって何よ!・・・あれ?シロ?」
 「あれ?って何だよ。まさかまだ髪が白いか?俺」
 「髪ってかシロ、あんた色々変よ」
──いやいやいや。それよりシロかどうかも不明な人にツッコむって、豪胆にも程があるでしょ。と僕は思ったが、口に出さずに心に仕舞った。

 「いやー、クロが珍しくシロ以外の人と一緒にいるなぁって思ったんだけどさ。チラッと銀髪が見えて、あれ?もしかしてクロ、絡まれてる?って心配になってね~」
 「クロに絡むのはアヤくらいだろ」
 「言い方!・・・で、何でアンタそんな格好してんのよ。夏休みデビュー?高三で?」
「いや、実は・・・」

 アヤに先程までの事を説明した。
何度も、は?と言われたが、シロも補足説明してくれたお陰で、何とか理解して貰えたようだ。
 「ふーん。で、シロ、それどうすんの?」
 「ん~、ウチは別に何も言って来たりしねぇだろうけど・・・まぁ、家帰って黒染めするわ」
「そうだね。学校に伝わっても面倒だもんね」
僕は賛成した。
 「まぁとにかく、二人とも気を付けなさいよ?ホラ、クロ、腕出して」
促されるまま腕を出すと、アヤは自前の応急キットからガーゼと包帯を取り出し、慣れた手つきで僕の腕に巻いた。
 アヤは野球部のマネージャーだからなのか、いつも応急キットを持ち歩いている。
「ありがとう」
 「消毒液は切らしちゃってるから、家帰ったらちゃんと消毒すんのよ?はい、出来上がり」
野球部は予選敗退し、既に部活が終わっていたお陰で助かった。
 「クロはかーちゃんの奴隷じゃねぇーっつぅーのォー」
シロが笑いながら茶化す。
アヤがまた怒り出す。
僕は二人を見て笑う。

 本当に、シロも僕も無事で良かった。

でも、何故だろう。
シロの銀色の髪を見ていると、シロの白い肌を見ていると。

とても嫌な、胸騒ぎがするのは────。
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