そして、燻む。美しく。

頭痛

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第二章

奔走

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「とにかく、探してみる」
 僕はアヤにそう伝えると、電話を切った。
急いで自室を出ようとしたが、姿見に映る自分の姿が目に入り、ハッとする。
 そうだ、下着のまま寝てしまったのだった。
取り敢えず直ぐに着られそうな格好に着替え、寝癖を直す時間も惜しいので帽子を被り、スマホを持って自室を出る。
 玄関まで行くと夕飯の支度をしていた母に気付かれた。
 「あれ、句路起きたの?もう夕飯出来るわよ」
「ちょっと用事あるから、帰ったら食べるよ」
母は僕に何か聞こうとしていたが、僕はそのまま家を出た。
 目的があるワケでは無いが、僕は歩き出し、スマホでシロに電話を掛ける。

 「──お掛けになった番号は、電波の届かない場所にあるか・・・」
駄目だ、出る出ないの話じゃなさそうだ。
 アヤはシロの家に行ってみたと言っていたから、僕も同じ事をしても意味は無いだろう。であれば、シロが行きそうな場所を当たろう。僕は歩きながら考えを纏めた。
 突然シロと連絡が取れなくなった。何か事件や事故に巻き込まれたのだとしたら、僕なんかが捜索するより、然るべき機関に任せるのが筋だろう。
 だが、アヤはシロがと言っていた。しかし、シロの母親はシロを確認していない。そこがあまりにもおかしい。
 もしかして、シロの見た目が変化した事で、シロ本人だと気付かなかった?
──いや、それは無いか。もしそうだとしたら、その事をアヤに伝えるだろうし、アヤもそれがシロだと説明するだろう。
シロの母親が嘘を吐いてないとして、アヤが嘘を吐いてないとして。
そうなると、シロの見た目の変化以外で思い付く部分はあるだろうか?
 シロは家に帰ったら髪を黒染めすると言っていた。シロの母親は髪を染めているが、いつも明るい栗色をしている為、黒染めは使わない。シロの家庭は少し複雑な事情で、父親やその他の家族は居ない。
 だとすれば家に黒染めがある可能性は限りなく低く、シロは外出して買いに行くだろう。

 取り敢えず、僕は近くのコンビニと薬局に行ってみる。だが予想は外れ、シロは居なかった。
 いや、寧ろ普通に考えればそうか。こんなに長時間買い物をする筈も無いし、買ったら直ぐに家で染めるだろう。そもそもそれでは電話が繋がらない理由にならない。僕は己の浅はかさに嫌気が差す。
 だが、落ち込んでいる場合では無い。考えねば。シロを捜さなければ。

 僕はシロがあの見た目になってしまった場所、つまり例の踏切まで来た。
辺りは大分暗くなっており、ぽつぽつと申し訳無さそうに立っている街灯だけでは満足に見渡せない。
 僕はスマホを取り出し、フラッシュライトを点けて踏切の周りを探る。
すると、踏切から少し離れた線路上に何かが落ちていた。
よく見てみるとそれは、何かの機械の残骸のようだった。
 それ以外には特に何も見当たらず、僕はまたトボトボと歩いた。

──待てよ。
 さっきの機械の残骸。
もしあれがシロのスマホだったとして。
僕達が別れた後にシロが事故に巻き込まれたのだとしたら、もっと大騒ぎになっている筈だ。きっとあの踏切も警察が立ち入りを禁じているだろう。
 であれば。あの踏切に落ちていた機械の残骸が、シロのスマホだったとしたら。電話が繋がらないのも納得がいく。

──シロの家庭は少し複雑な事情がある。

僕はハッと気付き、走り出した。

 そうだ。
僕達は親友じゃないか。
連絡が取れないシロが。やたらと気を遣う癖に、他からの気遣いが苦手なシロが行きそうな場所。

 僕は、来た道を全力で走って戻る。一心不乱に。

あの場所へ。

僕達が今日、最後に会っていたあの場所へ。
僕達が今日、最後に別れたあの場所へ。

肩で息をしながら、喉から血の味がしながら僕は。
 今日、昼間に訪れた公園にやってきた。
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