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一章 蔵座敷に棲むもの
呉服屋箱入り娘の依頼 中
しおりを挟む絹代より五つ上のその娘は、絹代が物心ついた時にはすでに奉公に来ており、絹代は姉のように慕っていた。その娘も絹代を妹のように可愛がっていた。
その娘が、絹代に何も言わず里に帰ったという。父母に訊ねれば「体の調子が芳しくなかったので、里に休養に帰した。年頃だし調子が戻ったら良い嫁ぎ先を世話してやるつもりだ」と諭された。
確かにここのところ青白い顔をして、体調がよろしくなかったようだったと絹代は思った。自分に何も言わずに行ったのも、心配をかけない為だったのかもしれないとその時は納得したのだった。
けれどもう数ヶ月は経つのに文の一つも返ってこない。もやもやしてるうち、また一人の絹代が知る女中がいつの間にやら辞めていた。今度は暖簾分けした先の女中だ。
「腑に落ちないまま私は、ある夜、父母が蔵座敷に歩いていくのを見たのでございます」
厠に起きた絹代が見たものは、連れだって歩く二人だった。そちらへは蔵しかない。
その蔵座敷は今でこそそう呼ばれているが、元々はただの蔵で、かなり昔にそれよりも大きな蔵を建てたために殆ど使われなくなって久しい。そこへ、数年前にある男が絹代の家に雇われ、一月後にはその蔵を座敷として改め、使わせるようになった。
その男は、東の都の梦瑳祠から、ここ西の都、芙紫に大火に追われ流れてきた。雇われていた呉服屋が焼かれ大恩ある主人も同時に亡くしたらしい。幼い頃に拾われた身で天涯孤独であるし、仕込まれた手腕を本場で試したいと絹代の店の門を叩いたという。
聞けば若いながらに番頭を任されていたというので試しに手代として扱ってみれば、その優男振りで瞬く間に芙紫に馴染み、贔屓客を増やしていった。
蔵を給わったのも、その男が見事な染料作りの腕を持っていたからで、研究場所を兼ねての事だった。丁稚や下女中は下働き用の離れの大部屋で雑魚寝、十年も勤め上げてやっと手代になれて一部屋を使えるのが普通である。いくら経験があり手代でも、入って一月で部屋を給われたのは、その男の手腕と人柄、何より古く北外れの蔵だったからだそうだ。
「夜中とは言え、商売は何よりも期が肝心でございます。ですので初めは染めやら何やらでご用事があるのだろうと気に留めなかったのですが、ふと、夜中に女の影を何度か目にしたことがあるのも思い出したのです」
夜中であろうとも、屋敷で女の影など珍しくもない。自分だって厠に出歩くのだし、喉が渇くことだってあるだろう。けれど訝しんで思い返せば、これほど怪しいことはない。いくらなんでも見かけるのが多過ぎる。そしてよくよく思い出してみれば、女の影を見だした初めの頃の影は、姉の様に慕った彼女ではなかったか? と。
「私は、蔵の見える場所に隠れて見張ることに致しました」
きちんと月を計算して刻を数え、時間をずらしながら一日半刻ずつ見張るという周到さ。自分で大店の跡取り娘と言うだけの事はある。
それと同時に、昼の空いた時間は街を歩き、先ずは知っている店からそれとなく訪ねて違和感を捜し噂話を集めた。
大店に有るまじき見上げたお嬢様である。
そうして消えた人が複数いる事を突き止めたのだ。
きちんと挨拶をして出て行った者が殆どであり、周囲は不思議には思っていない様だった。稀に人の口に上っても、人様にうつるような病ではない為か噂は広がりを見せなかった。そもそもこのご時世、ある日突然人が居なくなるという事に人々は慣れ切っていた。「やれ、堀向こうで刃傷沙汰だ」「すわ、茶屋下で闇引きか」と日々話題に事欠かない。
しかし絹代から見れば明らかに人数が多過ぎたのだ。
「そしてある晩、とうとう行き当たりました。
蔵に入っていく女や、更に夜更けに訪れた父母に。
蔵の男の出入りは見ていませんが、私が見張る前には蔵座敷に入っているのでしょう」
朔と宵は何とも言いたげな顔をした。それに気付かず絹代は熱く語る。自分の調べを披露できて、少し高揚しているのかもしれない。
「私は月影の中、女性の特徴を覚えて日中に探しました。そしてやっと一人見つけたのですが、やはり具合が良くなかったのです!」
「んん、あ~……まぁあれだ。寝不足?」
どうよとばかりにぎらぎらとした目で返答を待つ絹代に、何と言ったものかと朔は思案したものの、結局面倒なので肴をつつきながら一言で済ませた。
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