輪の魔術師~僕の転生した異世界では、人間は伝説の魔術師になれるそうです~

海老石泥布

文字の大きさ
8 / 65
異世界"イルト" ~緑の領域~

8.エルフ救出戦

しおりを挟む
◇◇
「さて、例の作戦の準備は良いか──クウ?」

 ソウが真横にいるクウに問いかける。

「うん、いつでも。でも、その前に一ついいかな?」

「何だ」

「本当に──全員で行くの?」

 クウが後方を指し示す。

 精悍せいかんな顔つきをした10数人のエルフ達が、クウとソウをじっと見ている。エルフ達は全員──武器のつもりなのか、くわおのなど各々おのおのが農具を持っていた。

「相手は甲冑かっちゅうを着て、するどい剣を持ってる。気を悪くしたら悪いけど、"輪"も持ってない農民の人達が、この先無事で済むとは思えないよ」

「──我々を止めても無駄ですよ、クウ君」

 エルフの一人が、口を開いた。

おそわれたのは我々の村であり、さらわれたのは我々の身内です。それなのに、エルフでもない君は──我々を救おうとしてくれている。そこの彼、ソウ君も同じくね」

「俺なら気にすんな。仕事みてえなもんだからな」

 ソウはエルフから顔を背け、手を宙でひらひらと振る。

「まあ、分かるぜ。流石さすがに、何もせず黙って家にいられる気分じゃねえよな。──安心しろよ。全員見つけて連れ帰ってやるからよ」

 ソウはフードを目深まぶかかぶり直し、目の前をにらむ。

 滲み沼の牢獄──ホス・ゴートスが、月明かりに照らし出されていた。

◇◇
 ホス・ゴートスの四方を囲む石の壁の内側では、甲冑姿の騎兵達が笑い声を上げながら、ジョッキで酒を飲んでいた。人数は20名ほど。全員がかぶとを脱ぎ、武器を持っていない丸腰の姿である。

 この何とも品の無い宴会えんかいが開かれているのは、広場の様に開けた場所である。騎兵達の中心には篝火かがりびかれ、祭りのような様相をていしている。

 よく見ると、兜を脱いだ騎兵達の顔色はとても青白く、瞳の色は紫色である。そして額からは──小さな角が、それぞれ違った形、長さで生えていた。

 悪魔族の特徴である角とは、どうやらこれの事らしい。

「へへへ……。うん?」

 胡坐あぐらをかきながら酒を飲んでいた騎兵が、暗闇の中を注視ちゅうしする。

 暗闇の中から、宴席えんせきの騎兵達と同じ甲冑を着込んだ一人がゆっくりと姿を現す。他の騎兵達と違い、酒のジョッキを持っていない上に──頭に兜を被っていた。


「おい、てめえ。その暑苦しい兜を、いい加減に脱ぎやがれ。見てるこっちまで息苦しくならあ」

「──うるせえな、ほっとけよ」

「何だと、この野郎」

「──なあ、雌エルフ共の牢は何処なんだ? ちょっと用を頼まれちまったんだが……酒の所為せいか、どっちだか分からなくなっちまって」

「用を頼まれただあ? "ゴーバ将軍"にか? 雌エルフ共の牢にはついさっき、あの方が直々に向かわれたはずだろうよ。それに今行った所で雌エルフ共には──あの方の命令で、明日まで手を出せねえだろうが」

 胡坐をかいた騎兵がそう言った時、新たに横から、ジョッキを二つも持った赤ら顔の騎兵が現れる。

「まあ、いいじゃねえか。エルフの上玉の女共を、少しでも早く楽しみてえんだろ。──よお、お前。エルフ共の牢は地下牢の右奥だ。ただ、分かってんだろ? 最奥部さいおうぶ一際ひときわでけえ扉だけは開けるんじゃねえぞ。あそこにゃあ、例の"対悪魔用兵器"がブチ込まれてんだからな」

「"対悪魔用兵器"……? まあ、いいや。ありがとよ」

「気にすんな。俺も付いて行くからな。へへっ、お前が酔ってまた迷わねえように案内してやるさ。ついでに雌エルフ共の顔も見てえしな」

「それは──遠慮しておくよ」

 兜を被っていた甲冑姿の人物は、急に口調が変わったかと思うと──勢いよく兜を脱いだ。

「なっ、てめえは……!」

 兜の下の顔は、まぎれもなくクウだった。

奇襲きしゅう卑怯ひきょうとか言わないでね。お互い様だし。──"颶纏アナクシメネス"!」

 クウの左手から、渦巻く緑色の爆風が放出された。飲酒によって既に大半が千鳥足になっていた騎兵達は、この一撃を避ける事も出来ずに吹き飛ばされる。

 クウはすかさず二発目を撃ち込む体勢を整え、次は武器を取ろうとした騎兵では無く──中央に焚かれた篝火に照準しょうじゅんを定める。一切躊躇ちゅうちょする事なく、クウは次の爆風を放った。

「うおおおおお!」

 騎兵達の悲鳴が至る所で上がった。篝火は倍ほどに勢いを増し、火の粉が四方に飛び散る。

 すると、悲鳴とほぼ同時に謎の雄叫おたけびがホス・ゴートスに響き渡った。騎兵達が一斉にその方向を見ると──農具を持ったエルフ達が、次々と出現したのである。

 騎兵達は皆、足元の覚束無おぼつかない状態で逃げ出そうとする。だがエルフ達はすぐさま追い付き、農具で一人一人を制圧していく。

「──へへ、一方的だな」

 クウが声の方向を見る。ソウが、何も無い空間から紫色の光と共に現れた。 

「俺の"輪"──"浸洞レオナ"は便利だろ? 自分の好きな場所に瞬間移動出来る穴を作れるのさ。まあ、長距離の移動だと連発出来ねえとか、些細ささいな弱点はあるがな」

汎用性はんようせいが高くて、すごく便利だと思うよ。奇襲は大成功だね」

「ああ。このマヌケ共、まさか俺達がエルフの村からホス・ゴートスまで一瞬で移動して、夜襲まで仕掛けて来るとは夢にも思ってなかっただろうぜ」

 ソウは親指で広場の奥を指差す。

「酔っ払いのマヌケ共はエルフの連中で十分制圧出来るだろ。俺達はとっとと人質ひとじちの解放だ。行くぞ」

「うん。火がこれ以上広がる前に、早く済ませよう」

 クウとソウは、足並みを揃えて走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...