輪の魔術師~僕の転生した異世界では、人間は伝説の魔術師になれるそうです~

海老石泥布

文字の大きさ
40 / 65
異世界"イルト" ~赤の領域~

40.王家の再興を

しおりを挟む
「はい……クウです。──どうしたんです、ロフストさん。急にそんな神妙しんみょうな顔になって」

  突然に名前で呼ばれたクウは、少しだけ驚く。

「クウ。お前さんは、"人間"なんだよな? 伝説によると"人間"は、別の世界から時間や空間を超えてイルトにやって来た、とても強い力を持つ存在だと聞いてるぜ。実際にその力は、十分見せてもらったしな。──だが、分からねえんだよ。クウ、どうして俺達を助けてくれた?」

「分からない、ですか? 助けてくれたのは、ドルスさん達、"白の騎士団"だってそうだったでしょう」

「いや、彼らとお前さんは違うぜ。"白の騎士団"が俺達を助けたのは単純に、ウルゼキアのノーム族だったからだ。俺達は彼らに武器を売り、"黒の騎士団"との戦いをかげながら手助けしている。ドルス将軍達は、ドワーフがウルゼキアにとって有益な味方だったからこそ、助けてくれたんだ。──だが、クウは違うだろ? ドワーフに義理はねえ。あの時の状況、普通なら他人なんぞ気にせずさっさと逃げ出すべきだ。だがクウは、俺達を安全に連れ出すためにと、"魔竜ドラゴン"に命がけで立ち向かってくれたな」

「そうですね。正直言うと──怖くて逃げ出したいって、ずっと思ってました」

「じゃあ、何で戦ったんだ?」

「……役に立ちたかったから、ですかね」

 クウの表情が、少し寂しそうな顔に変わった。

「僕は前世で、何もできない"人間"でした。学生時代も、社会人になってからも、人並みの事すら満足にやれない出来損できそこないだった。──その上、最後の方には難病にかかったせいで身体が動かなくなり、今まで出来てたはずの自分の身の回りの事すら、何も出来なくなってしまったんです。本当に自分をのろいましたね。すごく、悔しかったですよ」

「ガクセイ──シャカイジン? 何だと?」

「イルトには無い言葉ですよね。まあ、それはいいんです。──とにかく、僕は誰かの役に立ちたい。そして役に立つ事で、自分の存在意義を手に入れたい。つまり僕の行動は、ロフストさん達の為じゃなくて自分の為なんです。だって僕は、このイルトでは伝説として見てもらえたけど、元の世界では平均以下の役立たずだったから。僕は、今度こそ──自分の価値を証明したいんですよ」

 寂しそうなクウの顔が、不自然な笑顔に変わる。

「僕の目的は、"十三魔将"および、"黒の騎士団"を打ち倒す事。そして今回の様に、たくさん人助けをする事です。それが、きっと僕の価値の証明になると思うから。──もしロフストさん達、ドワーフの皆さんがまた危険な目に遭ったら、僕はきっともう一度、力を貸しますよ」

「──その時も今回の様に、自分からは何の見返りも求めないのかしら?」

 ロフストとクウの間に、フェナが割って入った。

「クウ。"人間"がイルトでどれほど力を持つ存在か、もう理解してるでしょう。あなたなら、その気になれば"輪"の魔術師として高い地位を得て、他の種族を支配する"王"になれる可能性さえあるわよ。──この際だから聞くけど、あなたはどうしてそんなに野心が無いのかしらね?」

「野心ならあるでしょ。誰かの役に立つ事で自分の価値を示したいって、たった今言ったよ」

「伝説の"人間"の望みが、そんな些細ささいな事だなんて信じがたいわね。──それとも、本当の狙いは別にあって、裏では私達には理解できない深謀遠慮しんぼうえんりょめぐらせているのかしら?」

「買いかぶり過ぎじゃないかな。僕はそんなに賢くないよ」

「どうかしら。のうあるたかは、爪を隠すものよ。──それにクウは、黒の"輪"を持つ魔術師だもの」

「黒の"輪"──と言うと?」

 クウは自分の背中を、片手で触った。

「魔術師の"輪"の中でも、黒の"輪"は特別なのよ。他の色よりも強い魔法を宿していて、イルトの"大悪魔デーモン"のような、特異な存在にしか宿らないとされている"輪"なの。──クウはイルトだけでなく、"人間"の中でも、きっと特別な存在かも知れないって事よ」

「特別な存在……ね。エルフの"賢者様"も、僕の"輪"については気になる事を言ってた気がするよ」

 そう言ったクウの背中に、一瞬だけ──紫色の光が浮かぶ。フェナとロフストの二人は、それを見逃さなかった。

「そいつが、黒の"輪"か……。俺も魔術師についてはそれなりに知ってる方だと思ってたんだが、思い直す事にするぜ」

 ロフストはそのまま沈黙し、深く何かを考え込む素振そぶりを見せた。少しして、ロフストは何かを決意した様に口を開く。

「クウ。お前さんと、その吸血鬼のお嬢さんには、返し切れない大きな恩義がある。だがはじしのんで、頼みたい事があるんだ。──お前さんの言葉に、甘えさせてもらえるか。ドワーフ族の為にもう一度、力を貸してくれねえか?」

「お話を聞きますよ、ロフストさん。急に生真面目きまじめな顔になった理由を、教えて下さい」

「ああ、ありがとな。──少し、長話をさせて貰うぜ」

 自分を落ち着かせるかの様に、ロフストは大きく息を吐いた。

「イルトでは今、巨大な二つの勢力が争ってる。ノームの"白の騎士団"と、大悪魔デーモンひきいる"黒の騎士団"だぜ。現在の戦況はノームが劣勢。ウルゼキアの各方面で、"白の騎士団"の将軍達は各々おのおのに防衛線を展開し、激しい"黒の騎士団"の侵攻をどうにか白の領域の外側で食い止めてる。かろうじて、だがな」

「知っています。──ドルス将軍も、その一人だったんですよね。彼は"シェスパー"の襲撃によって、ウルゼキアにではなく、逆に赤の領域へと"撤退"したようですけど」

「ああ、そうだ。ドルス将軍の部隊を、赤の領域のドワーフは受け入れた。彼らは"黒の騎士団"を恐れず、勇敢に戦い続けるイルト最後の希望だからな。──"黒の騎士団"に敗北して国を滅ぼされた、俺達ドワーフとは違って、だ」

「滅ぼされた?」

 クウが驚いた反応を示す。

「この奥の地域は、今は"ガガランダ鉱山"という地名で呼ばれてる。だが、かつての呼び名はそうじゃなかったんだぜ。以前の名は──"ガガランダ王国"。王族によって代々統治されていた、ドワーフ族の王国だった。"黒の騎士団"の侵略に抵抗した結果、ドワーフの国民達の半数以上は──殺されるか、奴隷として黒の領域へ連れ去られたよ。王とその一族達も、殺されちまった」

「それは……ひどいですね」

「ああ。どうにか無事だったドワーフ達は、赤の領域の方々に四散しちまった。それ以降、王国は"ガガランダ鉱山"と呼び方を変え、国の歴史は途絶えちまったよ。もうあの地域を、"ガガランダ王国"と呼ぶ奴なんざ、イルトにはいねえのさ。元国民だった、俺達当人ですらもな」

 ロフストは拳を握り、唇を噛んで下を向く。

「あれから俺達は、鉄工所を作った。職人を集めて、白銀の剣や鎧を鍛造たんぞうし、ウルゼキアの"白の騎士団"に使者を送ったのさ。俺達の作った獲物で、"黒の騎士団"を叩きのめしてくれってな。──王が亡くなられてから、俺達ドワーフは導き手を失った。この喪失感そうしつかん憎悪ぞうおをどうにかしてくれるのは、もう"白の騎士団"以外にはいなかったよ」

胸中きょうちゅう、お察しします」

「いや……実はな、俺はまだ"ガガランダ王国"の再興さいこうあきらめちゃいねえ。クウ、聞いてくれ。ドワーフの王族の中で、一人だけ、まだ生きていらっしゃる方がいるんだ。──その方を、どうにか探し出しちゃあくれねえか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...