梨里杏とリリア ⚜️二十歳の夜、二人は世界を越えた⚜️

星ノ律

文字の大きさ
13 / 47
第一章:動き出す世界

⚜️ 13:私のための自己紹介

しおりを挟む
「リリア、それは本当なのか……? キミが記憶を無くしてしまったというのは……?」

 アーシェルは信じられないという表情で、私の顔を覗き込んだ。

「え、ええ……お父様のことを辛うじて憶えてるくらいで、そのほかは殆ど憶えてないというか……」

 この部屋にいる者たちは、「おぉ……」という重たいため息を一様に漏らした。

「アーシェル、こういうのはどうだろう? 俺たちのこと、少しずつリリアに話してみないか? まあ、自己紹介のようなものだ。もしかすると、それがキッカケになって、少しは記憶が戻るかもしれない」

「ああ、それはいいなジルハート! じゃあ早速、右端にいるエイルから始めようか。よろしく頼む」

 ジ、ジルハート! あなたは、なんて素敵な提案をしてくれるっていうの! 隣でアルフィナが「めんどくさ」って呟いたけど、そんなのどうでもいいくらいに!

「承知しました、アーシェル様。私の名前はエイル゠ロゼリード。よわいは今年で十九歳、白祈院はくきいんの出身です。——あ、リリアさん。白祈院は分かりますか?」

 私が首を横にふると、エイルは続けた。

「白祈院とは、回復魔法や祈祷を主に扱う修道院のことです。私はここで生まれ、ここで育ち、ここで学んできました。ちなみに、先程のアーシェル様への『参加者は無事なのか』という質問ですが、それに関してはご安心ください。代々、白祈院のメンバーは選律の儀が開催される度、サポーターとして参加させて頂いております。闘技場周りに控えていた、白装束の面々。彼らが白祈院のメンバーなのです」

 そう言えば、そのような格好をした人たちが、周りにいたような気がする。負傷した者はすぐに運び出し、彼らの魔法で治療しているそうだ。本日も含め、死傷者が出たことは一度もないらしい。

「そして私に関しては、得意とするのは回復系の魔法、攻撃系は得意ではありませんが、風系を少し。そんなところでしょうか。——そうそう。ここから距離はありますが、白祈院の分院に、記憶を呼び寄せることの出来る老婆がいると聞いています。旅の途中に立ち寄るのもいいかもしれません」

 きっ、記憶を呼び寄せるですって……!? そ、そんな事をされたら、逆に困るんですけど……

「あ、ありがとうございますエイルさん。そ、その……私とはどの程度のお知り合いだったのでしょうか……?」

 私がそう言うと、エイルは驚いた表情でジルハートと顔を見合わせた。

「本当に全てをお忘れなんですね……私は修道院の出ということもあって、ここにいらっしゃる御三方に比べるとお付き合いは浅い方です。魔法協会や魔法評議会でお顔を合わせていた程度でしょうか」

「ちょ、ちょっと待てエイル」

 淡々と答えたエイルに、ジルハートがストップをかけた。

「そんな言い方をしたら、お前たちはただの顔見知りみたいじゃないか。お前たちには格闘技っていう、共通の趣味があっただろ。よく、その話で盛り上がっていたじゃないか。——そういや、リリア。格闘技に関してはどうなんだ? 流石に身体が憶えてるとかないのか?」

 かっ、格闘技!? わ……私が!?

「そ、それも憶えてないみたい……ご、ごめんなさい……」

「あ、謝ることはねーよ。——ってか、あれほど極めた格闘技さえ覚えていないんだな。じゃあ、ついでに次は俺の自己紹介だ。名前はジルハート゠リンヴァルト、リンヴァルト家の次男だ。年齢は二十二歳、お前の二つ上だな。得意な魔法は……うーん、自分で言うのもなんだが、全般だ。使える魔法の多さでは、誰にも負けないと思っている。あとは……俺の親父とリアノスさんが親友ってこともあって、お前とは小さい頃から一緒に遊んでた仲だ。まあ言ってみれば、お前は俺の妹みたいなもんだな」

 なるほど……私は妹ポジションだったんだ。何故か、少しだけホッとした私がいた。

「じゃ、次は私ね。アルフィナ゠バルクレア、十八歳。アンタやジルハートと違って、貴族の出ではないわ。バルクレア魔鉱交易商会まこうこうえきしょうかいってとこの、まあ……自分で言うのもなんだけど、お嬢様ってところかしら。得意な魔法は、相手の魔法を吸収したり、利用したりするやり方ね。アタシは転力てんりき魔術って呼んでるけど。——なっ、なに笑ってんのよ、アーシェル!!」

「そっ、その割に、ノルドの時には……ククク、なっなんでもない」

「ま、まあ、家格ではリリアの方が上かもしんないけど、アンタたち貴族はバルクレア家があってこそ、成り立ってるようなものだからね。その辺はちゃんと覚えておいてよ」

「やめろよ、アルフィナ。俺にしてもお前にしても、家格なんて先祖たちが築いてきたものじゃないか。俺たち若い世代は、自分たちの実力で力を示していこうぜ」

 ジルハートがそう言うと、アルフィナは「そんなこと分かってるわよ!」と横を向いた。

「若い世代は、自分たちで力を示せか……僕にとっても耳が痛い話だな、ハハハ……」

「何を言ってるんだ、アーシェル。お世辞でもなんでもなく、お前が作るマナトゥムは正真正銘の本物だ。あんなの作れる奴なんて、他にいない」

「そうか。その言葉、素直に受け取っておくよジルハート。——では、自己紹介は僕で最後だな。我が名は、アーシェル゠オル゠エルデリア。このエルデリア帝国を治める領主の長男だ。年齢はリリアと同じ二十歳。その歳になった故、この度の『選律の儀』にて選ばれた者たちと、『継承の巡礼』に出るというわけだ。親世代までは仕来しきたりの色が強かったこの巡礼だが、今回は少しだけ勝手が違う。エルデリアの各地方から、不穏な話を耳にしているからだ。今回は、その辺りも解決していく旅になると思われる。——どうだい、リリア? 僕たちの事を少しは覚えてくれたかい?」

 私は大きな声で、「はい!」とアーシェルに返事をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...