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第二章:新しい日常
🌐 25:カウンターパンチ
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「桜井さん、俺以外にもめちゃくちゃ声かけられたでしょ?」
並んで歩く村瀬が言う。
「いや……知り合いじゃない人から、声かけられたのは初めてだけど」
「マジで!? 動画の子、ウチの大学の子だーって、結構盛り上がってたんだけどな……俺の周りだけだったのかな」
村瀬は会話する度に、口調が砕けてきた。まあ、最初からちゃんとした敬語でもなかったけど。
「で、そのベスト8の人って強いの?」
「もっ、もちろんだよ!! 全国ベスト8なんて言ったら、普通はウチみたいな弱小サークルに来てくれないから。しかも、去年まで高校生で現役だった子だよ。まあ……実はもう、ボクシングは辞めたらしいんだけどね。体が鈍らないよう、たまに顔出してくれてるって感じで」
「そっか……もう辞めちゃってるんだ。なんか、本気出しにくいな……」
私がそう言うと、村瀬は呆れた顔で私を見た。
「桜井さん……? 彼は、男子高校生のベスト8だよ。桜井さんも確かに凄いんだろうけど、そこはやっぱり、男女の差はデカいっていうか……そもそも、桜井さんってボクシングはやったことあるの?」
私が首を横に振ると、村瀬は「ですよね」と肩をすくめてみせた。
***
「いやっすよ。俺、やらないっすよ」
ベスト8の彼は、目付きの鋭い小柄な青年だった。名前は、藤森凛太郎というらしい。
「頼むよ、凛太郎。頭下げて来てもらったんだよ」
「スパーリングならまだしも、試合がしたいって言ってるんでしょ!? 俺をバカにするのもいい加減にしてくださいよ」
凛太郎はどうしても私とやりたくないらしい。まあ、どうしてもやりたくないなら仕方がないけど。——その時は、村瀬でも殴って帰るか。
と思っていたら、村瀬が凛太郎の肩に手を回してコソコソと耳打ちをしだした。
『なんて言ってるの? リクス』
『村瀬が焼肉おごるって言っています。しかも、高級焼肉だそうです』
うーん……見た感じ、そういうのになびくタイプには見えないが……
だが、私の予想に反して凛太郎はリングに上った。
***
「桜井さん、これヘッドギアとマウスピース。『私、着けない』とか言わないでよ。彼にリングを下りられたら、次はもうないから」
「わ、分かった……代わりに、彼にもこのヘッドギアを着けてもらうってのは?」
村瀬は初めて見せる険しい顔で首を横に振った。
リングの周りに、続々と人が集まりだしている。あの時のように、皆が私たちにスマホを向けだした。リクスは閉じてバッグの中だ。もしかして、初めてのひとりぼっち……? ほんの少しだけ心細い。
「村瀬さん、時間は2分でいいっすよね。2ラウンドもあれば、充分でしょう」
「お、オッケー! じゃ、頑張って桜井さん!」
村瀬の言葉の直後、ブーという開始音が鳴り響いた。
凛太郎はスーッと前に出ると、左手を私の前に上げた。ああ、これは挨拶のようなものか。私も合わせて、左手を返す。
多分、前にやった男とは桁違いに強いのだろう。フットワークだけで、それが分かる。
「ほら、遠慮せずに手を出して」
凛太郎はそう言って、左のパンチを二度ほど打ってきた。確か、ジャブというやつだ。エルデリアで学んできた格闘技にはジャブというものはない。距離感を測るために、軽く手を出すことはあるけど。
私の得意技はカウンター。だが、相手が手を出してこないことにはそれも出来ない。私は手を出させるため、距離を詰めた。
パーンッ!!
私のグローブを凛太郎が弾き飛ばした。なるほど、全国ベスト8というのは本当に強いらしい。
直後、凛太郎が詰めてきた。ジャブ、ジャブ、ストレートと連打してくる。もちろん、腰は入っていない。だが、相当に速い。いくつかのパンチはグローブで弾き、いくつかのパンチは紙一重で避けた。
だが、凛太郎のパンチは見えている。
そんな余裕が生まれた瞬間、背中にロープが触れた。知らない間に、追い詰められていたのだ。
左横からパンチが飛んでくる……右フック……? 私は屈んで躱すと同時に、左に逃げた。
「おおおーっ!!」
リングサイドが一斉に沸く。さっきより観覧者が多くなっている。
知らない間に追い詰められていた……いや、私がパンチを見すぎたせいだ。次、同じことはさせない。
凛太郎の目つきが、先ほどとは違う。フットワークも更に速い。まだまだ、本気じゃなかったって事のようだ。
だけど、見える……
ジャブ、ジャブ、ストレート、ジャブ、ストレート……
グローブで弾くパンチと、受けない方がいいパンチも見分けがつく……
そう思った瞬間、凛太郎はゾクッとするような目付きで右ストレートを打ち込んできた。ギリギリで右に躱した私は、体勢を崩した凛太郎に右フックを放つ。
あれ……? 彼、もしかして……
私のパンチが凛太郎の顎下をかすめると、彼は体を庇う体勢も取れないまま、マットに沈み込んだ。
並んで歩く村瀬が言う。
「いや……知り合いじゃない人から、声かけられたのは初めてだけど」
「マジで!? 動画の子、ウチの大学の子だーって、結構盛り上がってたんだけどな……俺の周りだけだったのかな」
村瀬は会話する度に、口調が砕けてきた。まあ、最初からちゃんとした敬語でもなかったけど。
「で、そのベスト8の人って強いの?」
「もっ、もちろんだよ!! 全国ベスト8なんて言ったら、普通はウチみたいな弱小サークルに来てくれないから。しかも、去年まで高校生で現役だった子だよ。まあ……実はもう、ボクシングは辞めたらしいんだけどね。体が鈍らないよう、たまに顔出してくれてるって感じで」
「そっか……もう辞めちゃってるんだ。なんか、本気出しにくいな……」
私がそう言うと、村瀬は呆れた顔で私を見た。
「桜井さん……? 彼は、男子高校生のベスト8だよ。桜井さんも確かに凄いんだろうけど、そこはやっぱり、男女の差はデカいっていうか……そもそも、桜井さんってボクシングはやったことあるの?」
私が首を横に振ると、村瀬は「ですよね」と肩をすくめてみせた。
***
「いやっすよ。俺、やらないっすよ」
ベスト8の彼は、目付きの鋭い小柄な青年だった。名前は、藤森凛太郎というらしい。
「頼むよ、凛太郎。頭下げて来てもらったんだよ」
「スパーリングならまだしも、試合がしたいって言ってるんでしょ!? 俺をバカにするのもいい加減にしてくださいよ」
凛太郎はどうしても私とやりたくないらしい。まあ、どうしてもやりたくないなら仕方がないけど。——その時は、村瀬でも殴って帰るか。
と思っていたら、村瀬が凛太郎の肩に手を回してコソコソと耳打ちをしだした。
『なんて言ってるの? リクス』
『村瀬が焼肉おごるって言っています。しかも、高級焼肉だそうです』
うーん……見た感じ、そういうのになびくタイプには見えないが……
だが、私の予想に反して凛太郎はリングに上った。
***
「桜井さん、これヘッドギアとマウスピース。『私、着けない』とか言わないでよ。彼にリングを下りられたら、次はもうないから」
「わ、分かった……代わりに、彼にもこのヘッドギアを着けてもらうってのは?」
村瀬は初めて見せる険しい顔で首を横に振った。
リングの周りに、続々と人が集まりだしている。あの時のように、皆が私たちにスマホを向けだした。リクスは閉じてバッグの中だ。もしかして、初めてのひとりぼっち……? ほんの少しだけ心細い。
「村瀬さん、時間は2分でいいっすよね。2ラウンドもあれば、充分でしょう」
「お、オッケー! じゃ、頑張って桜井さん!」
村瀬の言葉の直後、ブーという開始音が鳴り響いた。
凛太郎はスーッと前に出ると、左手を私の前に上げた。ああ、これは挨拶のようなものか。私も合わせて、左手を返す。
多分、前にやった男とは桁違いに強いのだろう。フットワークだけで、それが分かる。
「ほら、遠慮せずに手を出して」
凛太郎はそう言って、左のパンチを二度ほど打ってきた。確か、ジャブというやつだ。エルデリアで学んできた格闘技にはジャブというものはない。距離感を測るために、軽く手を出すことはあるけど。
私の得意技はカウンター。だが、相手が手を出してこないことにはそれも出来ない。私は手を出させるため、距離を詰めた。
パーンッ!!
私のグローブを凛太郎が弾き飛ばした。なるほど、全国ベスト8というのは本当に強いらしい。
直後、凛太郎が詰めてきた。ジャブ、ジャブ、ストレートと連打してくる。もちろん、腰は入っていない。だが、相当に速い。いくつかのパンチはグローブで弾き、いくつかのパンチは紙一重で避けた。
だが、凛太郎のパンチは見えている。
そんな余裕が生まれた瞬間、背中にロープが触れた。知らない間に、追い詰められていたのだ。
左横からパンチが飛んでくる……右フック……? 私は屈んで躱すと同時に、左に逃げた。
「おおおーっ!!」
リングサイドが一斉に沸く。さっきより観覧者が多くなっている。
知らない間に追い詰められていた……いや、私がパンチを見すぎたせいだ。次、同じことはさせない。
凛太郎の目つきが、先ほどとは違う。フットワークも更に速い。まだまだ、本気じゃなかったって事のようだ。
だけど、見える……
ジャブ、ジャブ、ストレート、ジャブ、ストレート……
グローブで弾くパンチと、受けない方がいいパンチも見分けがつく……
そう思った瞬間、凛太郎はゾクッとするような目付きで右ストレートを打ち込んできた。ギリギリで右に躱した私は、体勢を崩した凛太郎に右フックを放つ。
あれ……? 彼、もしかして……
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