梨里杏とリリア ⚜️二十歳の夜、二人は世界を越えた⚜️

星ノ律

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第二章:新しい日常

⚜️ 28:私のマナ

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 マナトゥムにマナを与えたアーシェルは、急いで私たちの元へと戻ってきた。もしも暴れ出すようなら、私が始末しないといけない。

 だが、30秒待っても、1分待ってもマナトゥムは動き出す気配を見せない。

「——おかしいな」

「待て、アーシェル。俺がいく」

 マナトゥムを確認しに行こうとしたアーシェルを制止して、ジルハートがマナトゥムの元へと歩いていく。この国の皇子を危険な目には遭わせない、ジルハートのそんな強い気持ちが垣間見えた。

 マナトゥムの前でかがみ込むジルハート。胸などに手を当てているが、動き出す気配はないようだ。

「アーシェル、見てくれ。これのせいじゃないのか?」

 アーシェルと共に、私たちもマナトゥムの元へと歩み寄る。

「ああ、これが理由か……僕のマナが弾かれているな……」

 骨格がむき出しのマナトゥムの胸の隙間に、アーシェルが放出したマナが淡い光を放って挟まっていた。

「僕の魔力では足りないということなのか……? となると……」

 次の瞬間、全員の視線が私に向けられた。

「わ、私がやるの!?」

「ああ、一度やってみてくれ。ただこの魔法は、かなり複雑な魔法式で成り立っている。今から僕が言う呪文を——」

「待て、アーシェル」

 ジルハートがアーシェルの話を遮った。 

「驚くだろうが、リリアに呪文は必要ない」

 アーシェルとエイルが驚いた顔で私を見る。

「ど、どういう意味だ……?」

「言った通りだ。今日の花火も、先日ノルドを倒した光弾も、リリアは呪文を使っちゃいない。イメージだけで放っている」
 
「じょ、冗談はよせ! 仮にも僕は、アークランド魔導院を首席で卒業した男だぞ。何年、魔法について学んできたと思っている!」

「じゃあ、一度やらせてみれば? 私も信じていいのかどうか、半信半疑だったから。——知らないんでしょ? この呪文はアーシェル以外?」

「も、もちろんだ。じゃあ、やってみてくれるかリリア」

 私はマナトゥムの身体を覗き込んだ。顔はマネキンのようにツルッとしているが、身体は鉄製のフレームがむき出しになっている。身体の中心にある、こぶし大程の球体が心臓にあたるものだろうか。

「アーシェル、この丸いところにマナを送り込めばいいの?」

「ああ、そうだ。その部分がコアと言って、動力の源となっている」

 私がそのコアの部分に手を乗せると、念の為、私以外はマナトゥムから距離を取った。

 マナを送り込むか……やったことはもちろん、こんなことが出来るってことも知らなかった。

「まだ生きているなら、動いて。マナトゥムさん——」

 私がコアにマナを送り込んだ瞬間、マナトゥムの目が光を帯びた。ごくごく小さな、「キュルルルルルル……」という音が聞こえてくる。マナトゥムの起動音なのだろうか。

「きっ、起動したのか!? 下がれ、リリア!!」

 ジルハートの叫び声が響く。

 いや……きっとこの子は、酷いことはしない。何故か私はそう確信していた。

「……オッ……オハ……オ、オハヨウゴザイマス。アナ……貴方ガ、ゴ主人様デスネ。貴方ノ、オ名前ヲ 教エテクダサイマスカ」

「わっ、私のこと……?」

「ハイ、アナタ様ノコトデス」

「私は、リリア……リリア゠セリュージュ」

「リリア様……リリア゠セリュージュ様デスネ。シカト、承リマシタ」


「ほ……本当に、呪文無しで起動させたのか……リリア、キミってやつは……」

 私の周りにみんなが集まってきた。起動したばかりのマナトゥムを、全員が驚いた表情で見下ろしている。

「横ニナッタママデ失礼イタシマス……シバラクデ各部ヘノ、マナガ充当イタシマス。シバラク、オ時間ヲ クダサイ……」

「キ、キミの名前は何と言うんだ?」

「ワタシノ名前ハ、リリア様ガ オ決メニナラレマス。ドウゾ、ゴ命名クダサイマセ、リリア様」


***


「ワタシノ名前ハ、モエ……モエデスネ、リリア様。ワタシハ トテモ気ニ入リマシタ、コノ名前ヲ」

 立ち上がったばかりのマナトゥムに、私はモエという名前を付けた。マナトゥムに表情はないが、淡く光る緑の双眸が喜びを伝えてきた。

「おい、モエ。どうして僕のマナは受け取れなかったんだ? 魔力が小さすぎたのか?」

「ソレハ起動前ノコトデショウカ? ソレデアレバ、モウ一度見セテイタダケマスカ、アーシェルサンノ放出スルマナヲ」

 アーシェルはモエが差し出した手の平に、さっきと同じ紫色のマナを発生させた。

「コレハ、ワタシガ受ケ取レル マナノ種類デハ ゴザイマセン。ヨッテ、魔力ノ大小モ測リカネマス。申シ訳ゴザイマセン」

「じゃ、じゃあ、私のも見てみてよ」

 アーシェルに続き、アルフィナ、そしてジルハートとエイルもモエにマナを見てもらった。

「ドウヤラ、リリア様以外ノマナハ、ワタシハ受ケ取レナイヨウデス。キット、マナノ成分自体ガ違ウヨウニ思ワレマス」

「そっ、そういうことか……」

「そういうこととは、何だ? エイル」

「選律の儀の際に、ノルドがリリアさんをすぐに見つけられなかった件です。きっと、ノルドが検知出来る種類のマナではなかったのだと思います」

 ああ、確かに……

 だからノルドは、私を見つけるのに時間がかかったんだ……
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