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ep13:桜庭幸子
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5階建ての古びたアパート。約2週間ぶりにここを訪れることになった。眞白とLINEのやりとりをした数日後、眞白から家に遊びにおいでと誘いがあったのだ。私は実家がある4階へと、階段を上っていった。
「こんばんは……」
夕方の17時。「こんにちは」か、「こんばんは」かで少し悩んだ末、そう言って古びた鉄の玄関をノックした。
「今手が離せない! ドア開けてくれていいよ!」
眞白のその言葉にドアを開けると、玄関と隣合わせのキッチンで眞白と母は調理をしていた。
「いらっしゃい、悠真! お母さん、彼が悠真くん!」
「あらあら、こんばんは! 古いし、狭い家だしで、本当にごめんなさいね。階段も大変だったでしょ。はじめまして、眞白の母の幸子です。——それにしても、本当に背が高いのね悠真さんは」
186センチの私の前で、150センチちょっとの母は丁寧に頭を下げた。
「東雲悠真といいます、お邪魔します。あ、あの……これつまらないものですが……」
そう言って、私は母の大好きな和菓子を差し出した。ただ、気を使わなくて済むよう、出来るだけ高くない品を選んだつもりだ。
「あらまあ……お若いのに気を使ってくれて……本当にありがとうございます。——そうそう、迷惑じゃなければ晩ごはん一緒に食べていかない? ちょうど今、作っているところだから。眞白はもういいよ、あとはお母さんがするから」
私は夕食をいただく旨を伝えると、ひとまず眞白の部屋へと移動した。
「はあー……なんか凄い緊張した。自分の母親に会うのに、こんなに緊張するなんて思いもしなかったよ」
「ハハハ、本当に。——っていうか、悠真。お母さんと挨拶した時、ちょっと泣きそうだったでしょ?」
眞白は声を抑えてそう言った。実を言えば、挨拶の時どころか階段を上っている時でさえ涙が出そうになっていた。
***
「眞白ー! ご飯出来たわよー」
襖を隔てたキッチンから、幸子の声がした。私と眞白は揃ってダイニングテーブルの椅子にかける。
私の身長が大きくなったからだろうか、それとも今住んでいる部屋が広すぎるからだろうか。私が住んでいた時より、随分とこの部屋が小さく見える。
「わー、やった! 私が大好きな牛肉炒めだ!!」
「そうそう。下手なチャレンジはせずに、眞白が大好きなおかずにしといたの。悠真さんのお口にも合うといいんだけど。あと、おかわりは幾らでも言ってね、ご飯は沢山炊いておいたから」
私たちは「いただきます」と手を合わせ、食事を始めた。
「これこれ! このおかず、白ご飯が進んじゃうのよね!」
眞白は頬に手を当て「おいしー」と言って箸を進める。
私も、母手作りのおかずを口に運ぶ。
ああ……お母さんの味だ……
でも、いつもと少しだけ違う……ずっとこの味を食べてきたから、すぐに分かった。今の眞白は気づくだろうか……
「——ど、どうだった悠真さん? お口に合わないようだったら、残してくれて大丈夫だからね」
幸子は心配気にそう言った。一口食べて、私の箸が止まってしまったのだ。喉の奥が苦しい。涙が溢れそうで、食事が喉を通らない。
「す……すみません……永らく、家庭料理を食べていなかったので、お母さんの料理が凄く美味しくて……」
「あらあら……そうだったの……」
涙目の私を見て、幸子も目に涙を溢れさせた。
「お母さん、悠真はずっと一人暮らしなの。だからきっと、感動しちゃったんだよ。——そうだよね、悠真」
そう言って眞白は私の背中をさすってくれた。今の眞白にこうやって慰められるのは、もう二度目になる。
「こんばんは……」
夕方の17時。「こんにちは」か、「こんばんは」かで少し悩んだ末、そう言って古びた鉄の玄関をノックした。
「今手が離せない! ドア開けてくれていいよ!」
眞白のその言葉にドアを開けると、玄関と隣合わせのキッチンで眞白と母は調理をしていた。
「いらっしゃい、悠真! お母さん、彼が悠真くん!」
「あらあら、こんばんは! 古いし、狭い家だしで、本当にごめんなさいね。階段も大変だったでしょ。はじめまして、眞白の母の幸子です。——それにしても、本当に背が高いのね悠真さんは」
186センチの私の前で、150センチちょっとの母は丁寧に頭を下げた。
「東雲悠真といいます、お邪魔します。あ、あの……これつまらないものですが……」
そう言って、私は母の大好きな和菓子を差し出した。ただ、気を使わなくて済むよう、出来るだけ高くない品を選んだつもりだ。
「あらまあ……お若いのに気を使ってくれて……本当にありがとうございます。——そうそう、迷惑じゃなければ晩ごはん一緒に食べていかない? ちょうど今、作っているところだから。眞白はもういいよ、あとはお母さんがするから」
私は夕食をいただく旨を伝えると、ひとまず眞白の部屋へと移動した。
「はあー……なんか凄い緊張した。自分の母親に会うのに、こんなに緊張するなんて思いもしなかったよ」
「ハハハ、本当に。——っていうか、悠真。お母さんと挨拶した時、ちょっと泣きそうだったでしょ?」
眞白は声を抑えてそう言った。実を言えば、挨拶の時どころか階段を上っている時でさえ涙が出そうになっていた。
***
「眞白ー! ご飯出来たわよー」
襖を隔てたキッチンから、幸子の声がした。私と眞白は揃ってダイニングテーブルの椅子にかける。
私の身長が大きくなったからだろうか、それとも今住んでいる部屋が広すぎるからだろうか。私が住んでいた時より、随分とこの部屋が小さく見える。
「わー、やった! 私が大好きな牛肉炒めだ!!」
「そうそう。下手なチャレンジはせずに、眞白が大好きなおかずにしといたの。悠真さんのお口にも合うといいんだけど。あと、おかわりは幾らでも言ってね、ご飯は沢山炊いておいたから」
私たちは「いただきます」と手を合わせ、食事を始めた。
「これこれ! このおかず、白ご飯が進んじゃうのよね!」
眞白は頬に手を当て「おいしー」と言って箸を進める。
私も、母手作りのおかずを口に運ぶ。
ああ……お母さんの味だ……
でも、いつもと少しだけ違う……ずっとこの味を食べてきたから、すぐに分かった。今の眞白は気づくだろうか……
「——ど、どうだった悠真さん? お口に合わないようだったら、残してくれて大丈夫だからね」
幸子は心配気にそう言った。一口食べて、私の箸が止まってしまったのだ。喉の奥が苦しい。涙が溢れそうで、食事が喉を通らない。
「す……すみません……永らく、家庭料理を食べていなかったので、お母さんの料理が凄く美味しくて……」
「あらあら……そうだったの……」
涙目の私を見て、幸子も目に涙を溢れさせた。
「お母さん、悠真はずっと一人暮らしなの。だからきっと、感動しちゃったんだよ。——そうだよね、悠真」
そう言って眞白は私の背中をさすってくれた。今の眞白にこうやって慰められるのは、もう二度目になる。
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