【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん

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第3章 ドワーフ編

第94話 ドワーフの町へ ~街道の盗賊~

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「後ろに盗賊らしき人影が見えるわ」
「何人いるか分かるか」
「多分3人だと思うわ。王都へ行く街道から分かれて、この道に入ってから馬に乗った人がチラチラ見えていたの。まだ遠いけど、私達の跡をずっと追ってきているみたいね」

 聞いていた盗賊に間違いないようだな。俺達がこの街道に入るのを、どこかで監視していたんだろう。

「戦闘の準備をしよう。アイシャ達は木の盾を後ろに立てておいてくれ。ゴーエンさんは、少し速く荷馬車を走らせてくれるか。何かあればすぐに声を掛けてくれればいい」
「分かった。盗賊のほうは頼んだよ」

 盗賊達はこちらの動きを見たのか、姿を現して追いかけてくる。やはり馬に乗った3人組のようだ、戦闘は避けられそうにないな。

「アイシャ、人を攻撃したことはあるか?」
「いいえ、無いわ。でもユヅキさんを傷つけるなら、それは魔獣と同じよ! 手加減なんてできないわ!」

 力強く言い放つアイシャに意外なものを感じたが、カリンの目にも怒りのようなものがある。
 ふと俺はアイシャに矢が刺さり、剣で切られて血が噴き出す情景が目に浮かび、全身から血の気が引いていくような感覚に襲われた。
 胸がギュッと締め付けられ、心臓を鷲掴みされたように痛い。

 そんな光景を見る訳にはいかない。俺の心は決まった。

「アイシャ。俺が一番近いやつを狙うが俺が攻撃するまで、盗賊への攻撃は待ってくれんか」
「ええ、分かったわ」

 相手が攻撃の意思を示すまで、こちらから攻撃するのを待ってもらう。後方の3人が敵なのか、本当に盗賊なのか見極めたい。
 これは俺の我がままだ。専守防衛など甘いかもしれんが、俺自身が納得しないと人を手にかけることはできない。

 前のふたりが抜刀すると同時に、後の者が矢を放ってきた。
 これ以上アイシャ達を危険に晒すわけにはいかない。俺は魔道弓を先頭の盗賊に狙いを定めて矢を放つ。盗賊の胸に矢が刺さり落馬したと同時にアイシャ達が攻撃を仕掛ける。
 アイシャの魔道弓とカリンの巨大な火魔法が飛んでいき、あっという間に3人の盗賊達は全て倒れた。

「前からも盗賊がやってくるぞ!」

 ゴーエンさんの叫び声が響く。なるほど魔獣とは違う。後方の3人は挟み撃ちにするために俺達を追い立てていたんだな。

「道を外れて左の草原に荷馬車を停めてくれ」

 広い場所で迎え撃った方がこちらには有利だ。前からの盗賊は5人、こちらが本隊か。馬が2頭で後は剣と槍を持ってこちらに向かい走ってくる。
 草原に馬車を停め、荷台の後方から敵を引きつけてしっかり狙いを定める。

 迫る敵に対して俺とアイシャで弓の連続攻撃、カリンが両手から火魔法で集中砲火を浴びせる。
 4人は倒したが、落馬した1人が大きな斧を持ってこちらに向かって走ってきた。
 俺は荷馬車を飛び降り、ショートソードを抜いて敵に向かう。斧を振り上げた盗賊相手に、超音波振動を起動させた剣を袈裟切りに斬りつける。

 これを人に向けるのは、初めてだ。
 剣は盗賊の左肩から右脇腹を切り裂き一気に両断する。返り血を浴びてたたずむ俺にアイシャ達が駆け寄ってきた。

「ユヅキさん、怪我はない?」
「ああ、大丈夫だ」

 そう、大丈夫だ。今までに人を殺めた事など一度もない。もっと呵責や後悔といったものがあるかと思ったが、アイシャ達が傷つく事に比べたら大した事ではない。
 奴らは俺達を殺してでも積み荷を奪おうとした連中だ。殺される覚悟もあるはずだ。それが現実となっただけの事。その選択をしたのは盗賊に加わった奴ら自身なんだからな。

 そういえばカリンも魔法を放つ時に、魔法の名前を叫ばなかったな。カリンも思うところがあるのだろう。
 俺達は街道に戻り、足早にその場を後に荷馬車を走らせた。

「あんた達は、本当に強いんだな。あんなに多くの盗賊相手に怪我もせず切り抜けるとは」
「だが油断はできない。そろそろ夕暮れだが、野営する場所はあるか?」
「この先に小川が流れている場所がある。ワシがいつも野営している林の中だ。あそこなら盗賊に見つかる危険も少ないと思うぞ」

 道から林の中に入る前に周囲を警戒して、追跡されていないか、見張られていないか確認してから急いで林の中に入る。
 ゴーエンさんのいう川の近くに荷馬車を停めて、野営の準備をする。

「ユヅキさんは川で体を洗ってきた方がいいわ。食事の用意は私とカリンでしておくから」
「そうか、すまないな」

 俺はゴーエンさんと馬と一緒に川へ行き、馬に水を与えて俺は水浴びをする。
 服に着いた血は固まっていたので、擦って叩いたら大体取れた。

 顔や頭に着いた血を水で洗い流す。
 どうやら今まで顔が強張っていたようだな、水浴びしてさっぱりとして顔が緩くなったのが分かった。

「あんた達のような強い人に護衛してもらってワシは幸運だ。久しぶりに帰って来た故郷への道が、こんなに危険なものになっていたとは全く知らなかった」
「俺達も盗賊が出るのは分かっていたが、想定よりも規模が大きい。他にも仲間がいると思っていた方がいい」

 奴らは、組織的に動いていたように思う。たまたま出てきて襲ったとは思えん。
 情報では3人程と聞いていたが、それは逃げ帰った者の情報だ。今回のように8人で挟み撃ちにすれば、確実に全滅させていたんだろう。俺達がスハイルの町を出た時から狙っていた可能性もあるな。

 ゴーエンさんと荷馬車の所に戻ると、アイシャ達が食事の用意をして待っていてくれた。みんなで食事をしながら、今後の事を相談する。

「俺は盗賊が明日以降も襲って来ると思うが、どう思う?」
「ギルドでは王都からの道にも盗賊が出ると言っていたわ。今日の盗賊と仲間なら、その盗賊達が襲って来るでしょうね」

 そうだな。単独の盗賊ではなく盗賊団と呼べる規模かも知れんな。今回の襲撃を見るとそう感じる。

「来たら私の魔法で、片っ端からやっつければいいじゃん」
「できるだけ戦闘は避けたい。いくらカリンでも大人数で攻められたら持たんだろうしな。ゴーエンさん、後4日の距離という事だったがこの先はどうなっている」

 もし別の道があるなら、それも考慮したい。

「今までの道と大して変わらん。右手に林を見ながら一本道を進んでいく。ハダルの町の手前で王都からの街道と合流して、少し山道を登ったら町に着く」
「今日の状況が盗賊の仲間に伝わるのは2、3日後だろう。待ち伏せがあるとすると、王都の道との合流地点ぐらいか」

 今回の盗賊は全滅させた。仲間に連絡する者もいない。王都の街道からも離れている。今日のように挟み撃ちにするつもりなら、もっと奥に引き込んでからだろうな。

「それなら馬車を急がせて走らせよう。3日あればハダルに到着できると思うぞ」
「じゃあ明日からは私とゴーエンさんで、馬車を走らせるわ」

 馬の休憩もあるが、カリンが交代で馬車を走らせてくれるなら、早朝から日が落ちるまで足早に馬車を走らせることができる。

「よし、その方法でいこう。今夜の警戒は俺とアイシャで交代する。カリンとゴーエンさんは明日に備えてゆっくりと休んでくれ」

 盗賊以外にも夜行性の獣や魔獣もいるからな、護衛の手を抜く訳にはいかん。しっかりと警戒しておかんとな。
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