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第二章
第28話 女子会2
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まだ寝るには少し早いけど、そろそろ布団を敷きましょう。いつもはベッドだけど今日はお客さん用の布団を二つ用意して並んで寝る。こうやって布団に入ってお話した方が話しやすい事もあるしね。
「ねえ、ねえ。職場で気になる男性とかいる?」
「え~、男の方ですか? 同期以外だと私、班長の篠崎さんと西岡先輩ぐらいしか知らないんですけど」
「工場の方だと男の人いっぱいいるわよ」
あたし達の経理部関係だと小ぢんまりしてて女性が多いけど、工場の方は若い男の人が沢山いる。
「そういえば、同期の女の子から工場の人達と親睦会に行かないかって誘われた事がありますね」
「それって合コンよね。行ってみたの?」
「私、その日に用事があって断ったんですよ。先輩は工場の人と飲み会なんかはしないんですか」
「最近は少なくなってきたわね。でも、たまに行くわよ」
やっぱりお泊り会なら、こういう話をしないとね。早瀬さんは美人さんだしモテそうだから色々と面白い話が聞けそうだわ。
「合コンは学生時代にもありましたけど、私あまりそういう場所には行った事がないんですよね」
「あら、そうなの。早瀬さんならいっぱいお誘いがあるんじゃないの」
「いえ、いえ。私なんか……。こちらで生活するのに手いっぱいだったもんですから」
そうかもしれないわね。地方から出て来て一人で生活してるんですものね。商業の短期大学。二年間の短期間に学んで資格を取って就職するための準備をする学校。普通大学の四年間とは違い、やるべき事は多く忙しい。
「アルバイトもしてましたし、短大の頃はあまり余裕が無かったですね」
「それはもったいないわ。出会いよ! 出会いが大切なのよ」
「そういう先輩は、どなたか気になる方でもいるんですか」
工場になら誰かいるかなと、お誘いを受けて飲み会に何度か参加したけど、あまりぱっとした人はいなかったわね。
「同期の西岡先輩や、そのお友達とかはどうなんですか?」
「うわっ、やめてよね。あんな奴、あたしのタイプに掠りもしないんだから。あたしはもっとワイルドで逞しい人が好みなの」
西岡は一年半前に、寿退社した先輩の補充要員としてこの班に入って来たけど、あいつの仕事ぶりもあのぐうたらな性格も大嫌いだわ。あいつに男を紹介されるぐらいなら道で逆ナンした方がましよ。
「そういえば、篠崎班長は全く女っ気が無いって本当なんですね」
「そうね。班長のマンションにお邪魔した時も、部屋には女の人の気配がまったく無かったわね」
「背も高くてがっちりしてますし、少し強面ですけどそれなりの容姿ですから、お声が掛からないと言うのも……。やっぱりあっちの趣味があるんでしょうか?」
仕事もできるし班員の面倒見もいいのに結婚してないから、そんな噂があるのは事実なんだけど。
「早瀬さんは班長の事、気に入っちゃった? 歳はずいぶんと離れているわよ」
「あっ、いえ、私は……いつも優しくしてもらってますけど……。篠崎さんって昔からそんな感じなんですか」
「班長の事詳しいのは橋本さんね。橋本さんが入社した頃にこの係に異動してきたんですって。前は工場で三年ほど働いていたそうよ」
橋本先輩と班長はそれ以来十年近くこの係で仕事をしているらしい。昔の事を聞いたこともあるけど、仕事ばかりで浮いた話は全く無かったと言っていたわね。
「あれ、橋本さんと篠崎さんって同い年ぐらいですよね。入社前に工場にいたんですか」
「あ~、班長は高卒なのよ。商業高校を出てすぐにここに就職して、工場で事務作業をしていたらしいわ」
あたし達が所属している経理部の会計課の人間は短大卒か大卒が多い。工場では工業高校や商業高校卒の人達が多くいるけど、こちらとは仕事の内容が違う。
大卒は幹部候補者で各支社を転々としながら出世して、東京の本社へと戻っていくパターンだ。あたし達は各支社の工場や営業で働いて、精々係長になるぐらいが関の山ね。工場だったら叩き上げで工場長になる人もいるらしいけど。
でも工場で働いていた人が、経理関係に異動してくることは珍しいと言っていたわね。
「そういえば、工場製品の集計処理。あれを作ったのが篠崎班長らしいわよ」
「ええっ! あのソフトってすごく優秀ですよね。どこかのソフト会社に作って貰ったものだと思ってました」
工場には製品管理するソフトがちゃんとあるそうだけど、会社内で利用できるデータに集計し直さないといけない。
工場のデータと接続して、自動集計できるこのソフトのお陰て期末作業がすごく楽になったと橋本さんは言っていた。
「あんなに優秀なのに結婚もせずに一人暮らしだなんて、変な趣味のオタクなのかEDなのかもしれないわね」
「佐々木先輩、あんまりそんな事言っちゃだめですよ~」
「今日ナルちゃんを預かりに家に行った時にね、班長、キャリーバッグの前で正座してしんみりしてたのよ」
「ナルちゃんと別れるのが寂しかったんですかね」
あの人、体は大柄で会社だとそんな態度見たこともない。私生活ではどんなことをしてるんだろう。
「そうだわ。明日、ナルちゃんを返しに篠崎班長の家に行くわよね。その時にあなたが班長にアプローチしてみなさいよ」
「えっ、え~。私ですか」
「女の子アピールをして、班長がどんな態度を取るか見てみましょう」
これは面白くなってきたわね。篠崎班長の秘密を解き明かせるかもしれないわ。
翌朝。ドアの向こうから猫の鳴き声がする。扉を引っ掻いているような音も聞こえる。いったい今は何時なのか時計を見ると六時少し前ね。
誰の猫なの? そう思いながら扉を開けるとサバトラ柄のナルちゃんがいた。
「ミャ~オン」
「あなたはいつもこんなに早いの?」
隣りで寝ていた早瀬さんはまだ布団の中で起きる気配もないわね。
ナルちゃんのご飯は猫缶だったわね。ご飯をおねだりするようにあたしの足に纏わりついてくるナルちゃん。可愛いわね。
朝ご飯用の綺麗な小鉢がもう一つ用意されていて、缶詰を開けて中身を移して床に置くと、ナルちゃんが美味しそうに朝ご飯を食べている。
ついでだし、マラカのキャットフードも用意しておきましょう。シャウラちゃんのご飯も用意したいけど分量を聞いていなかった。早瀬さんが起きてからでいいかな。何だかこうやって猫に囲まれていると、それだけで幸せだわ。
マラカと出会えたのもナルちゃんのお陰ね。ご飯を食べるナルちゃんの背中を優しく撫でて「ありがとうと」と声を掛けた。
「ねえ、ねえ。職場で気になる男性とかいる?」
「え~、男の方ですか? 同期以外だと私、班長の篠崎さんと西岡先輩ぐらいしか知らないんですけど」
「工場の方だと男の人いっぱいいるわよ」
あたし達の経理部関係だと小ぢんまりしてて女性が多いけど、工場の方は若い男の人が沢山いる。
「そういえば、同期の女の子から工場の人達と親睦会に行かないかって誘われた事がありますね」
「それって合コンよね。行ってみたの?」
「私、その日に用事があって断ったんですよ。先輩は工場の人と飲み会なんかはしないんですか」
「最近は少なくなってきたわね。でも、たまに行くわよ」
やっぱりお泊り会なら、こういう話をしないとね。早瀬さんは美人さんだしモテそうだから色々と面白い話が聞けそうだわ。
「合コンは学生時代にもありましたけど、私あまりそういう場所には行った事がないんですよね」
「あら、そうなの。早瀬さんならいっぱいお誘いがあるんじゃないの」
「いえ、いえ。私なんか……。こちらで生活するのに手いっぱいだったもんですから」
そうかもしれないわね。地方から出て来て一人で生活してるんですものね。商業の短期大学。二年間の短期間に学んで資格を取って就職するための準備をする学校。普通大学の四年間とは違い、やるべき事は多く忙しい。
「アルバイトもしてましたし、短大の頃はあまり余裕が無かったですね」
「それはもったいないわ。出会いよ! 出会いが大切なのよ」
「そういう先輩は、どなたか気になる方でもいるんですか」
工場になら誰かいるかなと、お誘いを受けて飲み会に何度か参加したけど、あまりぱっとした人はいなかったわね。
「同期の西岡先輩や、そのお友達とかはどうなんですか?」
「うわっ、やめてよね。あんな奴、あたしのタイプに掠りもしないんだから。あたしはもっとワイルドで逞しい人が好みなの」
西岡は一年半前に、寿退社した先輩の補充要員としてこの班に入って来たけど、あいつの仕事ぶりもあのぐうたらな性格も大嫌いだわ。あいつに男を紹介されるぐらいなら道で逆ナンした方がましよ。
「そういえば、篠崎班長は全く女っ気が無いって本当なんですね」
「そうね。班長のマンションにお邪魔した時も、部屋には女の人の気配がまったく無かったわね」
「背も高くてがっちりしてますし、少し強面ですけどそれなりの容姿ですから、お声が掛からないと言うのも……。やっぱりあっちの趣味があるんでしょうか?」
仕事もできるし班員の面倒見もいいのに結婚してないから、そんな噂があるのは事実なんだけど。
「早瀬さんは班長の事、気に入っちゃった? 歳はずいぶんと離れているわよ」
「あっ、いえ、私は……いつも優しくしてもらってますけど……。篠崎さんって昔からそんな感じなんですか」
「班長の事詳しいのは橋本さんね。橋本さんが入社した頃にこの係に異動してきたんですって。前は工場で三年ほど働いていたそうよ」
橋本先輩と班長はそれ以来十年近くこの係で仕事をしているらしい。昔の事を聞いたこともあるけど、仕事ばかりで浮いた話は全く無かったと言っていたわね。
「あれ、橋本さんと篠崎さんって同い年ぐらいですよね。入社前に工場にいたんですか」
「あ~、班長は高卒なのよ。商業高校を出てすぐにここに就職して、工場で事務作業をしていたらしいわ」
あたし達が所属している経理部の会計課の人間は短大卒か大卒が多い。工場では工業高校や商業高校卒の人達が多くいるけど、こちらとは仕事の内容が違う。
大卒は幹部候補者で各支社を転々としながら出世して、東京の本社へと戻っていくパターンだ。あたし達は各支社の工場や営業で働いて、精々係長になるぐらいが関の山ね。工場だったら叩き上げで工場長になる人もいるらしいけど。
でも工場で働いていた人が、経理関係に異動してくることは珍しいと言っていたわね。
「そういえば、工場製品の集計処理。あれを作ったのが篠崎班長らしいわよ」
「ええっ! あのソフトってすごく優秀ですよね。どこかのソフト会社に作って貰ったものだと思ってました」
工場には製品管理するソフトがちゃんとあるそうだけど、会社内で利用できるデータに集計し直さないといけない。
工場のデータと接続して、自動集計できるこのソフトのお陰て期末作業がすごく楽になったと橋本さんは言っていた。
「あんなに優秀なのに結婚もせずに一人暮らしだなんて、変な趣味のオタクなのかEDなのかもしれないわね」
「佐々木先輩、あんまりそんな事言っちゃだめですよ~」
「今日ナルちゃんを預かりに家に行った時にね、班長、キャリーバッグの前で正座してしんみりしてたのよ」
「ナルちゃんと別れるのが寂しかったんですかね」
あの人、体は大柄で会社だとそんな態度見たこともない。私生活ではどんなことをしてるんだろう。
「そうだわ。明日、ナルちゃんを返しに篠崎班長の家に行くわよね。その時にあなたが班長にアプローチしてみなさいよ」
「えっ、え~。私ですか」
「女の子アピールをして、班長がどんな態度を取るか見てみましょう」
これは面白くなってきたわね。篠崎班長の秘密を解き明かせるかもしれないわ。
翌朝。ドアの向こうから猫の鳴き声がする。扉を引っ掻いているような音も聞こえる。いったい今は何時なのか時計を見ると六時少し前ね。
誰の猫なの? そう思いながら扉を開けるとサバトラ柄のナルちゃんがいた。
「ミャ~オン」
「あなたはいつもこんなに早いの?」
隣りで寝ていた早瀬さんはまだ布団の中で起きる気配もないわね。
ナルちゃんのご飯は猫缶だったわね。ご飯をおねだりするようにあたしの足に纏わりついてくるナルちゃん。可愛いわね。
朝ご飯用の綺麗な小鉢がもう一つ用意されていて、缶詰を開けて中身を移して床に置くと、ナルちゃんが美味しそうに朝ご飯を食べている。
ついでだし、マラカのキャットフードも用意しておきましょう。シャウラちゃんのご飯も用意したいけど分量を聞いていなかった。早瀬さんが起きてからでいいかな。何だかこうやって猫に囲まれていると、それだけで幸せだわ。
マラカと出会えたのもナルちゃんのお陰ね。ご飯を食べるナルちゃんの背中を優しく撫でて「ありがとうと」と声を掛けた。
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