【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~

水瀬 とろん

文字の大きさ
39 / 50
第三章

第39話 動物病院1

しおりを挟む
 ナルは家に置いておいて、昨日検索した路地にある病院へと自転車で向かう。ホームページに乗っていた地図は手書きの地図なのか、簡略化されていて場所がよく分からなかった。住所からナビアプリを使って行った場所は、住宅街の真ん中にある二階建ての一軒家で、白い外壁に赤い三角屋根の家だった。病院前に二台の駐車スペースがあったが、車は停まっていなかった。

「すいません。ここで猫のワクチンを打ちたいんだが、料金はいくらですかね」

 受付で聞いてみると、三種混合で三千五百円だと言う。ずいぶんと安いな。
 部屋の内装を見ると、少し古びた感じではあるが清潔的で柔らかな感じだな。住宅街の中にあるし、随分と前から営業しているのだろうか。この待合室には二組の患者さんが順番待ちをしているようだが、休日でこの程度だとこの病院は流行っていないのかもしれんな。

 今、ナルは連れてきていないし、もう一方の病院にも直接行ってみるか。自宅付近を通り越して反対側の幹線道路沿いの病院へと向かう。
 外から見る限り、駐車場に車も停まっているし、中のお客さんも多いようだ。ここは繁盛しているようだな。

 一旦家に帰ってからどちらの病院に行くか決めよう。
 もう一度小さな病院のホームページを確かめると、医者の名前も記載されていないし、写真なども一切使っていない単純なホームページだ。もしかしたら年老いた医者が昔から営業している病院で、こういったホームページの事も分からんのかもしれんな。だが雰囲気は前の病院と同じで、狭いが気の休まるような病院だった。

「料金も安いし、小さな病院の方に行ってみるか」

 いつものように、ナルをキャリーバッグに入れるのに一苦労する。前に佐々木の家に行った時は、大人しく入ってくれたんだがな。病院へ行くことが分かるんだろうか暴れて大変だった。
 自転車の後ろにナルを積んで、さっき行った小さな病院へと向かう。

「初診の方ですね。こちらに記入をお願いします」

 看護師さんにもらった受付票に住所などを記入し提出すると、すぐに俺の番が回って来た。待合室にいたのは犬を連れたおばあさん一人だけで、もう診察は終わっていたんだろう。俺はドアを開けて診察室へと入って行った。

「今日はワクチン接種だね。ほお、ご新規さんか。これからも御贔屓ひいきにしてもらいたいね」

 椅子に座ってざっくばらんに話してくるのは、女医さんだった。若くはない、と言っても俺と同じぐらいの年齢か? てっきり年老いたお爺さんの医者がいるものだと思っていたから驚いてしまった。

「まあ、女医というのは珍しいからね。だが腕は一流だよ。あっはっは」

 そう言って笑うが、自分の事を一流と言い放つとは何ともユーモアのある医者だな。
 セミロングの黒髪に白衣が良く似合っている。肌は白く理知的な美人さんと言っていい顔立ちだ。そしてよく笑う。座っているから背丈は分からないが、俺より少し低い感じか? それなら女性としては高い方だろう。

 キャリーバッグを診察台の上に置いて、ナルを洗濯ネットに包まれたまま外に出す。暴れようとするナルを押さえて、看護師さんが前足だけをファスナーから外に出し、ワクチン接種はすぐに済んだ。その後、女医さんがナルの頭をネットから出して、頭を撫でながら口の中や耳などを丹念に診ていた。

「この問診票には年齢が九歳とあるが、十二歳から十三歳の感じだね」
「前の飼い主から譲ってもらう時に年齢を聞き忘れてしまってな、大体の年齢しか分からないんだ。前のワクチン接種がいつなのかも不明だ」
「なるほど。まあ、ワクチンは年一回打つようにと言うべきなんだろうが、室内飼いなら二、三年でも十分だ。もし来年も来てもらえると、こちらは儲かるから嬉しんだけどね。あっはっは」

 本音をそのまま言う女医さんだな。

「見たところ健康そうではあるが、もう年寄りの年齢に入る。大事にしてやってくれ。餌などをシニア用に変えた方がいいかもしれないが、今はどんな餌を与えているんだい」

 俺はいつも与えている猫缶のメーカーを言った。

「少し高カロリーか……。ここと提携しているメーカーのパンフレットがある、それを渡しておこう。実はこれも宣伝なんだよ。パンフレットを渡すとこちらも収入になるんでね。だからと言って、君がそのメーカーの餌に切り替えなくてもいいからね」

 ぶっちゃけるんだな。笑いながら俺にそんな内情まで話しても大丈夫なのかよ。だがこの女医さんは信用できそうな感じだ。

「そうだ。その餌のサンプルがあったはずだ。どうだね、一度食べさせてみるかね」
「ナルは、硬いキャットフードは今まで食べず見向きもしなかったからな……。もしもらえるなら一度試してみるのもいいかもしれんな」

 そう言うと、女医さんが奥の机の下に置いてあるダンボールから、埃の被った餌のサンプルを俺に渡す。十食分ほどが入っているらしく割と大きなジッパー付きのパッケージで、本製品と同じ印刷がされている。
 なかなか親切で面白い医者じゃないか。これで病院が流行ってないのは、おかしいような気がするが、こんな軽い感じの医師だから毛嫌いする者もいるのか?

 あれだけ時間をかけて診察してもらってアドバイスしてくれたが、料金はワクチン代と初診料だけで、税金も含めて五千円掛からなかった。まあ、あの診察は初診時にするサービスなのかもしれないが、あそこまで親切にするとは驚きだ。
 ここは正直な病院のようだし気に入った。これからもナルの事はここに任せてみることにしよう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...