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第7章 新たな種族
第56話 羽の研究
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机の上、三十センチほどの高さにふわりと浮く羽を見つめて感慨にふける。
「反重力……これも闇魔法の一種かな~」
しばらくすると、羽は静かに机の上に落ちてきた。水中の魔素が飛散してしまったようだね。
今のところ、羽が一枚浮き上がっただけ。人の体重を支えるまでにはまだ遠いかな。でもこの羽を人工的に作って、空飛ぶ乗り物を作りたいな。それに乗った里の子供達が、大はしゃぎする様子が目に浮かぶようだ。
この羽を人工的に作れるとしたら、電球を作っているガラス職人のあの娘だけだろうね。工場に行って作業中だったティーアに声を掛ける。
「リビティナ様、私まだ仕事中なんですけど」
「いいから、いいから。今作ってるおみやげ物の細工より面白い物が見れるよ」
観光地で売るためのガラス細工を作っていたティーアが作業を中断されて、少し面倒くさそうに前面が黒く焦げた革のエプロンを脱いで立ち上がる。つなぎの作業服姿でリビティナの後に付いて、実験室まで来てくれた。
「うわぁ~、すごいですねこれ。この羽に魔素と水を流すと浮かび上がるんですか? 不思議ですね~」
ティーアは栗色の瞳を輝かせて、浮いた羽を繁々と眺める。しばらく羽を観察していると魔素が切れたのか降下してきた。
「あ~、落ちてきちゃった」
「ねえ、ティーア。この羽をガラスで作れないかな」
「この羽って、すごく繊細ですよね。リビティナ様、虫眼鏡ありますか」
この実験室の戸棚の中にあったはずだ。探しだして虫眼鏡を渡すと、ポンプを動かして羽の中を流れる水を観察しだした。
「なるほどね~。細かく枝分かれしてますけど、極端に細くなっている所が何ヶ所もありますね」
その部分だけ薄いピンク色の水が濃くなっていて、模様のようにも見えると言っている。
「リビティナ様は魔法を発動させるためには、きっかけとなるエネルギーが必要だって言ってましたよね。この細いくびれ部分を通る勢いがそれになるんじゃないですかね」
なるほど。ポンプで一定の水圧を掛けているけど、くびれ部分で水流が速くなる。それが反重力魔法に関係していると言う事か。
「それなら、そのくびれの間隔も重要になってきそうだね」
「属性の波というやつですかね」
魔法属性には、それぞれに合った波、周波数が存在する。魔力をそれに合わせることで、より大きな魔法になってくれる。翅脈の構造がそれに当たるんだろうね。
「ティーア。こっちの小さい羽根を持ち帰って、同じような物ができないか試してくれないかな」
「この羽の構造をそのまま再現するのは難しいですよ」
薄い羽根の中に広がる、この毛細血管のような生物の形をそのまま再現するのは困難だと言う。
「魔素が放出しないように、ポンプごとガラスの中に納めないといけませんし」
「そうだね、最終的には機械で作れるようにしたいからね。仕組みが同じなら羽の形に拘らなくてもいいよ」
「分かりました。ではその羽、持ち帰らせてもらいますね」
小さい方の羽はほぼ乾燥していて常温で保存できるし、調べるため壊してもらってもいいと言ってポンプごと渡す。ティーアは面白い仕事ができると、意気揚々と家に帰っていった。
その数日後、ティーアが家にやって来た。もう羽ができたのかと玄関に行くと、彼女は疲れたように開いた扉に体を預けている。
「リ、リビティナ様。血を吸ってもらえませんか……」
「どうしたんだい、そんなにやつれて! 目の下にクマができているじゃないか」
急いでティーアに血を与えて、光魔法をかける。寝食を忘れるほど羽の研究に没頭したようだ。この娘は一人暮らしだから、根を詰め過ぎて体調を悪くしちゃったんだね。
「羽の構造を調べれば調べるほど、あの美しさに魅了されて……ガラスで何としても作りたいんです」
「君には無理をさせちゃったね。問題があれば聞くから、何でも相談してくれよ」
今は翅脈の細くなっている部分の内面について、細かく見ているそうだ。
「翅脈の太さで間隔は違っているんですけど、内面がこんな風に規則正しく波打っているんですよ」
絵に描いて説明してくれた。これは多分サインカーブ、定常波だね。
「定常波?」
「楽器の音と同じで、管の中でできる波の形だね。太い翅脈は正確に二倍の間隔になっているんじゃないかな」
魔力波に関する事だから定数倍の周波数、一オクターブごとの間隔だと思うんだけど。
「た、確かにそれくらいの間隔でしたね。それが上下に並んでいるとすごく綺麗な模様になっていて……」
うっとりと宙を眺める。
「おっと……ありがとうございました、リビティナ様。もう少し頑張ってみますね」
「あ、あんまり無茶しないでよ~」
そう言う間もなく、ティーアは家を飛び出していった。
そして数日後に事故が起きた。
「一体どうしたんだい。すごい音がしたけど」
「リビティナ様。ティーアの家の屋根に大きな穴が開いて……」
「ティーアは無事なのかい!」
「怪我をして頭を打ったようですが、意識はあります」
ガラスの破片が飛び散った部屋の外で、介抱されているティーアの元に急いで行く。手に切り傷と頭を怪我したようだけど、血を与えて光魔法をかけるとすぐに回復した。
「ファ、リビティナ様。ファなんですよ……」
頭を打って朦朧としているのか、言っていることが良く分からない。
「ファの音でガラス管を作ったら急に出力が上がって、試作品が空の彼方に飛んで行ってしまったんです」
「試作品? 羽の……反重力装置の試作品の事かい!」
「そうなんですよ! スイッチを入れたとたんに屋根を突き破って空に」
色んな音のガラス管で試験して、最大出力の形を見つけたようだ。これはすごい事だよ。それほどの力が出せるなら、人を乗せた飛行機を作る事もできるよ!
「よくやってくれたね、ティーア」
「はい、リビティナ様。これから同じ物を作りますね。今度は出力を調整できるようにして……」
「おい、おい。まだ無理はしないでくれよ」
「大丈夫ですよ。リビティナ様のお陰で、元気いっぱいになれましたから」
部屋の掃除を手伝って、楽しそうに試作品をもう一度作るティーアを見守る。自分の思い描いた物ができて嬉しいんだろうね。少し無理をさせてしまったようだけど、反重力装置の完成を祝おう。
その後。里では、安全装置を取り付けた反重力ボードに乗って、フワフワと浮かんで遊ぶ子供の姿が見れるようになった。うん、うん。やっぱりこの里は最高だよ。
「反重力……これも闇魔法の一種かな~」
しばらくすると、羽は静かに机の上に落ちてきた。水中の魔素が飛散してしまったようだね。
今のところ、羽が一枚浮き上がっただけ。人の体重を支えるまでにはまだ遠いかな。でもこの羽を人工的に作って、空飛ぶ乗り物を作りたいな。それに乗った里の子供達が、大はしゃぎする様子が目に浮かぶようだ。
この羽を人工的に作れるとしたら、電球を作っているガラス職人のあの娘だけだろうね。工場に行って作業中だったティーアに声を掛ける。
「リビティナ様、私まだ仕事中なんですけど」
「いいから、いいから。今作ってるおみやげ物の細工より面白い物が見れるよ」
観光地で売るためのガラス細工を作っていたティーアが作業を中断されて、少し面倒くさそうに前面が黒く焦げた革のエプロンを脱いで立ち上がる。つなぎの作業服姿でリビティナの後に付いて、実験室まで来てくれた。
「うわぁ~、すごいですねこれ。この羽に魔素と水を流すと浮かび上がるんですか? 不思議ですね~」
ティーアは栗色の瞳を輝かせて、浮いた羽を繁々と眺める。しばらく羽を観察していると魔素が切れたのか降下してきた。
「あ~、落ちてきちゃった」
「ねえ、ティーア。この羽をガラスで作れないかな」
「この羽って、すごく繊細ですよね。リビティナ様、虫眼鏡ありますか」
この実験室の戸棚の中にあったはずだ。探しだして虫眼鏡を渡すと、ポンプを動かして羽の中を流れる水を観察しだした。
「なるほどね~。細かく枝分かれしてますけど、極端に細くなっている所が何ヶ所もありますね」
その部分だけ薄いピンク色の水が濃くなっていて、模様のようにも見えると言っている。
「リビティナ様は魔法を発動させるためには、きっかけとなるエネルギーが必要だって言ってましたよね。この細いくびれ部分を通る勢いがそれになるんじゃないですかね」
なるほど。ポンプで一定の水圧を掛けているけど、くびれ部分で水流が速くなる。それが反重力魔法に関係していると言う事か。
「それなら、そのくびれの間隔も重要になってきそうだね」
「属性の波というやつですかね」
魔法属性には、それぞれに合った波、周波数が存在する。魔力をそれに合わせることで、より大きな魔法になってくれる。翅脈の構造がそれに当たるんだろうね。
「ティーア。こっちの小さい羽根を持ち帰って、同じような物ができないか試してくれないかな」
「この羽の構造をそのまま再現するのは難しいですよ」
薄い羽根の中に広がる、この毛細血管のような生物の形をそのまま再現するのは困難だと言う。
「魔素が放出しないように、ポンプごとガラスの中に納めないといけませんし」
「そうだね、最終的には機械で作れるようにしたいからね。仕組みが同じなら羽の形に拘らなくてもいいよ」
「分かりました。ではその羽、持ち帰らせてもらいますね」
小さい方の羽はほぼ乾燥していて常温で保存できるし、調べるため壊してもらってもいいと言ってポンプごと渡す。ティーアは面白い仕事ができると、意気揚々と家に帰っていった。
その数日後、ティーアが家にやって来た。もう羽ができたのかと玄関に行くと、彼女は疲れたように開いた扉に体を預けている。
「リ、リビティナ様。血を吸ってもらえませんか……」
「どうしたんだい、そんなにやつれて! 目の下にクマができているじゃないか」
急いでティーアに血を与えて、光魔法をかける。寝食を忘れるほど羽の研究に没頭したようだ。この娘は一人暮らしだから、根を詰め過ぎて体調を悪くしちゃったんだね。
「羽の構造を調べれば調べるほど、あの美しさに魅了されて……ガラスで何としても作りたいんです」
「君には無理をさせちゃったね。問題があれば聞くから、何でも相談してくれよ」
今は翅脈の細くなっている部分の内面について、細かく見ているそうだ。
「翅脈の太さで間隔は違っているんですけど、内面がこんな風に規則正しく波打っているんですよ」
絵に描いて説明してくれた。これは多分サインカーブ、定常波だね。
「定常波?」
「楽器の音と同じで、管の中でできる波の形だね。太い翅脈は正確に二倍の間隔になっているんじゃないかな」
魔力波に関する事だから定数倍の周波数、一オクターブごとの間隔だと思うんだけど。
「た、確かにそれくらいの間隔でしたね。それが上下に並んでいるとすごく綺麗な模様になっていて……」
うっとりと宙を眺める。
「おっと……ありがとうございました、リビティナ様。もう少し頑張ってみますね」
「あ、あんまり無茶しないでよ~」
そう言う間もなく、ティーアは家を飛び出していった。
そして数日後に事故が起きた。
「一体どうしたんだい。すごい音がしたけど」
「リビティナ様。ティーアの家の屋根に大きな穴が開いて……」
「ティーアは無事なのかい!」
「怪我をして頭を打ったようですが、意識はあります」
ガラスの破片が飛び散った部屋の外で、介抱されているティーアの元に急いで行く。手に切り傷と頭を怪我したようだけど、血を与えて光魔法をかけるとすぐに回復した。
「ファ、リビティナ様。ファなんですよ……」
頭を打って朦朧としているのか、言っていることが良く分からない。
「ファの音でガラス管を作ったら急に出力が上がって、試作品が空の彼方に飛んで行ってしまったんです」
「試作品? 羽の……反重力装置の試作品の事かい!」
「そうなんですよ! スイッチを入れたとたんに屋根を突き破って空に」
色んな音のガラス管で試験して、最大出力の形を見つけたようだ。これはすごい事だよ。それほどの力が出せるなら、人を乗せた飛行機を作る事もできるよ!
「よくやってくれたね、ティーア」
「はい、リビティナ様。これから同じ物を作りますね。今度は出力を調整できるようにして……」
「おい、おい。まだ無理はしないでくれよ」
「大丈夫ですよ。リビティナ様のお陰で、元気いっぱいになれましたから」
部屋の掃除を手伝って、楽しそうに試作品をもう一度作るティーアを見守る。自分の思い描いた物ができて嬉しいんだろうね。少し無理をさせてしまったようだけど、反重力装置の完成を祝おう。
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