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第7章 新たな種族

第55話 里での研究

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 オリハルコンの鏡。柄の部分にどんな属性でも魔力を送ると、鏡本体に送られて光り輝く。光魔法と同じで治癒効果があるみたいだね。

 エルフィによると、妖精族の古代の絵には頭上にかざした鏡で、周りの人々を癒やす様子が描かれているそうだ。

「だからね、この鏡は国宝級の鏡なのよ。それを分解しちゃってもいいの」

 既に一枚の鏡は背面や柄など取り外して、鏡本体のみになっている。

「これをね、遠くに置いて実験するんだ。エルフィにも手伝ってもらうからね」

 鏡を二枚向かい合わせに置いて、魔力が伝送できるか実験をする。リビティナだと魔力が大きすぎてどうなるか分からないから、エルフィに魔力を調節しながら入れてもらう。

「ここに水属性の魔力を注げばいいのね」
「ああ、頼むよ」

 柄を握って魔力を流すと、鏡は光り輝いたけど何も起こらない。

「リビティナ様~。光軸がずれたようです。もう一度お願いします~」

 二十メートル離れた鏡の近くにいた工場長が大声を出す。

「エルフィ。柄のこの金属部分に軽く触れるようにして、魔力を流してくれないか」

 鏡は固定しているけど、強く握るとブレてしまうようだね。少しずれるだけでも、遠方にある反対側に伝わらなくなる。

「こうかしら。じゃあ魔力を流すわよ」

 指一本だけを鏡の柄にくっ付けて魔力を流すと鏡が光り輝く。それと同時に反対側の鏡から水の球がこちらに向かって飛んできた。

「うわっ! 何! なんで向こうから水球が飛んでくるのよ」

 リビティナが土の壁を作って水球を防ぐ。どうやら成功したみたいだね。工場長が息を切らしてこちらに駆けて来る。

「大丈夫でしたか~。鏡の前方、焦点の位置で水球が発現して飛んで行きました。リビティナ様の言われた通りですな」

 これを使えばどんな遠くにでも、魔力を送り出すことができそうだね。

「でも自分に向かって飛んで来るんじゃ意味ないじゃん」
「そうでもないよ」

 向こうの鏡の前に小さな鏡を斜めに立て掛ける。魔力を送ると平面の鏡に反射し水球は真横に飛んで行った。

 光が一点に集中する場所で魔法が発現するから、発現前なら光と同じように鏡で反射させられる。
 平面鏡で光を横に反射させたのはニュートン式の反射望遠鏡と同じ方法。すると光を真後ろに向かわせる、カセグレン式もできそうだ。

「すごいわね。この鏡にこんな使い方があるなんて」
「国宝として大事に扱ってきた物だから、道具としてあまり使わないんだろうね」

 でも古来より二枚一組だったと女王は言っていたから、昔の人はこの魔力伝送を知っていたのかもしれないね。

 工場長に二枚の鏡を渡して、今後も研究してもらう事にした。

「さて、それじゃボクは妖精族の羽を研究しようかな」
「リビティナ、まだあの羽を持ってるの。気持ち悪いわね」

 メルーラが眷属化した時に抜け落ちた羽を低温で保管している。
 これに関してはリビティナ自身で研究している。前に鬼人族の国境で戦ったウィッチアが、背中に羽を付けて飛んでいるのを見た。あれは魔道具なのだろう。研究を続ければ、人工的に羽で浮かび上がる事ができるはずだ。

 その研究をエルフィにも手伝ってもらおうとしたけど断られてしまった。抜け落ちた羽は千切れた手足と同じ物のようで、そんな物を研究したくないそうだ。

「仕方ない。家に籠もって一人で研究してみるか」

 この異世界には、知らない事がまだまだ沢山ある。時間のある時にはそれらをコツコツと解き明かしている。こういうことはリビティナの性格に合っているから苦になることもない。

 家に保管している羽は徐々に乾燥しているけど、羽周辺の青い模様も抜け落ちる前と変わりない。羽の細かな翅脈しみゃくも損傷する事なくそのまま残っている。
 羽自体はガラス質のような材質でできていて、薄く繊細ではあるけどこのまま乾燥させれば、常温でも保存できそうだ。

 羽の内部は、一本の管が血管のように枝分かれして広がっている。根元には太い管の断面がふたつあり、入り口と出口になっている。その羽の根元から魔力を送ったりしたけど、今のところ何の反応も起きない。

 エルフィは羽に大きな魔力を流すと光り輝くと言っていた。羽は大小二枚あるし壊すつもりで、大魔力を流してみようかな。小さい方の羽を外に持って出て、羽の根元を指先で摘んで水属性の魔力を流す。

「あわわわっ!」

 羽の根元、摘まんだのと反対側から大量の水が溢れ出した。おかげで水浸しになっちゃったよ。羽の翅脈を伝い一周回って魔力が帰って来るみたいだね。

 羽自体は何の反応も見せず壊れてもいない。魔道具で使ってたガラスの糸のように魔力だけを伝えるみたいだ。

 そう言えばそうだよね。ボクも翼に魔力を流せば浮き上がる事ができるけど、魔法を発現させている訳じゃない。
 魔法は魔素を一時的に物質化させるもの。羽の中で物質化すると、羽の組織が破壊されちゃうものね。その後も試行錯誤を重ねながら数日をかけて研究していく。

「元は背中にくっ付いていたんだ、流すのは体液かな?」

 透明に近い青色の羽。流れるのは赤い血じゃなくて、水のように色が付いていない液体のはず。とはいえ単に水を流しただけで浮き上がる事はないだろう。

「すると、魔素も一緒に流すのかな」

 魔力は胸の魔結晶を中心に体内を循環しているとされている。魔結晶には魔素が蓄積されているから、目には見えないけど魔素も一緒に循環しているはずだよね。それを再現すれば、あるいは……。

 早速、小型の水中ポンプと洗面器を用意する。洗面器に水を溜めてポンプを入れて、出力のホースを羽の翅脈の入り口に水漏れがないようにくっ付ける。出口もホースを取り付け、洗面器へと戻す。水は流れが分かるように水性のインクでピンク色に着色しておこう。

「よし、ポンプの出力を最小にして水を流してみよう」

 スイッチを入れると羽に水が流れ込み、根元から順番に薄いピンク色に染まっていく。次に魔石の両端を傷つけて、洗面器の中に沈める。使い捨てになるけど、これで魔素が水に浸透するはず。

 すると羽が反応して、少しだけ浮かび上がった。

「やった! 反重力魔術が再現できたぞ~」
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