ドラゴンの居る、何でも屋。~目指せ遥かなるスローライフ!~

水瀬 とろん

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第2章

第53話 森の魔女1

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「あの~。どなたかいらっしゃいますか」

「聞こえているわよ。今、そっちに行くから待ってなさい」

 誰かしら。こんな私の家にまで来るなんて。

「あなた達はいったい誰なのかしら? よくこんな森の奥まで入ってこれたわね」

 魔獣があんなにいる森を歩いてきたの? 軍隊でもここには近寄らないというのに。
あの森を抜けるためには、魔獣を刺激しない事。闇雲に攻撃すれば周りにいる魔獣も一斉に襲って来る。そして弱さを見せない事。弱い者は食われる。自然の摂理ね。

「私達は何でも屋で、協会からの預かり物を持ってきたんです」

 何でも屋? 町の中にいる何でも屋が摂理に反することなく、この森を抜けてきたと。

「そうなの。ここまで来たのなら、家に上げない訳にはいかないわね。でもそこの鉄の塊はここに置いていきなさいよ。そんなのを家に入れたら壊れてしまうわ」

 これは鉄の乗り物か何かかしら。人の背丈の半分くらいの丸や三角、四角の鉄の部品が無骨に組まれている。するとその上部の鉄板が2つに割れて中から人族の男の子が出てきた。

「まあ、人が入っていたの」

 よく見ると、甲冑が両手両足を地について、蹲っているような形に見えるわね。

「あの、キイエも呼んでいいですか」

 まだ幼いその男の子が私に尋ねる。

「まだ人がいるの。いいわよ、すぐに呼んであげなさい。魔獣に襲われてしまうわよ」

 ここには獣人の女の子が二人と鎧を着た鬼人さん。まだ森に仲間がいるなら呼んであげないと。
人族の子が胸からペンダント型の笛を取り出して吹いた。そのとたん、周りの森の魔獣が一斉にざわついた。

「あなた、いったい何をしたの!」

 笛の音はしなかったけど。森にいる魔獣たちが反応して興奮しているわ。
すると地面に大きな影が走った。上空にはドラゴンが飛んでいて、ゆっくりと私達の居る丸い平原に降り立つ。

「キイエって、ドラゴンのキイエ様だったの」

「我れを知っているお前は、エルフの里の者か。ハルミナは息災か」

「はい、長老は元気に活躍されております」

 里にいる長老様から、キイエ様の事は聞いた事がある。昔一緒に旅した仲間だと。そのキイエ様がどうしてここに? この人族の子に付き従っているの? 何だか変な人達が来たものだわ。

「扉はこちらよ」

 木の裏側にある扉から入って、中の螺旋階段を登る。

「木の中にこんな階段があるなんて不思議ですね」

 一番小さな羊族の女の子が訪ねてきた。

「これは一般的なエルフ族の家よ」

 滅多に他種族の人なんか入れないから知らないでしょうけど。そういえば私も、ここに人を入れるなんて初めてかしら。
木の上にある4階建ての家。一人で住むには大きすぎるけど、研究のための部屋を作っていたら、こうなってしまった。

 リビングに案内して、ソファーと椅子に座ってもらう。

「人を招くための家具などはないのよ。少し狭いけどそこに座っていてくれるかしら。お茶ぐらいなら出せるわ」

 この部屋も壁際に、本や資料の紙が山積みになっているけど気にしないでもらいたいわね。
形の違うコップに紅茶を入れて、背の低いテーブルに置く。

「ところで届け物を持ってきたとか言っていたわね」

「はい、これです。魔術師協会から預かってきています」

 手渡されたデンデン貝を耳に当てて、先端のボタンを押して伝言を聞く。

「またこの事ね。王都に帰って来いだの、研究成果を発表しろだの言っているわ」

「王都に帰る気はないんですか?」

「王都に帰っても、私が欲しい知識はないもの。もう魔術師協会も辞めてエルフの里に帰ろうかと思っているのよ」

 辞める手続きをしているから、協会が慌てて連絡してきたのかしら。

「ここで何の研究をされているのですか。王国の魔法技術は大陸で最高と聞いていますが」

「そうなのよ。私もそう聞いて魔法大学に入って勉強したんだけど、私が知りたかった事は教えてもらえなかったわ。だからここで一人研究してるのよ」

 魔法学科、魔道具学科、薬学科、歴史学科と、5年をかけて色んな学科を渡り歩き各部で博士号を取ったけど得られるものは無かったわ。

「私は万物の成り立ちが知りたいの。魔術なら魔法の真髄、究極魔法を知りたいわ。魔獣がどうして生まれたのかも知りたいの。でも魔法大学にその答えはなかったわ。エルフの里でも研究しているけど分からない事だらけなのよ」

 こんな壮大な研究には時間がかる。大学に答えが無いなら一人ででも研究を続ければいい。私の寿命なら答えにたどり着けるかもしれない。

「ここに来て魔獣の事については、少しは分かるようになってきたのよ」

 ここには珍しい魔獣も沢山いる。普通の獣と魔獣の違いや魔法能力獲得の過程なども分かってきた。

「魔獣は魔石を持つもので、待たぬものが獣だと拙者は教えてもらったが」

「一般的にはそうね。でも魔物の中にはその中間的なものもいるわ」

「それって、マンドレイクみたいな魔物の事ですか」

「あら、あなた小さいのによく知っているわね。マンドレイクを見たことがあるの」

「はい、この間シャウラ村でマンドレイク栽培を見せてもらいました」

「シャウラ村というと、栽培マンドレイクの発祥の地ね。栽培の文献を見たことがあるけど、画期的なものだったわね。細かく正確な絵もあってあれを書いた研究員は素晴らしい方だわ」

 その論分を書いた方も、現地で研究して成果を出した。私もそんな研究がしてみたい。

 すると下から木を叩く音がした。ベランダに出てみるとキイエ様が木を叩いているご様子。

「ユイトよ。森の魔獣が出てきたみたいだ」

 まあ、大変だわ。見慣れない者達が森の中に入って来て少し興奮しているようね。最近魔獣の数も多くなってきたから余計気が立っているのでしょう

「仕方ないわね。少し魔獣を狩りましょう。あなた達も手伝いなさい」

 元はこの子達が森に入ってきたせいなんだから、少しは働いてもらいましょう。
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