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第四章 初めての戦い

14.レランパゴ争奪戦勃発!!

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「なんだよ、お前は!?」

 叫んだソラの声は、どういう通信回線なのか黒のロボットのパイロットにも聞こえたらしい。

『ふん、俺様は……』

 男の声が聞こえる。
 が、そこにトモ・エの声が割り込む。

『私のストーカーです』
『な、誰がストーカーだ!』
『私達の後をずっとつけてきていたのでしょう、ケン・ト? そういうのを地球ではストーカーっていうんですよ』

 ケン・ト。それが相手パイロットの名前か?

『な、なにをいうか、俺様は偶然お前らと同時にこのレランパゴをみつけてだな。お前らが破壊する前に平和利用するために回収しようと……』
『この広大な宇宙で、そんな偶然は確率論的にありえません。どうせあなたの宇宙船ではレランパゴの反応を見つけられないから、ずっと私達を追っていたのでしょう? というか、私が地球に降り立つ前からずっとつけてきたんじゃないですか?』
『ぐっ、そ、そんなことはないっ! 俺様は自力でこれを見つけたんだ』

 言いながら、ロボットの右手でレランパゴを示すケン・ト。

『ですから、そんな偶然は……だいたい、何故最初から日本語に翻訳して通信をしているんですか?
 私をつけて地球でも見張っていたからでしょうに』

 そういえばそうだ。仮にこのケン・トという男が別の惑星の宇宙人だとしたら、なんで日本語をしゃべっているんだってことになる。
 どう考えてもソラ達が日本から来たと知っているからだろう。

『くそっ、アンドロイド相手に推理合戦では勝てないか』
『いえ、別に推理というほどのことでは……』

 トモ・エの声にはあきれが混じっていた。
 なんだか分からないが、トモ・エとケン・トは顔見知りらしい。
 一体、どうしたらいいのだろうか。向こうから攻撃を仕掛けてきたのだから、こっちも攻撃するべきだろうか。だけど、いきなり対人戦というのも抵抗があるし。

『ともあれ、このレランパゴは俺様が頂いていくぜ!』

 そういうと、ケン・トの機体はレランパゴに向き直り、両手をつきだした。
 ケン・トの機体の両手からキラキラと光る網のようなものが放出され、レランパゴに巻き付く。それは何十にもなり、あっという間に、レランパゴは網の中へと包まれた。

『じゃ、な。地球のお子様たち!』

 ケン・トはそういうとレランパゴを引っ張ったまま立ち去ろうとした。

『ちょ、待ちなさい!』

 舞子が叫び、ケン・トの機体を追う。
 さすがに、人が乗っている機体を撃つのは気がひけるのか、ミサイルは発射しないが。

『ちっ、女の子に手を上げるのは趣味じゃないんだがな』

 ケン・トはそういうと、舞子に銃口を向けた。

「舞子!」

 ソラは『時間制御』を使って状況を確認する。

(このままじゃ舞子が撃たれる!!)

 エスパーダを全速で走らせた。
 連続して使ったので、『時間制御』はもう限界だった。
 それでも、ソラは舞子の機体を押しのける。
 ケン・トの銃口から発射されたピンク色の玉はソラの機体に命中する。

『ソラっ!』

 舞子の叫び声がする。
 覚悟はしていた。
 何しろ、銃で撃たれたのだ。
 最悪撃墜されるだろうと。

 ――しかし。

 ソラの機体に当たったのは先ほどのピンクの玉だった。
 ピンクの玉はソラの機体にまとわりつき……

『ソラ、大丈夫!? ソラ!!』

 ソラは状況を確認する。

(撃墜は?)

 されていない。
 画面上の数値を見る限り機体にダメージもない。
 カメラが一部塞がれているが大丈夫。

(だとしたら、この攻撃は何だ?)

 ソラはケン・トに向き直った。
 そして、機体の右手を動かそうとして気がつく。

(エスパーダの手が動かない?)

 手だけではない。機体の足も動かなかった。まるで、セメントに固められたように。

『じゃあな、その状態でも船まで戻る程度の腕はあるんだろ? 難しかったら、彼女ガールフレンドに助けてもらいな』

 ケン・トはそういうと、レランパゴを引っ張ったまま離脱していった。

「あ、おい、この、待てっ!」

 ソラは叫ぶが、無駄な抵抗であった。

『待ちなさい!』

 舞子は叫んでケン・トを追おうとするが……

『無駄です、舞子さん。舞子さんの機体では計算上追いつけません』

 トモ・エの声が聞こえる。

『それよりも、ソラさんを連れて一度船にお戻りください。ソラさんのその状態で宇宙を漂うのは危険です』
『……わかったわ』

 舞子は悔しそうに言うと、ソラの方に近づいてきた。

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 宇宙船に戻るのは一苦労だった。
 何しろ、手足が封じられている状態だ。
 それでも、ジェット噴射などである程度移動方向は操れるのだが、自動操縦に手伝ってもらっても宇宙船にぶつかりそうになった。
 舞子に手助けしてもらいながら船に戻った時、ソラは本気で安堵の溜息をついてしまった。

 格納庫に入り、機体から出てみて、自分のエスパーダがどういう状態だったのかようやく外から見れた。
 ピンクの塊によって手足が固められている。つまり、強力な接着剤を付けられたような状態だ。

「2人共、ご無事で何よりです」
「一体何なのよ、あいつは!」

 格納庫に入ってきたトモ・エに、舞子が掴みかからんばかりに尋ねた。

「彼はアトラ・ケル・ケン・ト。惑星ケンタの商人です」
「商人? なんでそんな人が僕らの邪魔をするの?」
「もうお気づきだと思いますが、彼の目的はレランパゴです。それを回収して、エネルギーが枯渇している星に売るのが仕事です」

 ソラの質問にトモ・エが答える。

「だって、レランパゴはヒガンテを呼び寄せるんだろう?」
「確かにそうですが、ヒガンテの目撃例はほとんどありません。イスラ星人の生き残りの作り話と思っている星も多いのです。
 それに、多少リスクがあっても、目先の利便さには変えられないということもあります。実際、この船の動力にもレランパゴは使われているわけですし」

 トモ・エは苦いものを噛むように言った。

「あいつ、私達をつけてきていたのよね?」
「はい、おそらくは」
「どうしてトモ・エは気づかなかったのよ?」
「彼の船のステルス機能は大変強力です。本気で探らなければこの船の探知システムを持ってしても見つけられません」
「じゃあなんで、本気で探らなかったのよ!?」
「正直、油断していました。申し訳ありません」

 トモ・エはそう言って頭を下げた。
 こうも素直に謝られると、舞子も何も言えなくなってしまったようだ。

「ああ、もう、ムカつく。あれじゃあ、まるで獲物を横からかっさらうハイエナじゃない」

 舞子は毒づきながら両手を組んだ。

「いえ、地球のハイエナは必ずしも他の肉食動物の餌を横取りして生活をしているわけでは……」
「そんなことは、どうでもいいのよ! これからどうするのよ!?」
「彼の後を追っても無意味でしょう。まさか、彼の船を撃沈するわけにも行かないですし」
「どうしてよ!?」

 叫ぶ舞子にトモ・エは厳しい顔をした。

「……舞子さん、あなたは人殺しをしたいのですか?」
「え……」

 突然出てきた『人殺し』という物騒な言葉に、舞子は目を見開いた。

「宇宙船を攻撃するということは、そういうことです。もちろん、そうなれば向こうも本気で来るでしょう。今度はこんなセメント弾ではなく、本物の銃火器での戦闘になるかもしれません」
「……ぅ」
「しつこいようですが、これはゲームではありません。対応を間違えれば自分や相手が死ぬのだと心得てください」
「わかったわよっ!」

 舞子は吐き捨てるようにいうと、格納庫から出て行った。

「どうしちゃったんだろう、舞子?」
「興奮状態でしたね。心拍数、血圧ともに急上昇していました。戦闘の緊張や疲れだけでは説明が付きません」
「どうしたらいいかな?」

 ソラはトモ・エに意見を求めるが、彼女は肩をすくめてみせる。

「私はアンドロイドです。地球人の感情のことは分かりません」
「そんなに人間くさい仕草をしながら言われても」
「ともかく、舞子さんのことはソラさんにお任せします。私は次の目的地を選定しますので」

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 正直、今の舞子にはあまり近づきたくない気もするが、放っておく訳にもいかない。
 ソラは舞子の個室の前にやってきた。

「ねえ、舞子、気持ちはわかるけど、イライラしてもしょうがないよ」

 ソラは扉の向こうに話しかけた。
 すると、扉が開いて舞子が出てくる。

(少しは落ち着いたのかな?)

 ソラは思うが、次に舞子の口から出てきたのは予想もしなかった言葉だった。

「あんた、なんで私をかばったのよ」
「え?」
「私をかばって、自分が攻撃を受けるなんて、ただの間抜けじゃない。余計なお世話よ」
「なっ……」

 さすがに、ソラも二の句がつげなかった。

「あんな攻撃、自力で避けられたもん」
「それは……そうかもしれないけど……」
「なのに騎士ナイト気取りで身代わり? ふざけんな!」

 舞子は吐き捨てると、再び個室に閉じこもった。

(なんなんだよ、一体?)

 あとに残されたソラは、呆然とするしかないのであった。
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