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21:イヤイヤ期

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 あ、これはきたなって思いました。自分でも。

「お嬢様~お洋服を着ましょ~」
「やああああああ!!」

 服を持って追いかけるアンナと逃げるパンツを履いただけの私。
 どうも皆様こんにちは。コーラルです。 
 もう少しで2歳になるんですけど、前世の記憶があるからか早めに来てしまったようです。
 イヤイヤ期が。
 この状態でいるのも恥ずかしいといえばそうなのかも知れません。
 なにせ幼児。前世の記憶があれど体に感情は持っていかれるというもので。
 大人でもありますよね。溜まりに溜まって自分で怒りの逃し方が分からなくて爆発しちゃう感じ。
 あれが瞬間的に沢山来る感じです。私の場合はですが。
 なんていうか今日アンナが持っている服って以前も着たんですがきつかったんですよね。
 この時期は成長するのが早いので、ちょっとでも窮屈な服を着ると自分でも制御できない感情が芽生えます。
 ちゃんと言葉で伝えられたら良いんですが、伝えられなくてもどかしくて更に悪化。
 うーん。前世の2歳時もイヤイヤ期はこんな気持ちなのでしょうか。
 私にはわかりません。

「はぁ……はぁ……おじょ~さま~」

 パタリとアンナが倒れます。
 今の隙きです。
 私は隣の部屋と呼べば良いのでしょうか。
 内扉で繋がっている衣装部屋に駆け込んで寝間着を着ます。
 これはマサの仕業でしょう。
 他の衣装は私の手が届かない位置で吊るされていますが、寝間着の何着かは入り口近くの低い棚に置いてあります。明らかに私が手に取る用ですね。
 マサはお兄様のお世話もしていたと聞きます。
 それで私の言いたいこともすぐに察してくれるのでしょう。
 アンナに言ってあげればいいのにとは思いますが。

「うぅ~。今日も負けました……」

 アンナからすれば寝間着じゃない服を着せたかったんですよね。
 ごめんなさい。
 寝間着が一番ゆったりとしていて楽なんですよ。

「よちよち」
「おじょ~さまああああっ」

 可哀想なアンナの頭を撫でてあげます。
 アンナの言葉を訳すなら、撫でるくらいなら着てくれということですかね。
 そのお願いは聞けません。

「ね、こちらの服可愛いじゃないですか。着ましょ?」
「やっ!」

 ぷいっとそっぽを向きます。
 何度も思うんですけどアンナの持ってくる普段着ってきついんですよ。
 しかもまだ部屋から出られていません。
 誰に見せるんですか。
 この後アンナを構っても不毛な戦いが始まるだけなので、さっさと玩具箱のところへ向かいます。
 柔らかいラグのところへ誕生日にサムから頂いたお月さまの手押し車を押して玩具を移動させます。

「あーひめ」

 泡姫の絵本を引っ張り出して読み始めます。
 文字の練習にも良いんですよね。
 アンナとお兄様が呆れるくらいには読み込んでます。
 お陰様で丸暗記できました。
 単語と丸暗記した音声言語をつなぎ合わせていくのですが中々に難しいです。
 できれば紙に書き出したいのですが、この歳はまだなんでも口に入れてしまう時期ですしペンなどは持たせてもらえません。
 口に入れて大丈夫か確かめるなんて原始的ですね。本能なので致し方ありません。
 絵本は泡姫だけではありません。
 他にも多くの絵本がこの部屋にはありますが、何故か好きなんですよね。
 良い教本です。

「お嬢様ぁ。お願いですぅ」

 アンナがシクシクとしているのも無視です。
 どうせ大丈夫か聞けば服を着てくださいしか言わないんですもの。
 コルセットのような服ではなくもっとゆったりとしたワンピースなら着るんですがね。
 さて、今日も頑張ってお勉強しましょう。

「おじょうさまあぁぁ……」
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