けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

16王都に向かうにょ

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 長い冬が終わり、春先の今にはもう青々と茂る木々の間を馬車は通りぬけ、次の町で馬車を乗り換えれば王都の関所にたどり着けるだろうと御者が言っていた。
 ネフリティス村から大人の足で半日歩いた場所にある町から、旅馬車を使って王都を目指していたエテルネルは一週間の旅も漸くこれでおわりかと思う。すっかり仲良くなった人々も次の町か王都で別れることとなるだろう。
 お昼前には到着し、一時間後に次の駅馬車が出発すると御者から伝えられ、馬車を降りた。

 駅馬車とは、町から町まで半日の距離を運行する馬車のことである。
 よく小説などでは主人公の村から王都まで一つの乗り物で行くような描写がされていることが多いが、この世界で長距離に使う乗り物は基本的に使うのは4頭の馬でひく馬車であり、一日に進む距離は大体170kmもいかないくらい。何時間かごとに町か村などに立ち寄って休憩も入れるし、道が舗装されているわけではない。道がぬかるんで車輪が嵌まる時もあれば山道では男たちが降りて少しでも馬車を軽くすることだってある。雨が降れば運休することだってあるのだ。

 実際、エテルネルが技能を使って走って王都へ行くのと馬車で移動するのではどちらのほうが早いかと聞かれれば圧倒的に技能を使って王都へ行く方が早い。しかし、そうしなかったのはインベントリに入れられない荷物があるからだ。
 アルモネの助言どおりインベントリには物を入れないようにした。
 以前使用していた天啓人だとわかるアイテムや装備は入れているが、学園に入学するための書類や一週間の荷物はスーツケースに入れている。車輪がついたスーツケースは天啓人が伝えたもので、今では広く普及しているらしい。ちなみにアルモネから買い取った。

「紅茶とさんどいっち、くださいにょ」
「かしこまりました」

 適当な食堂らしきところに入り、昼食を頼む。
 顎の高さまである大きなスーツケースをエテルネルが持っていれば周囲にいる人は当然エテルネルを気遣ってくる。余裕で持てるのだが、駅馬車に乗降するときは入り口に近い用心棒が親切に乗せてくれた。
 それくらいエテルネルが持つには大きいスーツケースを片手に持って短期間で関所まで行ってしまうとそれこそ天啓人だと言っているようなものだろう。そんなアルモネの説得にエテルネルは従ったまでだ。
 しかも他にも荷物があり、それらは先に寮に送っているらしい。つまりここにあるのはお世話好きなイリシャが用意した産物ということだ。何からなにまで世話になっている分、無下にもできるまい。

「よう嬢ちゃん、大きい荷物持ってるじゃねえか」

 そう声をかけてきたのは大柄で目元に傷のある男だった。後ろには体つきの細い、いかにも小物臭のする男二人がいる。
 内心ため息を吐きながらこれも何度目だろうかと遠い目をしたくなってくるというものだ。勿論エテルネルは男たちに対して無視を決め込んだ。

「お父さんとお母さんはどうしたんだ。なんなら、俺達が送ってやってもいいんだぜ」

 この世界は普通の人からすると相変わらず物騒極まりない。戦争中程ではないだろうが、女子供の一人旅だと必ずこうして絡まれる上に金品の巻き上げや盗難、最悪人身売買人に捕まってしまう。
 だからネフリティス村を出る際、クラヴィとイリシャが難色を示したのも頷ける。

 最も、それは普通の子供相手の話だろうが。

「聞いてんのかって」
「うっさいにょ」

 一言、エテルネルは三人を睨んだ。
 不機嫌だったことも影響してか、戦闘態勢に入ったとみなされたのか。敵視している三人に対して【能動技能《オートスキル》:威圧】が発動した。
 これは戦闘開始直後に自動で発動する技能のうちの一つで、目があった相手を恐怖状態にさせることができる。高レベル、または対抗する技能があれば効きはしないが、出鼻を挫くのには大いに活用できる技能だ。これがゲームではないからか、戦闘かどうかの区別がおもったより曖昧なようだ。
 今の状況は周囲にとってはたかが幼子に気圧される大人、としか見えないだろう。当人達もたかだかレベル70程度。技能には詳しくないらしく、気圧される原因をわかっていない。

「消えろ」

 視線をやっただけで、目元に傷のある男の子分達は尻もちをつく。もう少し眼光を鋭くすればおそらく気絶するのではないだろうか。
 そんな中ふっと、視線を逸らす。カウンターの向こう側でウエイトレスがサンドイッチをちょうど持ってようとするところであった。次に視線を戻すと、そこにはもう男達はいない。
 こんな感じのやりとりをかれこれ一週間は続けている。早く王都につきたいものだ。

「お待たせしました」
「ありがとうにょ!」

 もう先ほどのやりとりなどなかったかのようにエテルネルはサンドイッチにかぶりつく。その際、ソースを頬につけるのはお約束である。サンドイッチがエテルネルの口よりも大きいから致し方無い。
 自分の見た目は随分と侮られる。それは旅をしてすぐに分かったことであるし、仕方ないことだと割りきった。この季節からしても学園に向かって両親とはぐれた旅をする途中の子供、もしくは王都に何らかの用事で向かうことは傍目からしてわかることだろう。しかも大きな荷物を持っていることからして遠くから来たことは明白で、路銀を多めにもっていることは想定されることだ。
 だから、絡まれるのもわかる。ただ、相手がエテルネルということで相手が逆に不憫だということくらいだろうか。

「こんにちは、相席させて頂けませんか」

 ふっと頭上が陰ったかと思えば、フードを被った女性がいた。
 今エテルネルが座っているのは三人座れるテーブルだ。こういった食堂では人が多い場合は相席することもあるのだが、見る限りまだ空席はある。

「おい、あっちにも空いてるせ──」
「一緒に昼食を摂らせて頂きたいのです」

 女性の隣にいた男性もエテルネルと同じことを考えたのか、当然のことを言おうとして遮られてしまった。
 室内でフードを被るなんて不審者極まりない。顔が綺麗だったり、指名手配だったりで狙われているのかもしれない。もしくは、言葉が丁寧だからもしかすると貴族のお忍びかもしれない。顔を見せないのはなにか事情があるんだろうと敢えて突っ込まずに同席を許可した。

「ありがとうございます。許可を頂けたことに感謝を」
「なにをそんなに緊張してるんだ? あ、俺は酒で」
「今は昼間です。私は紅茶、彼にはコーヒーで構いません」

 大げさに感謝する女性に対して、男性は近くを通ったウエイトレスに酒を注文する。すぐさま女性に訂正されていたが。食事は量が違えどエテルネルと同じサンドイッチにするようだ。

「申し遅れました、私はウルドと申します。以後、よしなに」
「お前なんかさっきから硬いぞ。嬢ちゃん俺はカロス。これも何かの縁ってことでひとつよろしく」

 たかが相席になっただけなのにカロスと違ってウルドの声は確かに硬かった。
 エテルネルに用があるのだが話さないウルドは、声からしても女性だとわかるようにフードからちらっとみえる細い輪郭に形の良い口元。それだけで美人であることが想像できる。
 一方、カロスは大柄な人間で、一瞬巨人族かと思ったくらいだった。曽祖父が巨人族らしく、よく間違われるのだと笑っている。ありふれた赤茶色の短髪をがしがしとかいて、彼はエテルネルによく話しかけた。子供好きなんだなと思いつつ、快くその話を聞く。

「じゃあエテはこれから王都に行くんだな。俺達は仕事が終わって帰るところだったんだ」
「魔物の討伐かにょ?」
「まあ、似たようなもんだ。依頼に関しては基本秘密保持ってのがあるからな」

 曖昧にしつつ、嘘はつかないところに好感が持てた。でも聞いたところによるとどこの傭兵でも依頼内容は基本明かさないらしいので、これからは注意だろう。

「王都ってどんなところかにょ」
「そーだなぁ。人がいっぱいいて、食いもんがうまくて、いろんな珍しいものがあるな」
「カロス、それは説明が大雑把すぎます」

 さり気なく王都に通常は住んでいるというので様子を聞いてみたが、カロスの表現はまるで子供のようだった。ウルドの訂正がすぐに入り、ウルドが説明してくれる。

「高さ15m、厚さ3mの壁に囲まれており、3カ国の中でも随一の広さを持つ城下町が広がっています。各地から集った珍しい品々が市にならび、少し坂を登れば住居区、学園区、貴族区、そして王城へとたどり着きます。カロスの言うとおり人も多く、多種多様な人々が行き交いますよ」
「ところで通行証はどうするんだ。普通、エテくらいの年頃だと親同伴じゃなきゃ入れないはずだけどな」

 先ほどきたサンドイッチを頬張りながら、今更気づいたというように彼は聞いてくる。
 ウルドが説明してくれた壁が謂わば関所と呼ばれ、通るときにはギルドカードか貴族が発行する通行証が必要になるらしい。エテルネルはギルドに入れない年齢なので、今回爵位も持っているらしいアルモネに協力をお願いした。持つべきものは友人である。
 本当はクラヴィがついてきてくれる予定だったのだが、冬の間にイリシャの妊娠が発覚したためそう決まったのだ。子供思いなクラヴィとイリシャが大反対したのも納得だが、カンストプレイヤーであるエテルネルを傷つけられる者がいるなら知りたいくらいだ。
 そんな理由まで説明しなくていいとエテルネルは通行証なら持っている、とだけ応えた。
 アルモネが発行してくれた通行証は関所だけではなく学園へも入れるものになっているのだが、それも敢えていう必要などないだろう。

「まあ、通行証があるならいいけど。おっともう少しで時間か」

 時計を見ればもう少しで駅馬車が出る時間だった。
 簡単に会計を済ませて店を出ると、ウルドはすぐにエテルネルのマントについていたフードを被らせる。

「ご忠告を。貴女の容姿は狙われやすい」
「ありがとうにょ。でも、心配はいらないけどにぇ」

 どうせ乗る馬車は一緒だとカロスがエテルネルの荷物を持って三人は駅馬車の停留所へ向かう。
 失礼しました、と言ったウルドの口元がかすかに弧を描いたのは、気のせいだろうか。

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