けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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プロローグ

2技能確認にょ

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 いくら幼女になったからと言って、体力が落ちるということはないらしい。
 30分ほど歩き通しであってもさほど疲れを感じなかった。
 普通ならば10分でも歩けばこの体は疲れを隠せなくなるだろう。しかも、私は舗装された道しか殆ど歩いたことがないので、木の根や大きな岩がむき出しの道無き道を歩くにはハードすぎる。
 そう考えていたのに感じるのは「お腹が空いたな」程度で、疲れではない。
 身体能力の問題はすべて今まで上げてきたステータスが影響しているのだろう。まあ、そうしなければ例え技能を使えたとしても身体がついていないのだが。それにしたって、前世よりも丈夫な身体を手に入れた今ではなんでも出来そうな気さえしてくるから不思議なものだ。

 人に会うまでに今の現状を把握するのは大切だろうと、歩き続けていたエテルネルは思う。
 序に腹も減ったので、近くの木にあった果実を見て技能を発動させる。

【補助技能《アシストスキル》:鑑定】

 こういう異世界へ来た物語の主人公が一番初めに戸惑うことの1つが、スキル、この世界においては技能の発動なのだと思う。
 普通はマウスやショートカットキーなどを行使することによって発動させていたそれらは、VRMMOの普及により変わっていった。ヘッドギアを装着し、起動させることによってゲームを体感する。
 故にコントローラーもなければキーボードもない。考えるがまま、思うがままにゲームを楽しむことが可能なのである。勿論、ゲームの中でもコントローラーやキーボードを使用するゲームも存在するが、このエスというゲームでは少なくともすべてが思うがままに技能を発動させていた。
 それと同じ感覚でやれば、技能も発動させられる。無難に攻撃系や補助にしなかったのは、それによってどれほどの威力が出るのか、現実となった世界ではわからなかったからだ。

 《アグサの果実》
 甘い果実。多くの栄養を含んでおり、滋養によしとされる。

 透明なウィンドウによって表示された説明はゲームであったエスの中と変わりない。もしかして、ここは逆にゲームで、異世界ではないのだろうか。そう考えてみるものの、自分が死んだのは記憶にあるし、ゲームにしては感覚が生々しすぎた。
 ゲームと現実の境界線。VRMMOの越えられない壁とは、まさに現実とは違う感覚のことだ。聴覚、視覚、味覚、触覚、嗅覚という五感をすべて再現することは不可能である。
 圧倒的に足りない情報量。それらを再現するにはゲームでは要領が大きすぎるというのも1つの問題であり、これから先も絶対にすべてを再現することは出来ないのだと言われていた。
 だから、ここは現実。五感すべてが訴えるそれらを、エテルネルはそう判断したのだ。

 エテルネルはジャンプしてその果実を採ると、川ですすいで食べた。
 見た目は赤い林檎によく似ているが、しゃりっとした感触と瑞々しい味が梨によく似ていた。

【補助技能《アシストスキル》:身体強化3】

 腹ごなしも終わってエテルネルはすっと構えを取ると、身体補助系統の技能を発動させる。最大5まであるのだが、まずは弱めのものから、ということだ。
 身体補助系統にも種類は様々で、例えば今エテルネルが使っているものは10分間物理防御、物理攻撃を5%上げるというものだ。長時間の戦闘では切れる度にリキャストタイムである1分が必要になるが、それがこの世界で適用されているのかは定かではない。あまり頼り過ぎないようにすることが大切だろう。

「すぅ……はぁっ!」

 一呼吸。その後、近くの岩に向かって突きを入れる。別に本気ではなかった。ただ、どれ程の威力かを知りたかったのだ。
 エスの時は通常攻撃でさえ岩を壊せたが、実際に壊せるとは限らない。エテルネルの2倍太さも高さもあるその岩を抉れたら御の字だろう。そう思っていた。
 ズゥンと地震のような衝撃の後、エテルネルが突きを入れた岩は粉砕されていた。それどころか、衝撃波も放っていないのに地面が抉れた程だ。違う、抉りたかったのはそれじゃないと彼女も言いたいだろう。

「あばばばばば」

 手をわたわたと振り、己のした事に呆然とするばかりだ。誰もいないからいいようなものの、明らかに幼女とはいえない威力だ。
 ともあれ、これで洒落にならない事態であることは把握した。この調子では本気で技能を放てばどうなるか。そんなこと考えたくもない。
 身体強化されることによって疲れにくくなったり、持久力が伸びたりとするのだが、この調子では2以降封印した方が良いだろう。
 この世界がエスだろうとそうでなかろうと、エテルネルは勇者になる気も、魔王に成り上がる気もない。出る杭は打たれる。それを前世で痛いほど感じたのだから、この世界ではのんびり過ごしたい。
 仲間と苦労して取得した装備や技能には申し訳ないが、殆どを使わず生きようと決めた。

 しかし、村や町を見つけないことには話は始まらない。それまでは慣らしを兼ねて技能を使っていった方がいい。
 矛盾しているかもしれないが、どの難易度の魔物が出てくるか分からないところをのうのうと技能なしでいるほど能天気ではない。技能が使えればいざという時に困らないし、使えるものを使える状態にしないのはただの怠惰だ。

 エテルネルは【補助技能《アシストスキル》:周囲感知】を確認しつつ、周りに魔物がいないことを知る。これはその名の通り、周囲の生物反応を見る技能だ。敵か味方か目の前に現れるウィンドウで区別される程度だが、ゲーム内ではそれで十分だった。
 魔物か、そうでないか。特にクエストを受けているわけでも無いのでその区別になることだろう。
 問題は点在する味方が、人間か動物か分からないところだ。生物反応なので、動物でも反応する。しかも、マッピングが出来ていないので、今歩いたところまでしか分からない。

「ふむぅ。ま、いっちょ頑張って進むにょ!」

 川に沿ってある歩く方針を変えずに念のため【身体強化4】を使いながらエテルネルは走り出したのであった。


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