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学園編
18関所にょ
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夕日が空を赤く染めて人々の影が伸びる頃に王都に到着した。
今の時間は人通りも少なく、夜は魔物が闊歩する時間でもある為に王都から出る馬車もない。これが昼間であれば馬車と人の行き帰りが激しいのだとはウルドの談だ。
言われたとおり、王都の城下町を囲む城壁は厚く、身長が低くなったからか絶壁とも呼べる壁が存在した。技能を使えば登れないこともないだろうが、対策はしているだろうし何よりするつもりはない。途中で落ちた時のことを考えると登るよりも正規に入るほうが余程心臓に良いだろう。
駅馬車は決められた場所に停車すると、乗客をすべて降ろして専用の通路へと入っていった。これから駅馬車は私達とは別の場所で検査を受けて入るらしい。
「並んでお待ち下さーい」
門番の一人がそう言って人混みを整理し、ギルドカードや通行証を確認するようなのでエテルネルはウルド達の後ろに並んでスーツケースから通行証を取り出した。ここで入れなければ馬車はもうないので危険な城壁の外に一夜を過ごさなければならない。
長くはない列で、すぐに順番はきてしまった。
「カロス様とウルド様ではありませんか。お疲れ様です」
二人を見た確認作業担当の兵士が胸に右手の甲を向けて握り拳を作り、軽く一度叩いて一礼した。兵士というと日本式の敬礼がエテルネルとしては頭に浮かぶが、今兵士のした行為がこの国特有の一礼なのだろう。
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様です。カロスから検査をお願いします」
しかも、カロスとウルドは頭を下げずに声をかけただけだ。一礼は低い身分や部下がするもので、目上の者は頭を下げないことが当たり前、なのだろうか。多くの人を見ていないからまだそこは分からない。
エスの時も貴族は頭を下げなかった。一礼の仕方も3カ国が混ざったとなれば当然やり方だって変わってくるものだろう。
さっと二人の身体検査が終わり、次の人、と確認作業担当の兵士がエテルネルを見下ろした。
「えっと、お嬢ちゃん一人かな」
「そうだにょ。はい、通行証」
スーツケースと武器を始めに渡して確認している間、手に持っている通行証を兵士に渡す。
通行証の確認をしていた兵士が、一瞬目を見開くところが見えた。
「これは、本物かな」
「失礼だにぇ。本物にょ」
ジロッと半目になれば、兵士は困った顔をする。大方、エテルネルが持ってきた通行証が本物かどうかを判断しづらいところなのだろう。それはエテルネルも理解できる。しかし、大人が偽の通行証を持ってきても簡単に通すとは思えないので、何かしら対策があるのではないだろうか。
「ごめんね、疑ってる訳じゃないんだけど。通行証の取り扱いは繊細なんだ。説明するからこっちに来てくれるかな。……あ、ここ頼む」
「了解。おーい、誰かこっちに来てくれ!」
慣れたように確認作業担当者が交代し、エテルネルは門の内側にある建物へ案内された。
多くの兵士が行き交い、手には資料を持っていたり、急ぎ足で手製のメモ帳を見ている者もいる。兵士の詰め所、といった所だろうか。こうしてエテルネルのように通行証を持ってきた者を通すということはここに居るのは書類仕事などを行う兵士ということになるだろう。汗臭さも感じられず、逆に廊下なども綺麗に掃除されているので訓練したり実際に兵士が休憩する場所は他にありそうだ。
物珍しさにキョロキョロしていると兵士達は微笑ましそうにエテルネルを見てくる。それを見ない振りして観察していると、少し歩いた一室に通された。
「まだ本物とわかってないのに門の中に入っていいにょか」
「通行証を持ってこられる方は基本貴族だったり、君のような学園に推薦されるような子が多いからね。不正も起きないようにこの部屋には【特殊付与】で【看破】を仕込んだ物が設置してあるから、正当に審査できるんだよ」
「ふぅん、【看破】かにょ」
目の前に置かれている器具を見てエテルネルは鼻を鳴らした。
部屋には絨毯が敷かれており、繊細な装飾が施された長椅子や机。入り口に置かれた小さなテーブルには花瓶が置かれており、壁掛けには絵画や草木のレリーフが飾られている。彼の言うとおり、貴族を招いても大丈夫なように整えているのだろう。
机の上に子供の頭ほど大きな水晶球と、直接机に書き込まれた魔法円があった。
兵士は魔法円の上に通行証を置いてエテルネルに水晶へ手を置くように指示する。
「この水晶は触った相手のステータスを見ることができるんだけど、特別に名前と年齢、種族しか見れないようになっているんだ」
「通行証に書かれている名前と一致しているかこのアイテムで【鑑定】して、そっちの魔法円は通行証が本物であるか【看破】するためのものってことだにぇ」
なるほど~と呑気に感心するエテルネルに、兵士は少し口を開けて固まった。おい、口が開いてるぞと言いたい状況であるが、そんなことを言っては怒られるだろうか。
「前にも入都審査を受けたことがあるのかな」
「ないにょ。そもそも【看破】はモノの真偽を明確にする技能だにょ。例えば【擬態】でステータスを変えていたり【隠密】で影の中に隠れている所を見破る技能が【看破】なんだから、どう使うかなんて分かるようなものだと思うけどにぇ?」
その流れで行くと、水晶球の使い方だって分かってくる。別に特別なことじゃない。
「いやいや、まずその年で分かるのが凄いんだって。本当に7歳、でいいんだよね?」
「ステータスを確認すれば分かることだと思うけどにぇ。フードも取ったほうがいいにょか」
「いいや、水晶球で種族も確認出来ているし、ハーフは種族的にも繊細な問題だからそのままでいいよ。名前もエテちゃんでいいかな」
合っていると頷けば彼は持っていた別の紙に何かを書き込んで確認作業は終わりだと言った。
書き込んでいる間にサッと水晶球と魔法円に【鑑定】を使ったが、やはりというかカンストプレイヤーであるエテルネルが【偽装】していれば見破れない程度の【特殊付与】でしかない。これは本格的にエテルネルを天啓者と見破れる策はない。エテルネルがドジを踏まなければという話が前提になるが。
スーツケースと武器を受け取ってエテルネルは晴れて王都へ入ることが出来たのだった。
今の時間は人通りも少なく、夜は魔物が闊歩する時間でもある為に王都から出る馬車もない。これが昼間であれば馬車と人の行き帰りが激しいのだとはウルドの談だ。
言われたとおり、王都の城下町を囲む城壁は厚く、身長が低くなったからか絶壁とも呼べる壁が存在した。技能を使えば登れないこともないだろうが、対策はしているだろうし何よりするつもりはない。途中で落ちた時のことを考えると登るよりも正規に入るほうが余程心臓に良いだろう。
駅馬車は決められた場所に停車すると、乗客をすべて降ろして専用の通路へと入っていった。これから駅馬車は私達とは別の場所で検査を受けて入るらしい。
「並んでお待ち下さーい」
門番の一人がそう言って人混みを整理し、ギルドカードや通行証を確認するようなのでエテルネルはウルド達の後ろに並んでスーツケースから通行証を取り出した。ここで入れなければ馬車はもうないので危険な城壁の外に一夜を過ごさなければならない。
長くはない列で、すぐに順番はきてしまった。
「カロス様とウルド様ではありませんか。お疲れ様です」
二人を見た確認作業担当の兵士が胸に右手の甲を向けて握り拳を作り、軽く一度叩いて一礼した。兵士というと日本式の敬礼がエテルネルとしては頭に浮かぶが、今兵士のした行為がこの国特有の一礼なのだろう。
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様です。カロスから検査をお願いします」
しかも、カロスとウルドは頭を下げずに声をかけただけだ。一礼は低い身分や部下がするもので、目上の者は頭を下げないことが当たり前、なのだろうか。多くの人を見ていないからまだそこは分からない。
エスの時も貴族は頭を下げなかった。一礼の仕方も3カ国が混ざったとなれば当然やり方だって変わってくるものだろう。
さっと二人の身体検査が終わり、次の人、と確認作業担当の兵士がエテルネルを見下ろした。
「えっと、お嬢ちゃん一人かな」
「そうだにょ。はい、通行証」
スーツケースと武器を始めに渡して確認している間、手に持っている通行証を兵士に渡す。
通行証の確認をしていた兵士が、一瞬目を見開くところが見えた。
「これは、本物かな」
「失礼だにぇ。本物にょ」
ジロッと半目になれば、兵士は困った顔をする。大方、エテルネルが持ってきた通行証が本物かどうかを判断しづらいところなのだろう。それはエテルネルも理解できる。しかし、大人が偽の通行証を持ってきても簡単に通すとは思えないので、何かしら対策があるのではないだろうか。
「ごめんね、疑ってる訳じゃないんだけど。通行証の取り扱いは繊細なんだ。説明するからこっちに来てくれるかな。……あ、ここ頼む」
「了解。おーい、誰かこっちに来てくれ!」
慣れたように確認作業担当者が交代し、エテルネルは門の内側にある建物へ案内された。
多くの兵士が行き交い、手には資料を持っていたり、急ぎ足で手製のメモ帳を見ている者もいる。兵士の詰め所、といった所だろうか。こうしてエテルネルのように通行証を持ってきた者を通すということはここに居るのは書類仕事などを行う兵士ということになるだろう。汗臭さも感じられず、逆に廊下なども綺麗に掃除されているので訓練したり実際に兵士が休憩する場所は他にありそうだ。
物珍しさにキョロキョロしていると兵士達は微笑ましそうにエテルネルを見てくる。それを見ない振りして観察していると、少し歩いた一室に通された。
「まだ本物とわかってないのに門の中に入っていいにょか」
「通行証を持ってこられる方は基本貴族だったり、君のような学園に推薦されるような子が多いからね。不正も起きないようにこの部屋には【特殊付与】で【看破】を仕込んだ物が設置してあるから、正当に審査できるんだよ」
「ふぅん、【看破】かにょ」
目の前に置かれている器具を見てエテルネルは鼻を鳴らした。
部屋には絨毯が敷かれており、繊細な装飾が施された長椅子や机。入り口に置かれた小さなテーブルには花瓶が置かれており、壁掛けには絵画や草木のレリーフが飾られている。彼の言うとおり、貴族を招いても大丈夫なように整えているのだろう。
机の上に子供の頭ほど大きな水晶球と、直接机に書き込まれた魔法円があった。
兵士は魔法円の上に通行証を置いてエテルネルに水晶へ手を置くように指示する。
「この水晶は触った相手のステータスを見ることができるんだけど、特別に名前と年齢、種族しか見れないようになっているんだ」
「通行証に書かれている名前と一致しているかこのアイテムで【鑑定】して、そっちの魔法円は通行証が本物であるか【看破】するためのものってことだにぇ」
なるほど~と呑気に感心するエテルネルに、兵士は少し口を開けて固まった。おい、口が開いてるぞと言いたい状況であるが、そんなことを言っては怒られるだろうか。
「前にも入都審査を受けたことがあるのかな」
「ないにょ。そもそも【看破】はモノの真偽を明確にする技能だにょ。例えば【擬態】でステータスを変えていたり【隠密】で影の中に隠れている所を見破る技能が【看破】なんだから、どう使うかなんて分かるようなものだと思うけどにぇ?」
その流れで行くと、水晶球の使い方だって分かってくる。別に特別なことじゃない。
「いやいや、まずその年で分かるのが凄いんだって。本当に7歳、でいいんだよね?」
「ステータスを確認すれば分かることだと思うけどにぇ。フードも取ったほうがいいにょか」
「いいや、水晶球で種族も確認出来ているし、ハーフは種族的にも繊細な問題だからそのままでいいよ。名前もエテちゃんでいいかな」
合っていると頷けば彼は持っていた別の紙に何かを書き込んで確認作業は終わりだと言った。
書き込んでいる間にサッと水晶球と魔法円に【鑑定】を使ったが、やはりというかカンストプレイヤーであるエテルネルが【偽装】していれば見破れない程度の【特殊付与】でしかない。これは本格的にエテルネルを天啓者と見破れる策はない。エテルネルがドジを踏まなければという話が前提になるが。
スーツケースと武器を受け取ってエテルネルは晴れて王都へ入ることが出来たのだった。
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