けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

24初授業にょ

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 本館の2階にある教室で、エテルネルは教壇の隣に立っていた。
 教室は日本のいう大学の講義室のような作りになっており、後ろの生徒の顔まではっきりと見える。頭を下げていても丸わかりだし、逆に目が悪くなければ前の席を気にせず黒板の文字が見える。これはどこの教室も同じつくりになっているのだと説明された。

「エテですに。よろしくお願いしますにょ」

 ぺこりと頭を下げれば、子供達のざわめきは一層大きくなった。
 生徒は30名前後。種族は人間、獣人、巨人、エルフ、精霊、ハーフなど様々だ。この王都にある学園は天啓人が作っただけあって種族問わず人が集まるらしい。それでも、一学年あっても5クラスまで。合計150名というと多いように感じるけれど、全種族が入学可能であればその門戸の狭さが分かる。
 好きな席に座っていいと言われたので一番後ろの窓側。空いている席に座った。

「では、授業を始めるわ。1限目は歴史──と、言いたいところだけれど。エテさんも入ってすぐということで、好きな歴史上の人物に纏わることを勉強しましょうか」

 指示棒を持ちながら、オルマは誰か好きな人物がいる人、と声をかける。エテが手をあげればすぐに指名するだろうが、エテルネルは歴史上の好きな人物と言われても、さらっと要点を見ただけなのでさほど興味もなかった。覚えているのは精々この国や学園の成り立ちくらいだろうか。
 エテルネルが挙手しない為、オルマはエテルネルの近くで手をあげていた少年を指名する。

「はいっ。俺は『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』が好きです!」

 ずるっと、エテルネルは頬杖をついていた顔が手から滑った。

「ではその話をしましょうか。教科書の114ページを開いてね」

 エテルネルは隣の席に座る少女が首を傾げているところを視界の端に捉えつつ、教科書を開いた。
 そこには活躍した天啓人の中でも大きく『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』と見出しにかかれた記事があった。しかも誰が書いたか分からないが、上手なイラスト付きでギルド員全員が何かと戦っている描写だ。

「じゃあ右から順番に横へ文章を読んでいってね」

 右端から順番に子供達が読んでいくが、エテルネルまで回ってくることはないだろう。
 それよりも、書かれている内容にほぼ間違いはなく、この記事の製作者は天啓人の中でもエテルネル達と特に親しかった者が書いたと予想できる。あとで見たら身悶えるような代物を後世に残さないで欲しいとエテルネルは顔を真赤にした。

「はい、ありがとう。読んでもらったとおり、今から100年前。まだ天啓人の方々がいらっしゃった頃。中でも全員レベルが上限に達している精鋭の『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』というギルドは存在したわ。全員種族はばらばらで、中にはハーフもいたそうね」

 最終的には、全員の種族がバラバラになった。途中までエルフは2人だったが、エルフの中でも獣人と同じように部族が違ったのだから決して間違いでもない。

「ギルド員は種族が違えど仲がよく、そして国を決して裏切らなかったと言われているわ。戦争の時は殆ど参戦し、例えギルド員同士が敵になろうとも一切手を抜くことなく戦った」

 教師用の教科書はきっと補足が書かれているのだろう。エテルネルの教科書には書かれていないことを喋っている。
 ギルドでは掟なるものを作って守るように徹底していた。注意で終わることに関してはそこまで厳しくなかったが、明らかなルール違反は即ギルドから除名処分という形をとると皆で決めた。皆が楽しく遊ぶには守らなければならないマナーというものが存在する。
 その一つが国家機密を他国に漏らすこと。言い換えるなら、戦争に勝つためにスパイ行為は禁止だということだ。国の作戦として他人がやっている分は気にしない。けれども、種族がほぼ違うギルドだからこそ、一番始めに疑われることを防ぐためであり、ギルドを成り立たせるには必要なことだった。
 もう一つは戦争においてギルド員同士が戦う場合は手を抜かないこと。態と負けないことだった。どうしようもない場合、作戦だった場合はともかく、カンストプレイヤーである自分達が率先して諦めるという行為は同じ国の天啓人の士気を下げることに繋がりかねないから。しかし、ギルド員は誰しも戦うことが好きなため、またギルド員同士でもよくPvP(対人戦)をしていたのであってないような掟だったが。
 それが後世にまるで忠誠を誓ったように格好良く書かれているなら悪い気はしなかった。

「中でも花形と言える人物はやはりギルドマスター。情に厚く、戦場では殿を多数引受け、レイピアを得物とされていたそうよ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。正に一軍を率いるその姿から『疾風の獣姫』と呼ばれているわね」

 うんうんと内心喜んでいるところへ送られた不意打ちのような言葉に、ぶふぅっと吹き出してしまった。そのせいで怪訝な顔をしたオルマにどうかしたのか、と聞かれてしまった。
 エテルネルも含めたギルド員達にとっては二つ名というものが鬼門だった。謂わば自分達の行いによって運営から強制的に送られたものばかりだからだ。二つ名には一つ一つ説明書きのようなものがされているのだが、まさかそのまま起用されているとは思わなかったのである。これを亜紀沙自身が知れば、叫んで窓から飛び降りるに違いない。

「な、なんでもありませんに……」
「そう? そして絵本にもなっているとおり『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』は個性豊かな人の集まりで、『殲滅の弓姫』と呼ばれる獣人とエルフのハーフもまた世界的に活躍した1人でもある。弓術に長けていたにも関わらず、近距離で戦うことを得意とした人物とも言われているわ。けれど、未だに彼女のような戦闘術を完全に身に着けられる人物はいないとされているわね」

 エテルネルはもう真顔で無言になった。エテルネルは『殲滅の弓姫』と呼ばれることが嫌いなのである。この100年という間、名前ではなく称号だけが伝わったのだろう。教科書を見ても分かることだし、今は助かっているはずだ。
 それなのに彼女は心の中で誓った。この教科書を作成したやつにお礼参りをしなければと。

「俺は『殲滅の弓姫』のように戦ってみせるんだ!」
「フォスター殿下。そうなれるように日々の精進です。ご着席ください」

 ガタッと立ち上がり、きらきらと目を輝かせてそういったフォスター少年。殿下と呼ばれているなら彼は王族ということだろう。確かに彼はエテルネルと同じ獣人のハーフのようだが、ステータスを見る限り人間と獣人のハーフだ。大方、エテルネルと同じ獣人のハーフという一点で決めたのだろうと予想はつく。
 目指すのは個人の自由だ。王族と関わると碌な事がないということを100年前に嫌ほど経験しているので、エテルネルはそっと視線を逸した。
 
「絵本ってあるにょか?」
「子供用の絵本になっているの。見たこと、ない?」

 まさか自分達のことが絵本になっているとは思ってもみなかったので、呟きに答えがくるとは思わなかった。相手は隣の席に座っている、先程首を傾げた少女だ。

「見たことないにょ」
「……じゃあ、図書室に絵本があるはずだから。お昼休みに、行って、みる?」

 教師に見つからないようにするためか、彼女は小声で話をしてくる。
 髪の毛は毛先がゆるいパーマがかかっており、柔らかな栗色。瞳は青く、何の打算もない瞳はエテルネルにとって少し眩しく感じるほどだった。
 どこかで見たことあるかな、と既視感を覚えつつも名前を聞いていないことに気づく。

「ありがとにょ。私はエテ。えっと」
「フィリネ」

 名前を聞いてあっと声が出そうになった。

「もしかして、クラヴィとイリシャの娘さんかにょ」
「お手紙で聞いた。エテちゃん。よろしく、ね?」

 母親とも父親とも違う話し方。けれども、どこか母親のイリシャを彷彿とさせる天然っぽさを感じた。
 緩やかに首を傾けた彼女は、オルマの声で視線を前に戻した。

 所々ツッコミを入れたい授業内容だったが、エテルネルは大人しく受けることに成功した。
 休み時間に入ると、編入生の珍しさに質問攻めとなったのは仕方のないことだろう。

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