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ネフリティス村
8初めてのおつかいにょ
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VRMMO時代、エスの中で専ら使われていたのは銅貨、銀貨、金貨、晶貨である。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚、更に金貨100枚で晶貨1枚という計算で、最高所持金額は晶貨9999枚であった。それ以上は持てず、冒険者ギルドの銀行に入れることが主流だった。
最も、最高所持金額を超すような金額を持つような者はエス時代まとめても数えるほどしか存在しなかった。また、累計レベル700のプレイヤーでも晶貨1枚手に入れるのには生産一択で極めているような者くらいではなかっただろうか。カンストプレイヤーであってもそれは例外ではなく、スキル振りを間違えていれば早々手に入る金額ではない。
エテルネルの武器である【神桜のショートボウ】を強化しなければ晶貨10枚くらいで、実際には【神桜のショートボウ+12】という付加価値が付いている為、晶貨1000枚ほど。カンストプレイヤーばかりのPTで超難関ダンジョンの最深部を何度も往復し、3000回に1回取れるほどの貴重なものである。当時の価値観からすれば当然の値段であったし、プレイヤーからすれば喉から手が出るほど欲しい代物だ。
話を今に戻すとしよう。
今はエスで賑わっていた時代の100年後、つまりは経済が著しく落ちている状態である。貨幣の価値観も代わり、物価はエテルネルの想像以上に下がっており、またアイテムの質も落ちていた。
エスで宿に一泊するのはギルド割引をつけて銀貨20枚。対して今は銀貨2枚。王都と地方ではまた別らしいが、宿のランクを下げればもっと安くなる可能性も高いらしく、10倍以上の差がついていることが発覚した。実際、エテルネルが持つ【神桜のショートボウ】一本で最高所持金額を軽く超えてしまうのだ。大陸が買えると言ってももはや過言ではないだろう。
「りんご一つ銅貨3枚……」
「と言うことで、丁度果物を切らしていたの。お遣い出来るかしら?」
銅貨15枚を渡されたエテルネルは、網かごに入れて頷いた。まさかインベントリに入っているお金が一軒家など軽く買えるものだとは言えないだろう。それでもまだ、正確に物の値段を把握していないが。
この村には店は3つしかない。宿屋と雑貨屋と薬屋だ。しかも、生活に必要なものは雑貨屋で殆ど揃ってしまう為、何度も行っているエテルネルは憶えてしまった。
「任せるにょ!」
「あらあら、転ばないようにねぇ」
注意に軽く手を振って応え、エテルネルは家を飛び出した。
向かうは直ぐ近くの雑貨屋である。
「エテちゃん、1人でお遣いかい」
歩いている途中、腰が曲がったおばあさんに声をかけられる。
この村に来た当初は子供であっても遠慮されていた節があったのだが、今はそんなことなく受け入れられている。偏にイリシャとともに居たことと、自分の容姿から警戒が解かれたことはエテルネルもわかっているつもりだ。
今では行く先々でお菓子をもらうほどには可愛がられている自覚はある。
「あいっ! 雑貨屋さんに行くにょよ!」
籠をぷらぷらさせながらそう言うと、おばあさんはとても温かい眼差しで、ポケットから取り出したクッキーをエテルネルにくれた。
お礼を言って受け取り、籠に入れるとエテルネルはその場を離れる。いつまでもあの場にいては人が集まってきてお遣いどころではなくなるからだ。以前1人で散歩している時にも周囲に人が集まってきて散歩どころではなくなった。
歩いて3分もしないうちに雑貨屋に辿り着く。そもそも家から見えている範囲なのでこれほど安全なお遣いもないだろう。
「おや、今日はエテちゃん1人かい?」
雑貨屋の奥さんが珍しそうに顔を覗かせてきたのでエテルネルは頷いた。
「りんご5つくださいにょ!」
はいっと先に銅貨15枚を渡すと、奥さんはきっちりと数えてりんごを籠の中に入れてくれる。受け取った籠は重みを増していたが、大剣でさえ振り回せるエテルネルからすれば軽いものだ。普通の7歳児では重そうにするものだが。
おまけなのか奥さんが他の果物を少し入れてくれたので、エテルネルは顔を上げてにぱっと笑顔を見せる。
「おまけありがとにょ」
「いつもイリシャにはご贔屓にしてもらっているからね。りんごのパイでも焼いてもらいな」
くしゃりと頭を撫でられつつ、エテルネルは頷いた。
この世界には冷蔵庫がないため、比較的その日に収穫したものはその日に消費する形となる。こういう雑貨屋ではインベントリのように入れた物の時間を止めて保存できるものが多少なりともあるので前の商団が来た時に大量に購入しておくそうだ。
アイテムボックスというそれがあれば品質も変わらないし、冷蔵庫がこの世界に普及していない理由も理解できる。そもそも電気という概念があまり存在していない。この世界の人々からすればそれが技能や魔力なのだから発達していないことも頷ける。
帰る途中も色々な人から物をもらいつつ、家の中へ入る。
例え【周囲感知】で大人達がたかが3分の距離を囲んでいることなど気にもせず。朝、狩りに出かけたはずの猟師達もいることなんて気にもしない。その中にはいつもエテルネルに喧嘩を売る少年までも固唾を呑んで見守っていることなんて気にしてはいけないのだ。
ふらりと立ち寄った旅人がエテルネルを見て近づいてこようとすると男達が取り囲んでいるなんてエテルネルは知らない。先ほど別れたはずの雑貨屋の奥さんがはらはらと見守っていることなど知りもしない。
ただ、エテルネルの感想としては、この世界の7歳児に対する対応はとことん過保護だということだろうか。
そのあと、何故かすぐに帰ってきたクラヴィと共にイリシャに焼いてもらったりんごのパイを食べて、エテルネルの異世界における初めてのおつかいは終了したのであった。
最も、最高所持金額を超すような金額を持つような者はエス時代まとめても数えるほどしか存在しなかった。また、累計レベル700のプレイヤーでも晶貨1枚手に入れるのには生産一択で極めているような者くらいではなかっただろうか。カンストプレイヤーであってもそれは例外ではなく、スキル振りを間違えていれば早々手に入る金額ではない。
エテルネルの武器である【神桜のショートボウ】を強化しなければ晶貨10枚くらいで、実際には【神桜のショートボウ+12】という付加価値が付いている為、晶貨1000枚ほど。カンストプレイヤーばかりのPTで超難関ダンジョンの最深部を何度も往復し、3000回に1回取れるほどの貴重なものである。当時の価値観からすれば当然の値段であったし、プレイヤーからすれば喉から手が出るほど欲しい代物だ。
話を今に戻すとしよう。
今はエスで賑わっていた時代の100年後、つまりは経済が著しく落ちている状態である。貨幣の価値観も代わり、物価はエテルネルの想像以上に下がっており、またアイテムの質も落ちていた。
エスで宿に一泊するのはギルド割引をつけて銀貨20枚。対して今は銀貨2枚。王都と地方ではまた別らしいが、宿のランクを下げればもっと安くなる可能性も高いらしく、10倍以上の差がついていることが発覚した。実際、エテルネルが持つ【神桜のショートボウ】一本で最高所持金額を軽く超えてしまうのだ。大陸が買えると言ってももはや過言ではないだろう。
「りんご一つ銅貨3枚……」
「と言うことで、丁度果物を切らしていたの。お遣い出来るかしら?」
銅貨15枚を渡されたエテルネルは、網かごに入れて頷いた。まさかインベントリに入っているお金が一軒家など軽く買えるものだとは言えないだろう。それでもまだ、正確に物の値段を把握していないが。
この村には店は3つしかない。宿屋と雑貨屋と薬屋だ。しかも、生活に必要なものは雑貨屋で殆ど揃ってしまう為、何度も行っているエテルネルは憶えてしまった。
「任せるにょ!」
「あらあら、転ばないようにねぇ」
注意に軽く手を振って応え、エテルネルは家を飛び出した。
向かうは直ぐ近くの雑貨屋である。
「エテちゃん、1人でお遣いかい」
歩いている途中、腰が曲がったおばあさんに声をかけられる。
この村に来た当初は子供であっても遠慮されていた節があったのだが、今はそんなことなく受け入れられている。偏にイリシャとともに居たことと、自分の容姿から警戒が解かれたことはエテルネルもわかっているつもりだ。
今では行く先々でお菓子をもらうほどには可愛がられている自覚はある。
「あいっ! 雑貨屋さんに行くにょよ!」
籠をぷらぷらさせながらそう言うと、おばあさんはとても温かい眼差しで、ポケットから取り出したクッキーをエテルネルにくれた。
お礼を言って受け取り、籠に入れるとエテルネルはその場を離れる。いつまでもあの場にいては人が集まってきてお遣いどころではなくなるからだ。以前1人で散歩している時にも周囲に人が集まってきて散歩どころではなくなった。
歩いて3分もしないうちに雑貨屋に辿り着く。そもそも家から見えている範囲なのでこれほど安全なお遣いもないだろう。
「おや、今日はエテちゃん1人かい?」
雑貨屋の奥さんが珍しそうに顔を覗かせてきたのでエテルネルは頷いた。
「りんご5つくださいにょ!」
はいっと先に銅貨15枚を渡すと、奥さんはきっちりと数えてりんごを籠の中に入れてくれる。受け取った籠は重みを増していたが、大剣でさえ振り回せるエテルネルからすれば軽いものだ。普通の7歳児では重そうにするものだが。
おまけなのか奥さんが他の果物を少し入れてくれたので、エテルネルは顔を上げてにぱっと笑顔を見せる。
「おまけありがとにょ」
「いつもイリシャにはご贔屓にしてもらっているからね。りんごのパイでも焼いてもらいな」
くしゃりと頭を撫でられつつ、エテルネルは頷いた。
この世界には冷蔵庫がないため、比較的その日に収穫したものはその日に消費する形となる。こういう雑貨屋ではインベントリのように入れた物の時間を止めて保存できるものが多少なりともあるので前の商団が来た時に大量に購入しておくそうだ。
アイテムボックスというそれがあれば品質も変わらないし、冷蔵庫がこの世界に普及していない理由も理解できる。そもそも電気という概念があまり存在していない。この世界の人々からすればそれが技能や魔力なのだから発達していないことも頷ける。
帰る途中も色々な人から物をもらいつつ、家の中へ入る。
例え【周囲感知】で大人達がたかが3分の距離を囲んでいることなど気にもせず。朝、狩りに出かけたはずの猟師達もいることなんて気にもしない。その中にはいつもエテルネルに喧嘩を売る少年までも固唾を呑んで見守っていることなんて気にしてはいけないのだ。
ふらりと立ち寄った旅人がエテルネルを見て近づいてこようとすると男達が取り囲んでいるなんてエテルネルは知らない。先ほど別れたはずの雑貨屋の奥さんがはらはらと見守っていることなど知りもしない。
ただ、エテルネルの感想としては、この世界の7歳児に対する対応はとことん過保護だということだろうか。
そのあと、何故かすぐに帰ってきたクラヴィと共にイリシャに焼いてもらったりんごのパイを食べて、エテルネルの異世界における初めてのおつかいは終了したのであった。
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