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学園編
29フレンド通話にょ
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「技能の時間、とても、楽しそう、だったね」
初日の授業全てが終了し、フィリアが声を掛けてきた。
「うむ。フォスが思った以上に強かったから退屈しなかったにょ」
「エテちゃん、つよい」
聞いたところによると、途中から見ていたのだそうだ。
フォスターに興味があったか聞いてみたが、エテルネルしか見てないという。フォスターは美少年と言っていいほどルックスも良ければ家柄も良い。周囲の女子がおかしいのか、フィリアがおかしいのかはそっとしておこう。
「じゃあそろそろ寝るにょ。おやすみにゃさい」
「おやすみ、なさい。また、明日」
食堂で食事を終えて、部屋についているお風呂に入り、就寝の時間になる。
部屋は6畳ほどの1ルームで、トイレとお風呂は別。簡易キッチンもついており、それが各1人ずつ与えられているのだという。寮長によると、その学園が創設された時に個人のプライバシーとやらを守るための必要なことだそうだ。集団生活で考えると部屋も複数人入れるべきだと思うが、エテルネルとしては個人部屋の方がありがたい。下手なボロを出さずに済みそうだ。
消灯は午後10時と決められているが、机の上にあるランプの使用は認められている。特に用事もなかったので午後9時には布団に入り、瞼を閉じていた。
「誰だにょ」
それから一時間もしないうちにどこからかアラーム音が聞こえる。自分だけに聞こえるフレンド通話特有のアラーム音だったので慌てずに済んだ。
《あら、誰とは冷たい。学園生活はどう?》
知っている声にそういえば誰か確認できるのにしてなかったな、と眠たい頭で考える。
「アルモネかにょ。順調な、って言ったら良かったんだけど、王子と一緒のクラスだにょ」
《まあ、お前からすると微妙かも知れないけど、判断としては間違ってはいないわね。お前の傍が一番安全なのだから》
目を覚ますために布団から出る。
窓を開けて窓枠に座ると、晴れた夜空にくっきりと大きな月が浮かんでいた。
「そんなに情勢は不安定なにょか」
100年。それは情勢を変えるには大きな時の流れに短命種は感じるだろうが、この世界には500超えの長命種もいる。まだ100年前のことを憶えている者だって少なくない。そんなものたちからすれば100年などあっという間だったのかもしれない。
特に、まだこの世界がエスと呼ばれていた100年前は、戦争が頻繁に起こり、種族同士の確執がはっきりとしていたのだから、100年程度では中々確執を取ることは難しいと思われる。
《表面上は安定しているわ。少なくとも、100年間を見れば、友好関係を築いた結果が現れている。けれど、多種族が通う学園だもの。完全な護衛というのは難しい》
「私が暗殺者だったらどういうつもりだったにょか」
《お前が暗殺者ならまず学園ごと滅んでいるから》
アルモネのいうことは最もであるが、もう少しオブラートに包んで欲しいものである。いくらエテルネルであってもそこまで非道にはなれない。
乾いた笑い声を上げた後、エテルネルはふと、1人のエルフを思い出す。
「そういえば、ウルドと会ったにょ」
《誰だっけ》
「エールのサポキャラ。アルモネは会ってなかったにょか」
《いえ、知ってる。そっか、サポキャラがいるってことは把握したわけね》
彼女の口調ではサポートキャラクターがいることを敢えて言わなかったようだ。
エテルネルの事情を考えれば、自分のことを知っているサポートキャラクターと出会うリスクを背負ってまで学園に通おうとは思わなかっただろう。もう出会ってしまったからには仕方ないが。
「アルモネのサポキャラは──」
《死んだわ。エスが終わる頃にはもう50を過ぎていたもの。獣人としては老衰だから妥当なところね》
「すまないことを聞いたにょ……」
《その縁で旦那とも出会えたもの。言い方はおかしいかも知れないけど、感謝しているわ》
その言葉を聞いて、この世界はやはり現実なのだな、と何度も感じているはずのことを思った。
生と死は平等にあり、以前の世界よりもそれらがより近しい。触れれば温かいし、冬は外気が冷たく感じる。近くにいるものしか守れないし、寿命からは逃れられない。
体で感じるもの全てが現実で、この手のひらで守れるものは限られている。
《それよりも、エテルネルのサポキャラは生きてるんじゃない。魔族で、しかもエスが終わるときは同じ年齢だったでしょ》
「うっ……」
痛いところを突かれた、とエテルネルの眉間に皺が寄った。
《私もダンジョンに行くとき、何度か一緒になったけど。あの性格だったらずっと探しているんじゃない》
「性格がいい方向に治ってることを願う」
《腹黒ヤンデレは不治の病です。ご愁傷様でした》
「ぬぉおおおおお」
エテルネルのサポートキャラクターは始め、純朴そうな魔族の少年だった。何度転生を同じように繰り返しても、そのたびに、始めは純粋なのだ。何故か転生を繰り返すごとに性格が悪くなっていく気がしていたが、どうやらやはり気の所為にはしてくれないらしい。
最後に別れたのは100年前。エテルネルのサポートキャラクターも6歳という若さだった。さすがにエテルネルの傍にいなければ少しはマシになるかと思ったがそうではなかったようだ。
《今は確かスラッガードの下にいるはずよ。連絡とる?》
「ちゃっかり居場所も把握してんじゃねえにょ。絶対とらない。スラッガードにも、暫くは連絡しない」
《まだスラッガードと連絡を本当に取ってなかったことに驚きだわ》
「……ここは、夢のつづきだにょ」
何度も口にしてきたそれを、再び口にする。
「だから、私達はいつか逢う。それが、例え戦場でも、全身全霊をもって相手するだけ。巡り逢い、また肩を並べる。前にも言ったとおり、ここは、私達にとって夢が再び始まっただけにょ」
《……単純にそう信じられるほどに信頼関係が厚いところが羨ましいわ》
まだ繋がっているのだと、エテルネルが信じたいだけなのかも知れない。
相手に見えないことがわかっていながらも、エテルネルは口角を上げて応える。
「じゃなきゃ、あのギルドにはいなかったにょ」
《それもそうね。あーあ、こっちまで熱い熱い。爆発しろ》
「それの使い所間違ってないかにょ」
《近状が知れてよかった。よい夢を》
「またフレンド通話するといいにょ。出られる時なら出るからにぇ」
フレンド通話を切ったエテルネルが零した吐息は、誰にも聞かれることなく消えていった。
初日の授業全てが終了し、フィリアが声を掛けてきた。
「うむ。フォスが思った以上に強かったから退屈しなかったにょ」
「エテちゃん、つよい」
聞いたところによると、途中から見ていたのだそうだ。
フォスターに興味があったか聞いてみたが、エテルネルしか見てないという。フォスターは美少年と言っていいほどルックスも良ければ家柄も良い。周囲の女子がおかしいのか、フィリアがおかしいのかはそっとしておこう。
「じゃあそろそろ寝るにょ。おやすみにゃさい」
「おやすみ、なさい。また、明日」
食堂で食事を終えて、部屋についているお風呂に入り、就寝の時間になる。
部屋は6畳ほどの1ルームで、トイレとお風呂は別。簡易キッチンもついており、それが各1人ずつ与えられているのだという。寮長によると、その学園が創設された時に個人のプライバシーとやらを守るための必要なことだそうだ。集団生活で考えると部屋も複数人入れるべきだと思うが、エテルネルとしては個人部屋の方がありがたい。下手なボロを出さずに済みそうだ。
消灯は午後10時と決められているが、机の上にあるランプの使用は認められている。特に用事もなかったので午後9時には布団に入り、瞼を閉じていた。
「誰だにょ」
それから一時間もしないうちにどこからかアラーム音が聞こえる。自分だけに聞こえるフレンド通話特有のアラーム音だったので慌てずに済んだ。
《あら、誰とは冷たい。学園生活はどう?》
知っている声にそういえば誰か確認できるのにしてなかったな、と眠たい頭で考える。
「アルモネかにょ。順調な、って言ったら良かったんだけど、王子と一緒のクラスだにょ」
《まあ、お前からすると微妙かも知れないけど、判断としては間違ってはいないわね。お前の傍が一番安全なのだから》
目を覚ますために布団から出る。
窓を開けて窓枠に座ると、晴れた夜空にくっきりと大きな月が浮かんでいた。
「そんなに情勢は不安定なにょか」
100年。それは情勢を変えるには大きな時の流れに短命種は感じるだろうが、この世界には500超えの長命種もいる。まだ100年前のことを憶えている者だって少なくない。そんなものたちからすれば100年などあっという間だったのかもしれない。
特に、まだこの世界がエスと呼ばれていた100年前は、戦争が頻繁に起こり、種族同士の確執がはっきりとしていたのだから、100年程度では中々確執を取ることは難しいと思われる。
《表面上は安定しているわ。少なくとも、100年間を見れば、友好関係を築いた結果が現れている。けれど、多種族が通う学園だもの。完全な護衛というのは難しい》
「私が暗殺者だったらどういうつもりだったにょか」
《お前が暗殺者ならまず学園ごと滅んでいるから》
アルモネのいうことは最もであるが、もう少しオブラートに包んで欲しいものである。いくらエテルネルであってもそこまで非道にはなれない。
乾いた笑い声を上げた後、エテルネルはふと、1人のエルフを思い出す。
「そういえば、ウルドと会ったにょ」
《誰だっけ》
「エールのサポキャラ。アルモネは会ってなかったにょか」
《いえ、知ってる。そっか、サポキャラがいるってことは把握したわけね》
彼女の口調ではサポートキャラクターがいることを敢えて言わなかったようだ。
エテルネルの事情を考えれば、自分のことを知っているサポートキャラクターと出会うリスクを背負ってまで学園に通おうとは思わなかっただろう。もう出会ってしまったからには仕方ないが。
「アルモネのサポキャラは──」
《死んだわ。エスが終わる頃にはもう50を過ぎていたもの。獣人としては老衰だから妥当なところね》
「すまないことを聞いたにょ……」
《その縁で旦那とも出会えたもの。言い方はおかしいかも知れないけど、感謝しているわ》
その言葉を聞いて、この世界はやはり現実なのだな、と何度も感じているはずのことを思った。
生と死は平等にあり、以前の世界よりもそれらがより近しい。触れれば温かいし、冬は外気が冷たく感じる。近くにいるものしか守れないし、寿命からは逃れられない。
体で感じるもの全てが現実で、この手のひらで守れるものは限られている。
《それよりも、エテルネルのサポキャラは生きてるんじゃない。魔族で、しかもエスが終わるときは同じ年齢だったでしょ》
「うっ……」
痛いところを突かれた、とエテルネルの眉間に皺が寄った。
《私もダンジョンに行くとき、何度か一緒になったけど。あの性格だったらずっと探しているんじゃない》
「性格がいい方向に治ってることを願う」
《腹黒ヤンデレは不治の病です。ご愁傷様でした》
「ぬぉおおおおお」
エテルネルのサポートキャラクターは始め、純朴そうな魔族の少年だった。何度転生を同じように繰り返しても、そのたびに、始めは純粋なのだ。何故か転生を繰り返すごとに性格が悪くなっていく気がしていたが、どうやらやはり気の所為にはしてくれないらしい。
最後に別れたのは100年前。エテルネルのサポートキャラクターも6歳という若さだった。さすがにエテルネルの傍にいなければ少しはマシになるかと思ったがそうではなかったようだ。
《今は確かスラッガードの下にいるはずよ。連絡とる?》
「ちゃっかり居場所も把握してんじゃねえにょ。絶対とらない。スラッガードにも、暫くは連絡しない」
《まだスラッガードと連絡を本当に取ってなかったことに驚きだわ》
「……ここは、夢のつづきだにょ」
何度も口にしてきたそれを、再び口にする。
「だから、私達はいつか逢う。それが、例え戦場でも、全身全霊をもって相手するだけ。巡り逢い、また肩を並べる。前にも言ったとおり、ここは、私達にとって夢が再び始まっただけにょ」
《……単純にそう信じられるほどに信頼関係が厚いところが羨ましいわ》
まだ繋がっているのだと、エテルネルが信じたいだけなのかも知れない。
相手に見えないことがわかっていながらも、エテルネルは口角を上げて応える。
「じゃなきゃ、あのギルドにはいなかったにょ」
《それもそうね。あーあ、こっちまで熱い熱い。爆発しろ》
「それの使い所間違ってないかにょ」
《近状が知れてよかった。よい夢を》
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フレンド通話を切ったエテルネルが零した吐息は、誰にも聞かれることなく消えていった。
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