けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

文字の大きさ
30 / 57
学園編

28技能の授業にょ ぱーと2

しおりを挟む
 エテルネルが構えた射位、つまるところ射る位置は的から60m離れた場所だった。
 それにどよめく生徒達に対して、エテルネルはあまり状況を理解してない。子供達の何人かは同じ射位から的を狙っている。驚くようなことではないはずだ。そう考えていると、頭一つ分ほど他の生徒よりも小さいエテルネルがロングボウで遠的をすることに驚かれているのだと気付いて苦笑する。
 この世界は筋力補正も魔力も技能補正もかかるので、エテルネルが元々いた世界と比べてはいけない。まだこれでも的との距離はエテルネルからすれば随分と近い。弓道では近的28m、遠的60mで練習することも多かったが、この世界であれば、弓矢が花形であった源平合戦の頃のような200mから矢を放つことも可能だ。
 ただし、そうなった場合は直線ではなく距離によって鏃を上に向ける必要がある。技能を使えばほぼ直線で射つことも不可能ではないという観点からいうと、流石異世界と言わざる得ないが。

「そんなとこから射つのか」
「いや、当たんねえって」

 確かに、この距離から射つのであれば、和弓の方がエテルネルとしても馴染み深い。
 足踏み、的を見据えると、エテルネルの真剣さを感じ取ってか周囲は静かになった。誰もが手を止め、エテルネルを見ていた。
 エテルネルはそんな周囲の様子など既に眼中にはない。
 胸を張り、丹田に気をためて胴造りをし、その体勢を崩さないように弓を構える。弓構えから会と呼ばれる動作に至るまで、エテルネルにとって全てが無音に感じられた。
 矢が放たれるその瞬間まで魂を込める。それは、これが練習であっても本番であっても変わらない緊張感。ただ【威圧】すら使わずとも周囲を黙らせるその気迫に、周囲はただただ、圧倒されるばかりだ。
 全員の緊張が高まった時、風を切る音がした。

「当、たった……?」
「しかもど真ん中だぞ!」

 的は50cmもない大きさだ。これも元の世界と比べると小さい。
 スッと構えを解いて、漸く全ての音が戻ってきたエテルネルは、周囲が湧いている様子に目を白黒させた。

「はい、皆。1時間は短いから練習しよう。的には限りがあるから、組を作って始めるよ」

 興奮冷めからぬ様子の生徒達を教師は纏めて授業を続ける。エテルネルは迷いなく教師によって弓の中でも上位の組に振り分けられた。

 技能の授業を1時間終えると、休憩のあとに自分の選択した技能の授業が始まる。
 これは自分の持っていない技能の中でも自分の習得したい技能を覚えられる目的がある。故に、アルモネが言っていた、召喚系の技能を持ってない子供達が習得するのもこの時間のようだ。
 エテルネルは今更ほしい技能もないので、組手が出来る戦闘系の近接グループへ入った。

「君、凄いんだなっ」

 誰かと組むように指示されてきょろきょろしていると、すぐに声をかけてきたのはフォスターだった。彼は少し興奮気味のようだが、エテルネルが後退ると、ハッとして少し落ち着いてくれた。
 思ったよりも考えなしの戦闘バカ、ということではないらしい。

「殿下も組手するにょか」

 そうやって問いかけると、フォスターは嬉しそうに頷く。

「あくまで目指すのは『殲滅の弓姫』だからな。近接系の技能を持っていても役に立つだろ」
「召喚系の技能は人がいっぱいみたいだけどにぇ」

 ちらっと召喚系技能を見ると、教えているのは妖精族のようだ。生徒の中には文鳥のような小鳥を肩に乗せたフィリネの姿もある。
 一年も経っていたら幾つか技能は覚えられるだろう。適性があれば、という話だが。ない生徒もいるようで、召喚獣を連れていない者もいた。

「俺は入学前から最低限必要な召喚系の技能は教わってるし、土曜日の午後も勉強してるから」

 さすがは日本人というべきか、しっかりと曜日の感覚は日本仕様だ。
 今日はこの時間で終わりだが、土曜日は半日しか学校がないので、土曜日の午後からというのは恐らく自分で勉強しているということなのだろう。

「殿下は勉強家なにょね」
「あー、うん。その殿下ってやめてくれよ。俺、第三王子だから自由にさせてもらってるけど、どっちかっていうと貴族よりも庶民と一緒にいる方が楽っていうか」

 少し照れたように言う彼に首を傾げた。第三王子だから気楽ということか。それとも貴族の中で育ったけれど自分には合わないと感じているのか。後者なら幼いのに可哀想なことだとは思う。強く生きろ。

「将来は困るだろうけど、今は許されるって感じなにょね。了解。フォス、って呼べばいいかにょ」
「あぁ! そう呼んでくれ」

 恐らく今まで誰にもそう呼ばれたことがないのか、彼は今までで一番嬉しそうに笑った。
 少し周囲の男子、女子関わらず生徒から嫉妬の視線が送られたが、気にしないようにする。

「ついでにこのまま組むか」
「了解にょ」

 ピシッと敬礼してみせれば、なんだそれ、と彼は微笑む。
 座学のときは純粋に年相応な感じがしたが、エテルネルと喋っていると、やや早熟なイメージも湧く。君子危機に近寄らずと言うべきか。もう遅い気がしないでもないが、情報収集だけしたらそっと距離を取ろうと決める。

「そういえば、近接系の技能は習得してるにょか」
「受け流すくらいの、技能ならっ、幾つか。君なら本気で、やっても、良い気がするっ」
「へぇ、普段は本気を出してないにょか」
「王族だからって、家で少し授業を進められてるっ……から、な。文武両道じゃないと、怒られる。それに、フィリネが君をっ……気にかけてたなら、君は強いだろ」

 組手をしながら喋ってはいるが、段々とフォスターの息が荒くなっていく。
 対してエテルネルは息一つ乱れてはいない。

「もしかして、フィリのこと好きなにょか」
「っどうして、女の子は、皆そういう話になる、かっな!」
「純粋な興味にょ。それに、他の子はフィリのことを毛嫌いしているみたいだにぇ」
「あー……嫌いな子ばかりじゃない、と思うけど。……っ、持っている技能で、ちょっと、ね」
「何かあったにょか」

 ここまで体力に差があるのは純粋なレベルの問題だろう。装備を揃える以前に基礎的なエテルネルの数値が高すぎることがいけない。疲れたふりをしたほうがいいだろうか、と一瞬考えるものの、嘘が下手くそなエテルネルがうまく出来るとは思えないと自己評価して、そのまま続けることにした。
 教師からストップが入るか、フォスターの集中が切れるまでだ。

「よくあんな激しい動きで喋れるよなー」
「殿下も殿下だけどあのちびっこもちびっこだと思う」
「おい! 無駄口叩くな。練習しろ!」

 それでも周囲からすればフォスターとエテルネルの長い組手は異常に見えるのだろう。
 引き気味に見ていた生徒達が近接グループの教師に怒られて組手を再開した。

「そこまで!」

 何度かの休憩を挟み、組を変えて最終的に元の組に戻ってしまったエテルネルとフォスター。二人との組手に他の生徒が耐えられなかったということもある。
 実際は弓よりもフォスターは近接系の才能がある気がするが、本人の気が済むまでやってみるのも一つの手だ。助言するのも厚かましい気がしてエテルネルは、息を荒げるフォスターに手を貸した。

「お疲れ。有意義な時間だった」
「こちらこそ。また組んでくれると楽しいにょ」
「息一つ乱れてなかったのに、そう簡単に言ってくれるな」

 ははっと、笑うフォスターにもう授業が終わったのか、他の技能を勉強していた女子生徒が黄色い声を上げた。教師を見る限り、当分エテルネルとフォスターは組まされることだろう。距離を置くことは暫く出来なさそうだ。
 こうして初日の授業は終わったのである。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...