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学園編
27技能の授業にょ
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午後からは2時間に渡って技能に関する授業をするらしい。
しかし、技能は小分けに見ても数千とあるので、全員が同じ授業を受けるのは難しい。そこで、戦闘系、回復系、召喚系、生活系、補助系、特殊系に分かれて授業を受ける。また、系統の中でも小さなグループに分かれての授業になるから、学年全体で少人数制授業だ。
ここで物語の主人公なら特殊系とかに分類されていくのだろうが、残念ながらエテルネルは【直進矢】しか撃てないという設定で入学しているので、戦闘系の物理遠距離グループに入るそうだ。
教師は冒険者ギルドでもランクが高い者を引き抜いているというが、たかだかレベル110程度ならまだフィリネの父親であるクラヴィの方が高い。もっとも、ランクだけではなく、子供に教えるという才能があるかどうかになってくる。教えるのが下手くそだと子供の成長は望めないからゆえだろう。
訓練場と呼ばれる箇所は複数あるらしいが、その中でも小学校の運動場くらいある広さの場所で、授業は行われた。
物理型の遠距離、つまり弓やナイフ投げなど魔法とは違って遠距離から道具を使って相手を攻撃するタイプはかなりの人数がいた。20人くらいだろうか。その中で得物の種類に分かれて教師がつくが、弓の技能を持つ子供は半分の10人ほどだった。
「皆、ロングボウを使っているけど、ショートボウは使わないにょか?」
授業が始まって訓練用の弓が並べてある中、全員が手に取ったのはロングボウだった。
ロングボウとショートボウの違いは純粋にその長さであるが、ロングボウは基本的に120センチ以上のものをそう呼ぶ。身長と同じか少し低いぐらいの弓を持っている彼等は誰ひとりとしてショートボウを手にしようとしなかった。
その中には授業でエテルネルみたいになりたいと言っていたフォスターの姿もある。
「ショートボウなんて使えねーよ。射程も短いし、威力だってロングボウに負けるし」
親切に一番近くにいた少年が教えてくれる。それに続くように彼と仲の良い二人が理由を言った。
「実際にどっちを使うかって言われたらロングボウだしな」
「ショートボウ使って至近距離から射るのは自殺行為だろ」
彼等の言うことは最もである。
単純に弓の威力を考えるなら、引き絞ったときに溜まるエネルギーが、元に戻す時にどれほど矢にエネルギーを加えられるか、ということで決まる。素材と構造が同じなら、引く長さ、引き尺の長いロングボウの方が高いことになる。
ただ、ショートボウの威力が弱い、ということではない。婉曲をつけて反撥力を高める方法を取ることで威力も高くなる。エテルネルの持つ神桜のショートボウも反撥力を高める工夫がされている。
結局どちらを扱うのかは戦闘スタイルの違いということになるのだ。
しかし、まさか基礎のためにまずはロングボウから練習しているのではなく、ロングボウとショートボウを同じように考えているとは思わなくて吃驚した。
「何を話しているんだ?」
「あ、フォスター様」
「今日から来たやつがなんでショートボウを使わないのかって聞いてきたんですよ」
そこへ話に入ってきたのは今日の午前中に熱く宣言していたフォスターだった。
「俺も『好敵手の溜まり場』の『殲滅の弓姫』を目指すんだったら、ショートボウを使いたかったんだけど、実際に無理だと言われたんだ」
「無理って誰に?」
「弓っていうのはそもそも後方支援になる役割だからだって。弓を引きながら至近距離で戦うっていうのは、ほぼ不可能だと言われた。馬に乗って射るならともかく、『殲滅の弓姫』は殿はしていなかったけど、前衛だと伝えられているのも、今では疑問視する人も多いって先生から言われた」
はあ、と深い溜め息を吐いているが、それを言われると実際にエスでやってのけたエテルネル本人としてはなんとも微妙な話である。
そもそもからして、ロングボウは遠距離、ショートボウは中距離と役割が違う。
そこまで考えて、エテルネルはふと絵本を思い出してフォスターに問いかけた。
「殿下、って呼んで良いかにょ。あの『殲滅の弓姫』が扱っていた武器ってなんだにょ」
「諸説聞くな。ロングボウっていう学者もいれば、体術も得意としたんだからショートボウだっていう学者もいる」
短命種だからなのか、それとも単に忘れ去られているだけなのか。エテルネルの得意とする武器は正確に伝わっていないらしい。だが、初期はロングボウで戦っていたので、ある意味間違いではない。ショートボウを使い始めたのはエテルネルのレベルが600くらいのときからだ。
「弓だからって一緒にするにゃ。ロングボウよりもショートボウが短いから射程が短いのは当然にょ。威力だって構造を変えれば弱いわけじゃない。ショートボウの利点は小回りの利きやすさと中距離からの攻撃にあるんだにょ。まあ、『殲滅の弓姫』はショートボウを使ってたと思うけどにゃ」
「君もそう思う!?」
がばっとエテルネルはフォスターに手をとられた。きらきらとした瞳を向けられ、後ろめたさから後退りしたくなったのは嘘ではない。
キャーと、女子生徒の黄色い声が聞こえたが、そんなものは彼に聞こえないようだ。
「皆、無理だっていうけど、俺は、絶対に『殲滅の弓姫』みたいな戦闘スタイルを身につけるんだっ」
と、フォスターは興奮気味である。まさかその手を握っている相手が尊敬する『殲滅の弓姫』とは思うまい。呼ばれたくない呼称であるが、純粋に尊敬されている様子は、高校時代の後輩を思い出してなんだかむず痒くもあった。
「こら、今は授業中だ」
こつん、と暴走気味のフォスターと止めたのは、技能授業の弓担当だった。
この教師は背中にロングボウを背負っている。すっと【鑑定】したところ、100年前の初心者がよく使っていたレッドロングボウだ。その名の通り、全体的に真っ赤で、黒い線が入っているところが特徴だった。
「君は今日からの子だね、聞いているよ。得意なのは、え、ショートボウ?」
エテルネルが持っているショートボウを見て、彼は驚いている。周囲の子供達がロングボウを持っていることから更に異質に感じることだろう。
「先生は去年から教えているにょか?」
「え、あ、うん。そうだよ」
少し驚きながらも、彼は優しく答えてくれる。聞いたことには、自分の分かる範囲で教えてくれるその真摯な姿勢は、子供達の教師役として適任だろう。
ついでとばかりになんでロングボウで練習しているのか聞いてみた。
「あぁ、それはね。始めはロングボウで練習して、他の技能も取得した後に自分の戦闘スタイルを身に着けてもらうから、あまりに身長が小さくない限りはロングボウを扱ってもらうようにしてるかな。ショートボウは、他の技能がないと扱いは難しいからね」
確かに、教師の言うとおり、ショートボウは他の技能がないと難しい。ロングボウは近接系の敵の攻撃が届かない遠距離だが、ショートボウを扱うとなれば敵と接近するため、他の近接系技能も必要になってくる。まだ基礎も十分ではない子供達が併用するのは難しいだろう。
ではなぜショートボウを置いているのか聞いてみると、普段は置いていないのだという。今日に限って置いてあるということに彼は不思議そうだ。
「仕組まれているような気がして仕方ないにょ……」
はあ、と溜め息を吐きながら、エテルネルはショートボウからロングボウへと持ち替えた。
「あれ、ショートボウはやめる? もう戦闘スタイルが決まっているなら変えない方がいいけど」
気弱に話してはいるが、彼は本当に思いやって話しているのだとわかった。
ロングボウとショートボウを使うには見方も少し違う。相手のどこに視線をおけばいいのか、距離の違いや弓によってやり方は随分と変わってくる。
問題ない、とエテルネルは首を振った。
「皆に合わせるにょ。それに、ロングボウもショートボウもどちらでも使えるからにぇ」
エテルネルの言葉に、教師は感心した声を上げた。エテルネルの言葉が誇張かどうかは、実力をみればわかることである。
「じゃあ、自分が届くぎりぎりの射程で、あの的を射てみて」
他の子供達には基礎練習に入るように指示をして、まずは実力を、とエテルネルに言う。
ショートボウが置かれていた。自分が届くぎりぎりの射程で、と言われた。
試されているような気がしたが、ネフリティス村でやっていたような数百メートル以上先から射るようなことはやめておいたほうがいいと、エテルネルは子供達をみて思う。
始めて一年くらい経っている子供達でも、射る様子は随分と様になっている。誰もが真剣に射ているところに、圧倒的な射程を見せなくていいし、私は凄い、というところを見せたいわけじゃない。
「分かったにょ」
そう言われて立った場所に、周囲はざわついた。
しかし、技能は小分けに見ても数千とあるので、全員が同じ授業を受けるのは難しい。そこで、戦闘系、回復系、召喚系、生活系、補助系、特殊系に分かれて授業を受ける。また、系統の中でも小さなグループに分かれての授業になるから、学年全体で少人数制授業だ。
ここで物語の主人公なら特殊系とかに分類されていくのだろうが、残念ながらエテルネルは【直進矢】しか撃てないという設定で入学しているので、戦闘系の物理遠距離グループに入るそうだ。
教師は冒険者ギルドでもランクが高い者を引き抜いているというが、たかだかレベル110程度ならまだフィリネの父親であるクラヴィの方が高い。もっとも、ランクだけではなく、子供に教えるという才能があるかどうかになってくる。教えるのが下手くそだと子供の成長は望めないからゆえだろう。
訓練場と呼ばれる箇所は複数あるらしいが、その中でも小学校の運動場くらいある広さの場所で、授業は行われた。
物理型の遠距離、つまり弓やナイフ投げなど魔法とは違って遠距離から道具を使って相手を攻撃するタイプはかなりの人数がいた。20人くらいだろうか。その中で得物の種類に分かれて教師がつくが、弓の技能を持つ子供は半分の10人ほどだった。
「皆、ロングボウを使っているけど、ショートボウは使わないにょか?」
授業が始まって訓練用の弓が並べてある中、全員が手に取ったのはロングボウだった。
ロングボウとショートボウの違いは純粋にその長さであるが、ロングボウは基本的に120センチ以上のものをそう呼ぶ。身長と同じか少し低いぐらいの弓を持っている彼等は誰ひとりとしてショートボウを手にしようとしなかった。
その中には授業でエテルネルみたいになりたいと言っていたフォスターの姿もある。
「ショートボウなんて使えねーよ。射程も短いし、威力だってロングボウに負けるし」
親切に一番近くにいた少年が教えてくれる。それに続くように彼と仲の良い二人が理由を言った。
「実際にどっちを使うかって言われたらロングボウだしな」
「ショートボウ使って至近距離から射るのは自殺行為だろ」
彼等の言うことは最もである。
単純に弓の威力を考えるなら、引き絞ったときに溜まるエネルギーが、元に戻す時にどれほど矢にエネルギーを加えられるか、ということで決まる。素材と構造が同じなら、引く長さ、引き尺の長いロングボウの方が高いことになる。
ただ、ショートボウの威力が弱い、ということではない。婉曲をつけて反撥力を高める方法を取ることで威力も高くなる。エテルネルの持つ神桜のショートボウも反撥力を高める工夫がされている。
結局どちらを扱うのかは戦闘スタイルの違いということになるのだ。
しかし、まさか基礎のためにまずはロングボウから練習しているのではなく、ロングボウとショートボウを同じように考えているとは思わなくて吃驚した。
「何を話しているんだ?」
「あ、フォスター様」
「今日から来たやつがなんでショートボウを使わないのかって聞いてきたんですよ」
そこへ話に入ってきたのは今日の午前中に熱く宣言していたフォスターだった。
「俺も『好敵手の溜まり場』の『殲滅の弓姫』を目指すんだったら、ショートボウを使いたかったんだけど、実際に無理だと言われたんだ」
「無理って誰に?」
「弓っていうのはそもそも後方支援になる役割だからだって。弓を引きながら至近距離で戦うっていうのは、ほぼ不可能だと言われた。馬に乗って射るならともかく、『殲滅の弓姫』は殿はしていなかったけど、前衛だと伝えられているのも、今では疑問視する人も多いって先生から言われた」
はあ、と深い溜め息を吐いているが、それを言われると実際にエスでやってのけたエテルネル本人としてはなんとも微妙な話である。
そもそもからして、ロングボウは遠距離、ショートボウは中距離と役割が違う。
そこまで考えて、エテルネルはふと絵本を思い出してフォスターに問いかけた。
「殿下、って呼んで良いかにょ。あの『殲滅の弓姫』が扱っていた武器ってなんだにょ」
「諸説聞くな。ロングボウっていう学者もいれば、体術も得意としたんだからショートボウだっていう学者もいる」
短命種だからなのか、それとも単に忘れ去られているだけなのか。エテルネルの得意とする武器は正確に伝わっていないらしい。だが、初期はロングボウで戦っていたので、ある意味間違いではない。ショートボウを使い始めたのはエテルネルのレベルが600くらいのときからだ。
「弓だからって一緒にするにゃ。ロングボウよりもショートボウが短いから射程が短いのは当然にょ。威力だって構造を変えれば弱いわけじゃない。ショートボウの利点は小回りの利きやすさと中距離からの攻撃にあるんだにょ。まあ、『殲滅の弓姫』はショートボウを使ってたと思うけどにゃ」
「君もそう思う!?」
がばっとエテルネルはフォスターに手をとられた。きらきらとした瞳を向けられ、後ろめたさから後退りしたくなったのは嘘ではない。
キャーと、女子生徒の黄色い声が聞こえたが、そんなものは彼に聞こえないようだ。
「皆、無理だっていうけど、俺は、絶対に『殲滅の弓姫』みたいな戦闘スタイルを身につけるんだっ」
と、フォスターは興奮気味である。まさかその手を握っている相手が尊敬する『殲滅の弓姫』とは思うまい。呼ばれたくない呼称であるが、純粋に尊敬されている様子は、高校時代の後輩を思い出してなんだかむず痒くもあった。
「こら、今は授業中だ」
こつん、と暴走気味のフォスターと止めたのは、技能授業の弓担当だった。
この教師は背中にロングボウを背負っている。すっと【鑑定】したところ、100年前の初心者がよく使っていたレッドロングボウだ。その名の通り、全体的に真っ赤で、黒い線が入っているところが特徴だった。
「君は今日からの子だね、聞いているよ。得意なのは、え、ショートボウ?」
エテルネルが持っているショートボウを見て、彼は驚いている。周囲の子供達がロングボウを持っていることから更に異質に感じることだろう。
「先生は去年から教えているにょか?」
「え、あ、うん。そうだよ」
少し驚きながらも、彼は優しく答えてくれる。聞いたことには、自分の分かる範囲で教えてくれるその真摯な姿勢は、子供達の教師役として適任だろう。
ついでとばかりになんでロングボウで練習しているのか聞いてみた。
「あぁ、それはね。始めはロングボウで練習して、他の技能も取得した後に自分の戦闘スタイルを身に着けてもらうから、あまりに身長が小さくない限りはロングボウを扱ってもらうようにしてるかな。ショートボウは、他の技能がないと扱いは難しいからね」
確かに、教師の言うとおり、ショートボウは他の技能がないと難しい。ロングボウは近接系の敵の攻撃が届かない遠距離だが、ショートボウを扱うとなれば敵と接近するため、他の近接系技能も必要になってくる。まだ基礎も十分ではない子供達が併用するのは難しいだろう。
ではなぜショートボウを置いているのか聞いてみると、普段は置いていないのだという。今日に限って置いてあるということに彼は不思議そうだ。
「仕組まれているような気がして仕方ないにょ……」
はあ、と溜め息を吐きながら、エテルネルはショートボウからロングボウへと持ち替えた。
「あれ、ショートボウはやめる? もう戦闘スタイルが決まっているなら変えない方がいいけど」
気弱に話してはいるが、彼は本当に思いやって話しているのだとわかった。
ロングボウとショートボウを使うには見方も少し違う。相手のどこに視線をおけばいいのか、距離の違いや弓によってやり方は随分と変わってくる。
問題ない、とエテルネルは首を振った。
「皆に合わせるにょ。それに、ロングボウもショートボウもどちらでも使えるからにぇ」
エテルネルの言葉に、教師は感心した声を上げた。エテルネルの言葉が誇張かどうかは、実力をみればわかることである。
「じゃあ、自分が届くぎりぎりの射程で、あの的を射てみて」
他の子供達には基礎練習に入るように指示をして、まずは実力を、とエテルネルに言う。
ショートボウが置かれていた。自分が届くぎりぎりの射程で、と言われた。
試されているような気がしたが、ネフリティス村でやっていたような数百メートル以上先から射るようなことはやめておいたほうがいいと、エテルネルは子供達をみて思う。
始めて一年くらい経っている子供達でも、射る様子は随分と様になっている。誰もが真剣に射ているところに、圧倒的な射程を見せなくていいし、私は凄い、というところを見せたいわけじゃない。
「分かったにょ」
そう言われて立った場所に、周囲はざわついた。
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