けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

34週末のおでかけ ぱーと2

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「3、4、5……ふむ、ある程度離れている護衛の数は多いにょね」

 初めての城下できょろきょろするフォスターとそれをハラハラと見守るフィリア。あっちへいったりこっちへ行ったりとフォスターに質問攻めにされながら、フィリアも悪い気はしていないようだ。
 それを後ろから見守りつつ、この喧騒ではかき消される程度の音量でエテルネルはウルドへ話しかけた。ウルドもそれを承知で視線は二人へ向かったままだ。

「はい、幾ら殿下ご指名で私が付くとは言えど、これ以上を減らすというのは護衛上仕方ないことかと」
「指名で話がいったのかにょ」
「殿下のご指名であり、陛下からの勅命です。少人数編成で最高の守りを考えるなら、貴族子息で構成されている近衛騎士よりも確かに守りが厚いですから」

 近衛騎士というのは貴族子息の集団で、騎士団というのは実力派集団ということが彼女の言葉から聞き取れた。そして国王から勅命を出さなければウルドが護衛出来ないほどに近衛騎士と騎士団との間には深い亀裂があるだろうことも。
 実力で言えばウルドのレベルである390までたどり着ける天啓人もほどほどにはいるだろうが、大半がそこまでのレベルにたどり着く道のりは険しいと答える。レベル400というのはレベル帯における一種の壁とも呼ばれており、彼女のレベルが最後に会ったときからそう変わらないことを考えると、ただ経験値を取得するだけでは足りないことが分かる。深く言えばより多くの経験値・・・・・・・・が必要なのだ。
 エールの嫁、サポートキャラクターという彼女は、エテルネルの身内であるも同然なのだから。それを理解しているのかどうかは分からないが、貴族ではないというだけで騎士団を、強いてはウルドという身内を侮られているというのであれば、エテルネルの胸の内が多少黒くなることも当然だろう。

「貴女の考えていることは分かりますが、抑えて下さい。先程から部下達が【威圧】の正体を探しています」

 考え込んでいる内に自然と【威圧】が発動していたらしく、エテルネルは深呼吸した。空気が弛緩し、今のはなんだったのだろうと警戒しながらもきょろきょろとしている気配を複数感じ取る。感情的になるのは未熟な状態だな、と苦笑した。
 知らず知らずのうちに緊張していたらしいウルドも握り込んだ拳の力を解いていた。隣にいるのだから少し離れて警備しているものよりも余程敏感に感じ取ったのだろう。それでも冷静に顔色を変えることなくエテルネルを注意したのは流石だった。

「エテ様がお立場をはっきりとしていただけるなら話は別ですが」
「まだ、その時期じゃないにょ。いつかは知られる時が来たとしても、今は……まだ、にょ」

 伏せた視線を上げた時、ちょうど振り向いたフォスターとフィリアが輝かんばかりの笑顔をエテルネルへと向けた。

「エテちゃん、こっち!」
「この雑貨屋だそうだ。いくぞ!」

 二人の笑顔を見て、エテルネルは心が穏やかになることを理解する。
 いつかエテルネルが天啓人ということを明かす日が来ても、それはこの国の情勢を、大陸の情勢を把握してからだ。誰が敵になったとしても対処できるように数多くのことを、今は学園で学ぶべきなのだろう。

「ふたりとも落ち着くにょ。雑貨屋は逃げないにょ」

 それはエテルネルとなる前に諦めた学生生活を、取り戻そうとするかのような感覚。今はただ、目の前の学友を大切にすることが第一歩なのだから。

 落ち着いた雰囲気の雑貨屋に入った一行は、各々に便箋だけではなく色んな物を見て回った。

「ほう、草木が透かされて見事な品だ」
「フォス、こっち。お花、とか、も、綺麗」
「花言葉とかけて送ると女性にも喜ばれそうだな」

 庶民が手に入れられる程度の品物である為、普段フォスターが使っている物からすれば品質は落ちるだろうに、彼は一言もそんなことは口にせず、ただ称賛を送っていた。二人の背後で他の品物を見つつも店員を気にしていたエテルネルは、すぅっと目を細めた。

「フォス、普通は花言葉なんて気にせず買うもんじゃないのかにょ」
「え、そこに花を添えるのだから花言葉を意識するのは当然じゃないのか」

 指摘したエテルネルに疑問を返すフォスター。二人の視線はフィリアへと向かい、彼女はこてんと首を傾げた。

「お花、綺麗。だから、買う、んだ、よ。花言葉、なんて、気にした、こと、ない」
「そういうものなのか」

 貴族というのは裏の意味合いを添えて送るのが大好きな生き物だ。それは今も昔も変わらない。エテルネルはすいっと店員に視線をやると、気づいた店員がエテルネル達に近づいた。

「当店をご利用頂き、ありがとうございます。この際ですから、花言葉を添えて送られてはいかがでしょうか。例えば、こちらのフェイルリアは『愛しい家族』ですし、あちらのカルベアは『約束を守る』という花言葉があります。花言葉は浸透されておりませんが、相手が気付いてくださればとっても素敵だと思います」

 この店は店員の指導も行き届いていたようで、すらすらと花言葉と共に営業をしていた。フォスターのような『お忍びの貴族』もそこそこに来るのだろうと想像できる接客対応だ。
 エテルネルがこの店員をそう評価するのは、他の客を接客していたところも見ていたのだが、説明内容が違うのだ。一般客には『かわいい』『綺麗』などという形容詞で対応するのだろうが、ある程度知識のある、もしくは少し知識のある人物にはより深く説明していた。知識のない者に深く説明しても置いていかれるだけ。相手の理解度に合わせて接客するのも大切なスキルだ。
 ただ全ての雑貨屋がこの店のような接客は期待できそうにもないだろう。自信満々で、なおかつ他の商品にも込められている意味合いなどを説明する様を見れば、この店に存在するデザイン全てに何らかの意味が込められていることは明白だった。
 フィリアは良い店を紹介してくれたなと思いながらエテルネルが周囲を見回していると、上段にある置物に視線が向く。

「あちらが気になりますか」

 先程までフォスター達を接客していた店員がそう声をかけてくる。フォスター達は聞いた花言葉を元に便箋を選んでいるところを見る限り、彼等の接客はある程度終わったということだろう。
 その女性は桜の柄が描かれた着物に袴を着ていた。端正な横顔に、細く尖った耳は彼女がエルフであることを示している。見覚えのある弓を持つそのエルフ女性を、エテルネルは知っている。

「申し訳ありません。あちらは売り物ではなく、展示品なのです」
「あれを、作った……のは」
「古い作品ですので、製作者は不明です。しかし、当店の初代がご友人から譲り受けたものだと伺っております。あの女性がどなたかは存じ上げかねますが、綺麗なお方ですよね」

 店員の説明は質問したのにも関わらず、右から左へと流れていった。
 エテルネルの脳裏には不機嫌そうな巨人族の言葉が蘇える。

──ええやん。その装備着れる奴は少ないねんで。皆の分も作ったし。

 あれは、いつだっただろう。まだ、エテルネルがハーフエルフになる前であったことは確かだ。
 自分の工房に篭って何やら作っている月下天津をクエストに誘おうと突撃したのだが、彼は『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』のメンバーの姿を、過去行われた戦争の画像を見ながらクリスタルで作っていた。クリスタルの大きさはそこまで大きくはなく、棚に飾れるフィギュアサイズのもの。
 貴重な素材をそんなことに使うのは勿体無いとメンバーは言ったのだが、彼は劣化しない上に綺麗だろうと胸を張った。それが何故ここにあるのかは知らない。作ったものが暫くギルドハウスに飾られた後、結局どうなったのか。今の今まで思い出せなかった。
 それが今になって目の前に現れるのは、何かが起こるような気さえしてくる。リリネアに会ったように、ひょいと巨人族の青年が現れるような、そんな予感。

「説明ありがとにょ」

 スッと視線を下げたエテルネルは、やっと便箋を選び終えたフォスター達の元へと向かうのであった。

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