けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

54中間テスト

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 文化祭の準備は順調に進み、中間テストが行われた。
 中間テストは期末テストよりも科目が少なく、基礎学問と呼ばれる部類のみに絞られる。
 選択授業や技能の授業は期末テストのみ行われるのだ。

(この感じ懐かしいなあ)

 早々にテストを終えたエテルネルは暖かい陽気に包まれながら静かに時間がすぎるのを待つ。
 フォスターも簡単だったのか既に見直しまで終えて静かに瞼を閉じている。
 緊張の糸が張り詰めた教室内。
 それを邪魔をするものはおらず、順調にテストは行われた。

 2日あった中間テストは無事に終わった。
 翌々日には結果を個別にもらうのだが、先に構内の掲示板へ上位成績者の結果が張り出される。
 各教科上位20名と総合上位10名は誰だろうかと朝から掲示板に人が押し寄せた。
 エテルネルはフィリネに誘われて教室近くの掲示板に寄る。
 彼女からすれば順位など特に気にする必要もないのだがフィリネはそうでもない。
 総合評価の張り紙を見て、あっと声を上げた。

「エテ、ちゃん。2位、おめでとう」
「ありがとう。フィリも15位おめでとうにょ」

 総合評価1位はフォスター。2位はエテルネル。
 程々だと自身を評していたフィリネも15位と奮闘している。
 ルシャの名前は見当たらなかったので成績上位者ではないことは確かだ。
 自分の順位を確認した2人はそっとその場から離れることにした。

「1位を死守出来てよかったよ……」

 教室で苦笑いを浮かべながら現れたフォスターに、2人はおはようと挨拶を交わした。

「頑張らないと次は越しちゃうかもにぇ」
「そうならないように努力する」

 別に手を抜いて2位になったわけではない。エテルネルとしては何位であろうがかまわないのだ。
 ただ、あまりに順位が悪いと元大人としてリリネアから白い目で見られるというだけで。正体が周囲に知られた場合に子供の見本として小言だけでは済まないことは確かだ。
 今のエテルネルには問題が簡単というだけで、高校に入る辺りから前世と同じように平凡な成績になるだろうことは予想がつく。なのであまりここで調子にのったことを言わないでおいたほうが良いだろう。

「ところで……」

 ちらりと見遣る先は窓側で黄昏る少女。
 いつもなら堂々とした振る舞いだがこの時ばかりは真っ白に燃え尽きたような表情をしている。
 聡明であることには違いないのだろうが勉強の仕方が悪いのか物覚えが良くないのか。彼女の様子を見る限り成績は悪かったのだろうことは容易く察せられた。

「あれ、どうするにょ」
「うーん」
「でも、そこまで……悪い訳じゃ、ない。はず」

 どこから情報を得ているのかこてんとフィリネは首を傾げた。
 ルシャの実家が求める域に達しなかっただけで、成績だけで見れば丁度中間くらいらしい。前からそうだったからきっと今回もそうなのだろうとはフィリネの言だ。

「大丈夫かにょ?」
「大丈夫じゃありませんわ……」

 しょんぼりと眉を下げてエテルネルが手を引くままに着いてきたルシャはいつもの高飛車な態度が見る影もない。
 いわく、ルシャの家庭は同格である他の伯爵家よりもよほど厳しい環境で育ってきたようだった。美しい姿勢と発音、見た目だけではなく中身まで求められるのは令嬢として当然のこと。将来誰に嫁いだとしても恥ずかしくないように教育されるのは当然のことだったという。
 せめて上位20名の中に入らなければ長期休みに謹慎も免れないかもしれないと沈んだ声でルシャは言った。

「なるほどにぇ」

 伯爵という身分に関しては見識の浅いエテルネルでもそれなりの地位であることはわかっている。
 領地を持つ貴族が血税を使って暮らしをする代わりに相応の器量と領地の管理を行うのは当然のことなのだというルシャは、100年前の貴族を知っているエテルネルにとっては余程良い部類の貴族だと思った。

「なら、勉強を教えようかにぇ」
「え……?」

 にこっとエテルネルは微笑んでみせると、ルシャはぱちくりと瞬く。
 正直なところ、エテルネルとしては成績が全てではないと思っている。しかし、それならば何故人は学校という場所に通うかと聞かれれば『学ぶ』ということを習慣づけるためだという考えでいた。
 最低ラインの成績さえ取っていられればいい。人によってはそうだろう。
 けれど、エテルネルやフォスターのようにその出自や地位から求められるものは違う。

「いいかにょ、ルシャ」

 ルシャの手を取ってエテルネルは彼女を覗き込む。
 ツリ目の瞳は涙で潤んでいて、宝石のような瞳から雫が溢れるようだった。

「学校というのは知識を蓄えるための『姿勢』を勉強する場所だにょ。今の時期に『学ぶ』ということを知らないと大人になってから『学ぶ』というのは大変なことだにぇ。だから、1番になることが全てじゃない。私は『効率の良い勉強の仕方を学ぶこと』がここの生活で大切なことだと思うにょ」
「授業中に寝ている者の言う台詞ではないな」
「うぐっ……」

 ぐさりと抉るようにフォスターがジト目でエテルネルを見やる。
 それに心を刺されながら、エテルネルは首を振った。

「だ、だから、効率よく学んでるからこそ授業中は寝ているんだにょ」

 とんだこじつけだと目を泳がせるエテルネルを見ていたルシャは暫くエテルネルをじっと見つめた後。花開くようにふわりと微笑んだ。
 それはいつもとは違う、優しい春のような微笑み。

「お願いしてもよろしくて?」
「私も……お願い、したい」
「もちろんだにょ」

 フィリネもルシャに触発されて声を上げる。
 こうして文化祭以降はエテルネルが2人の家庭教師のように教えていくのだが、ここでは割愛とする。
 中間テストが終われば次は文化祭に向けて準備を終えるだけだ。
 文化祭はすぐそこに迫ってきていた。


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感想 52

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みんなの感想(52件)

るー
2023.03.03 るー

5年ぶりの更新驚きです!
また続きが読めるとは思ってもなかったです。今までの話を読み返して、続き楽しみにしております🥰

2023.03.03 暁月りあ

感想ありがとうございます。
もう少しお時間は頂きますが続きも作成中ですのでごゆっくりお待ちください!

解除
等々
2023.02.27 等々

わぁ!更新来てるやった!

2023.02.27 暁月りあ

5年ぶりの更新となります。
また後日更新もありますので是非よろしくお願いします∠( 'ω')/

解除
npon
2023.02.25 npon

更新諦めてたのに嬉しい

2023.02.25 暁月りあ

感想ありがとうございます。
他の作品とは違って死ぬまでには完結させるという意志を持ってはいます(おい)
次も書けてはいるのでゆるゆるの整合性の確認後、また後日更新できたらと思います。

解除

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