40 / 57
学園編
37ウルドのお説教 ぱーと2
しおりを挟む
追加で注文したケーキが到着し、店員が出ていったろところで、ウルドの顔つきが変わる。
それは先程の説教よりも真剣な眼差しで、エテルネルを射抜いていた。
「ど、どうしたにょ。いきなり」
「昨日の襲撃者について、ご報告がございます」
襲撃者と言われても思い出すまで少々時間がかかったものの、だからどうしたとエテルネルは返した。
「別に報告する必要は無いと思うにょ。関わるつもりもないし」
「ですが……」
「王族狙いの有象無象なんて、あの時代から沢山いたにょ」
昨日の襲撃者はエテルネル、ひいては天啓人を狙ってのものではなく、純粋に王族であるフォスターを狙ってのものだった。王族が警備の薄い城下へと遊びに出かけているのだ。襲撃してくれといっているようなものである。
そういった『イベントクエスト』系はエスのころからあった。天啓人がその暗殺を引き受ける側になることも多々あったほどだ。悪人から善人にまでなれる、まさに第二の人生とは上手い謳い文句だったとは思う。
「んで、それに関わって碌な事はなかった、以上だにぇ」
「お気持ちはわかります。かつてあの人も、貴女様も、人族と獣人の王族達にされたことだって」
「知っているなら、分かってるよにぇ」
その中でもエテルネルはユニーククエストなるものを発生させたことがある。発生させようと思ったわけでもなく、本当にただ、道で襲われている馬車を助けるってどこにでもあるような『イベントクエスト』だったはずなのだ。
暇で暇で仕方なかったエテルネルがサポートキャラクターを連れて散歩していると、そんな状況を目の当たりにして助けたことが発端だった。
「あの時は酷かったにょ。いくらユニーククエストだからってまさか獣人の王子と人族の姫を逃避行させろ、なんて。おかげで指名手配されるし、天啓人達には追い掛け回されるし。ギルドホームで保護出来ないシステムだからお婆ちゃんの庭で匿って貰ってにぇ」
「そう言う割に、天啓人達に囲まれた時はとても楽しそうでしたが……」
「そりゃあ、カンストプレイヤーじゃなくても強い敵にはわくわくするものじゃないにょ」
絶対に逃げ場のない裏路地に追い込まれ、所々顔見知りの天啓人達に取り囲まれたその状況。いくらエテルネルがカンストプレイヤーとはいえ、数の暴力という差は存在する。そして、低レベルながらもプレイヤースキルが高い、つまりはキャラの操縦がとても上手い者はいるということだ。
そんな絶望的な状況で、エテルネルは負けを認めるよりも興奮に頬を染めるまさに戦闘狂と呼ぶに相応しいものであっただろう。勿論、後ほど公式ホームページにそのスクリーンショットが上げられており、また1つ彼女の武勇伝に加えられた。
「だから戦闘狂と……いえ、なんでもありません」
ケーキの上にのった赤いさくらんぽのような果実をフォークでぷすりと刺したエテルネルは、その状態でくるくるとフォークをまわす。
「でも、今は違うにぇ。あの時みたいに易易と死ねなくなったことも1つだし、多分……」
「多分?」
眉を下げるウルドを尻目に、エテルネルは果実を口に含んで時間をかせぐ。
考えは留まることをしらない。仮定の話ならばいくらでも出来るだろうし、天啓人の問題を絡ませてウルドに伝えるのはやめた方がいいだろう。
「いや、まだ確定じゃないし、お婆ちゃんとの摺り合わせもまだだからいいにょ。火の粉がくるようなら払うけど、それ以外は興味ない。以上」
「……わかりました。陛下にもそうお伝えします」
苦々しく頷くのは、これ以上エテルネルが応える気がないと判断したのだろう。
思えば、目の前にいる彼女を流石にAIとは言えない。この世界に息づく1つの生命なのだろう。エスという場所ではAIとして振る舞っていたということなのか、それともエスの時点で何らかの作用が働いてすでに異世界だったのか。それとも今体験していること全てが夢幻なのか。
考えたところで、答えがでるようなものではない。
「あ、そうだ。ウルド、家に行きたいにょ」
「エテ様の家は、その……」
「違う違う。自分の家になんて未練はなかったからいいにょ。ウルドの家に行きたいにょ」
「私の、家……ですか」
いきなりの話題転換についていけないと、目を白黒させるウルドに、エテルネルは満足気に頷いてみせる。
「ウルド、今度我が家にお越しくださいっていってたにょ。いってみたいに」
「確かに、そう言いましたね」
──でしたら我が家にお越しください。こんな夜更けに子供一人では良くありませんし。
それは王都についてすぐ、ウルドがエテルネルにかけた誘いだった。
場所もどこか分かってる。ウルドの性格を思えば、そして、今なお実弟への思慕があるならば、家は変わらずあの場所にあるはずだ。
いくなら出来るだけ早めにいっておきたかった。
「わかりました。いきましょうか」
会計を済ませて2人は宿屋から出た。
まだ、時間は昼前。照りつける太陽が、気温を上げている。
それは先程の説教よりも真剣な眼差しで、エテルネルを射抜いていた。
「ど、どうしたにょ。いきなり」
「昨日の襲撃者について、ご報告がございます」
襲撃者と言われても思い出すまで少々時間がかかったものの、だからどうしたとエテルネルは返した。
「別に報告する必要は無いと思うにょ。関わるつもりもないし」
「ですが……」
「王族狙いの有象無象なんて、あの時代から沢山いたにょ」
昨日の襲撃者はエテルネル、ひいては天啓人を狙ってのものではなく、純粋に王族であるフォスターを狙ってのものだった。王族が警備の薄い城下へと遊びに出かけているのだ。襲撃してくれといっているようなものである。
そういった『イベントクエスト』系はエスのころからあった。天啓人がその暗殺を引き受ける側になることも多々あったほどだ。悪人から善人にまでなれる、まさに第二の人生とは上手い謳い文句だったとは思う。
「んで、それに関わって碌な事はなかった、以上だにぇ」
「お気持ちはわかります。かつてあの人も、貴女様も、人族と獣人の王族達にされたことだって」
「知っているなら、分かってるよにぇ」
その中でもエテルネルはユニーククエストなるものを発生させたことがある。発生させようと思ったわけでもなく、本当にただ、道で襲われている馬車を助けるってどこにでもあるような『イベントクエスト』だったはずなのだ。
暇で暇で仕方なかったエテルネルがサポートキャラクターを連れて散歩していると、そんな状況を目の当たりにして助けたことが発端だった。
「あの時は酷かったにょ。いくらユニーククエストだからってまさか獣人の王子と人族の姫を逃避行させろ、なんて。おかげで指名手配されるし、天啓人達には追い掛け回されるし。ギルドホームで保護出来ないシステムだからお婆ちゃんの庭で匿って貰ってにぇ」
「そう言う割に、天啓人達に囲まれた時はとても楽しそうでしたが……」
「そりゃあ、カンストプレイヤーじゃなくても強い敵にはわくわくするものじゃないにょ」
絶対に逃げ場のない裏路地に追い込まれ、所々顔見知りの天啓人達に取り囲まれたその状況。いくらエテルネルがカンストプレイヤーとはいえ、数の暴力という差は存在する。そして、低レベルながらもプレイヤースキルが高い、つまりはキャラの操縦がとても上手い者はいるということだ。
そんな絶望的な状況で、エテルネルは負けを認めるよりも興奮に頬を染めるまさに戦闘狂と呼ぶに相応しいものであっただろう。勿論、後ほど公式ホームページにそのスクリーンショットが上げられており、また1つ彼女の武勇伝に加えられた。
「だから戦闘狂と……いえ、なんでもありません」
ケーキの上にのった赤いさくらんぽのような果実をフォークでぷすりと刺したエテルネルは、その状態でくるくるとフォークをまわす。
「でも、今は違うにぇ。あの時みたいに易易と死ねなくなったことも1つだし、多分……」
「多分?」
眉を下げるウルドを尻目に、エテルネルは果実を口に含んで時間をかせぐ。
考えは留まることをしらない。仮定の話ならばいくらでも出来るだろうし、天啓人の問題を絡ませてウルドに伝えるのはやめた方がいいだろう。
「いや、まだ確定じゃないし、お婆ちゃんとの摺り合わせもまだだからいいにょ。火の粉がくるようなら払うけど、それ以外は興味ない。以上」
「……わかりました。陛下にもそうお伝えします」
苦々しく頷くのは、これ以上エテルネルが応える気がないと判断したのだろう。
思えば、目の前にいる彼女を流石にAIとは言えない。この世界に息づく1つの生命なのだろう。エスという場所ではAIとして振る舞っていたということなのか、それともエスの時点で何らかの作用が働いてすでに異世界だったのか。それとも今体験していること全てが夢幻なのか。
考えたところで、答えがでるようなものではない。
「あ、そうだ。ウルド、家に行きたいにょ」
「エテ様の家は、その……」
「違う違う。自分の家になんて未練はなかったからいいにょ。ウルドの家に行きたいにょ」
「私の、家……ですか」
いきなりの話題転換についていけないと、目を白黒させるウルドに、エテルネルは満足気に頷いてみせる。
「ウルド、今度我が家にお越しくださいっていってたにょ。いってみたいに」
「確かに、そう言いましたね」
──でしたら我が家にお越しください。こんな夜更けに子供一人では良くありませんし。
それは王都についてすぐ、ウルドがエテルネルにかけた誘いだった。
場所もどこか分かってる。ウルドの性格を思えば、そして、今なお実弟への思慕があるならば、家は変わらずあの場所にあるはずだ。
いくなら出来るだけ早めにいっておきたかった。
「わかりました。いきましょうか」
会計を済ませて2人は宿屋から出た。
まだ、時間は昼前。照りつける太陽が、気温を上げている。
0
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる