けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

36ウルドのお説教 ぱーと1

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 彼は姉の乗る車椅子を押して、病院内の庭を気分転換に散歩していた。
 彼──といっても、まだ青年になる一歩手前のような少年だ。
 彼の姉も少女のようなあどけなさが残る年頃である。そんな彼女には似合わない、厳重に固められた片腕と両足は、まるで事故にでもあったかのような悲惨さが伺えた。
 しかし、彼女がこうして散歩と称して病室から出られるようになったのもここ数日のこと。姉を気遣って外へ勧めたのは彼であった。

「ごめんね──」

 走り回る少年少女──おそらく小児科に通う子供達なのだろうか──を眺めながら、彼女はぽつりと謝罪した。

「もう、一緒に組み手も、弓も。走ることもできなくなっちゃった」

 幼い頃から強くあれと祖父に鍛えられた姉弟。彼は組み手に才能を認められ、姉は弓術に関することなら彼にも追従を許さなかった。
 彼は彼女に憧れた。強くあれと育てられ、弟の手本になれるようにそうあろうとしたその背中に。その、心意気に。そんな彼女が漏らした謝罪と言う名の後悔を、彼は認めたくはなかった。

「姉さん……」

 車椅子のグリップがギギッと音をたてる。彼の握力でも流石に壊すことは不可能だと思うが、その不穏な音に一抹の不安を覚えるくらいだ。

 許せない。姉をこんな姿にした奴らを。
 許すつもりはない。今ものうのうと弓を握る奴らを。
 許せるはずもない。こんな状況に陥れた奴らと──その元凶を。

 薄暗い炎が彼の胸に燃え上がる。
 彼のことを人は【常識人】とよぶ。異常なメンバーに囲まれているからこそ、彼の『異常性』は隠れているように見えるだけで、『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』の一員であることには変わりない。

*****

 今日は安息日、いうなれば日曜日だ。
 学校も休みであり、この日は生徒たちも自由に活動する。週に一度のおやすみだ。
 土曜日はフィリネやフォスターと出かけていた、ということもあって、エテルネルは存分に今日という日を満喫する気でいた。それはもう、天啓人ということを活用して、思う存分に。
 しかし、する気でいた、という過去形なのは、現在目の前にいる人物によっておわかり頂けるように思う。

「エテ様、お話はきちんと、聞いてくださいませ」

 おかしい、とエテルネルは冷や汗を流しながら視線をやや左下に向ける。
 そこには現在怒り狂うエルフの大きな膨らみが見えるのだが、純粋な考察が出来るほどの余裕は残されていなかった。

「私は、くれぐれも、お控えくださるようお願いさせて頂いていたはずですが。と、言うよりも貴女は自分が何者であるかを隠すという方向性であるとお伺いしていたようが気がするのですが」
「えー、あのー、そぉ」
「エテ様」

 いつかの宿屋の個室で、エテルネルはウルドに問い詰められていた。
 と、いうのも、昨日渡したプレゼントがいけなかったらしい。
 朝早々に彼女に拉致られてこの場所へ押し込められた。

「いや、だって物騒だしにぇ。知り合った幼気な少年が、こう、狙われているって、分かると……どうも……」
「エテ様?」
「いやでも! 性能は低めだし、ほんと護身用以外の何物でもないしにぇ!!」

 身振り手振りで言い訳するものの、ドツボに嵌っていくことが本人でもわかっているだけに冷や汗はたえない。ウルドの視線が冷ややかなものに変わっていることからも察せられるだろう。

「貴女が製作して護身用の枠組みに嵌まるはずもないかと。それに幼気な少年とおっしゃられますが、転生した貴女は失踪していた間の時間が止まっているそうですので、8歳だと認識しております」
「誰からそれを聞いたにょ」
「勿論それは──って、話を逸らさないでくださいまし」
「ちっ」
「エテ様、行儀が悪いですよ」

 都合よく話を脱線させようとするものの、先程からことごとく路線を戻される。
 エテルネルは基本舌打ちなどしない。それはもう、数十人の天啓人に追い詰められたときでさえ満面の笑みだったくらいだ。戦闘狂などと本人の前では言ってはいけない。
 舌打ちをするくらい余裕がない彼女に、ウルドはさらなる追い打ちをかけていく。

「陛下より、お礼のお言葉を頂いております。そして、殿下には陛下よりご説明があるそうです」
「私が天啓人ってバレるにょか!?」
「いえ、ご説明といえど、性能などではなく、単に常に肌身離さず持っておくようにということくらいでしょう。技能で欺かれているのですから、【看破】するのも難しそうですし。しかし、知られたく無ければ渡さなければよかったではありませんか」
「うぅ」

 ウルドの言葉が正論なだけに何も言い返すことが出来ずに、エテルネルはテーブルへ突っ伏した。
 今ここにいる人物がウルドだからこそ見れる一面だろう。実弟の嫁という認識だからこその対応であるが、ウルドの説教はどことなくエールを思い起こさせた。
 そろそろ説教もいいだろうと、ウルドが肩をすくめたところでエテルネルは顔をあげる。切り替えが早いのもエールに説教されている時そのままなのでウルドはこみ上げた言葉を飲み込んだようだ。

「そんな考えなしのおせっかいなところ、おかわりないようで安心いたしました。まあ、知られたところで、エテ様でしたらそこまで問題もないように思いますが」
「まあ、それもそうにゃんだけどにぇ。ほら、やっぱり知られてない方が動きやすいし」
「一理あるかもしれませんが、でしたら徹底的に、ですよ」
「はーい」

 いつまでも隠せる訳がないそれは、本人を含めて共通の認識となっていた。
 始めは本当に隠すつもりだったのである。昨日、襲撃を予測するまでは。

「それにしても……性能が凄いですね、こちらは」

 ウルドは自分がもらったペンダントを取り出して【看破】と【鑑定】にかける。
 しかし、ウルドのレベルではエテルネルの【擬態】を看破することはできず、鑑定結果はただのペンダントであるということくらいしか分からない。

「ふふん、私のなけなし回復防御技能でも【回復技能《ヒーラースキル》:自動回復】と【魔法技能《マジックスキル》:魔法反射】【魔法技能《マジックスキル》:物理反射】レベル1くらいは掛けれるにょ」
「天啓人の方々がいらっしゃったときの代物に比べれば玩具のようなものですが、そもそも現在いる者では重複しての技能を物に付与することが難しいのです。これでしたら天啓人相手ではない限り、初手で遅れをとられるようなことはないでしょう」

 通り過ぎる人々の装飾品を【鑑定】しつつ、【付与】を施したのだ。例え【看破】されたとしても、天啓人が作ったにしてはあまりにも性能が微妙なものになっていた。
 実際にエテルネルが所持している高レベル所持者しか身に着けられないアクセサリーは、かつてのギルドメンバー、月下天津が思いつく限りの魔改造を施し、極悪装備としてエールからも売らないよう厳命されている。それに比べたらウルドの言う通り、玩具みたいなものだ。

「うにゅ。本当は月下天津がいればもっといいものが作れるんだけどにぇ、私程度じゃあこのくらいしかできなくて──」
「ええ。頂いたことに関しては感謝しております。ありがとうございます。ですが、それとこれとは話が違いますからね」
「ええええ」
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