けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

文字の大きさ
43 / 57
学園編

40妻の待つ家 ぱーと3

しおりを挟む
「諦めることなんて、出来ないんです」

 顔を伏せて、懇願するように、絞り出すように、ウルドはそういった。
 これほどまでに愛せるものなのか。主人を、天啓人を。
 そもそもからして、サポートキャラクターとはなんだ。
 AIというのは人工知能と一口ではいうが、その幅は広く、明確には定義されていない。
 他のゲームに出てくるAIには感情というものが一切なく、プレイヤーの指示通りに動き、倉庫代わりとして使用される例。つまりは人間が考えてすることを機械にさせようとするという例だ。これはマクロ(複数動作を自動化するための式)を組むことで、特定の条件下の場合においてその行動をとる。
 エスの場合は自由思考プログラムというものをAIに取り入れた。それこそ人間の思考回路を持つAI。VRMMOならではのマクロを必要としない、口頭だけでサポートキャラクターは判断して行動し、なにより彼、彼女達は天啓人の行動、言葉によって人格が形成されていった。
 でも考えてみれば、AI一体作るのに多大な負荷をかけているはずなのに、プレイヤーの数分、もしくは課金によって複数体の自由思考プログラムを搭載したAIを作ってサーバーが保つものなのか。
 なんか、その疑問って、サポートキャラクターが実装されたときにも話題になったなあ。と少し思い出しながら、エテルネルは苦笑する。

「100年の恋かあ。エールも中々愛されてるにぇえ」
「エテ、さま……?」

 サポートキャラクターだとか、天啓人だとか。ここは夢か、現実かだとか。
 真剣なウルドを目の前にその考えはあまりにも失礼だったと自嘲する。

「ウルドってさ。前からそうだったけど、知的そうに見えて直進的で、妄信的で、胸でかいにぇ」
「む、むね?」
「んでもって、何故か斜め右上に答えを出すところなんて、昔から変わらない。覚えてるかにょ。この家で、あのソファに座っててさ。エールが来るのを待ってるだけだったのに、オムライスはいかがですかって。餌付かにょ」
「あ、あれは! その、えっと……」
「今回のは、来るのが遅いエールが悪い。こっちにエールがきた時、気が済むまで殴っても別に怒らないくらいには、にぇ?」

 左頬をくいっと上げて悪餓鬼顔をすれば、ウルドははっとしたような顔をする。
 そう、もっとウルドは怒って良いのだ。来るのが遅いと。もっと早く来れなかったのかと。
 エールにとっては理不尽極まりないことだとしても、同じ天啓人であり、姉であるエテルネルが許可したのだ。もっと彼女は感情のままに生きても良い。

「あいつは、どーしようもないシスコンで、きっとこちら側に来ると思う。あっちでいい子ちゃんだったあいつが、限りなく素に近い状態でいられたのは、ここだけだったから」

 天啓人がこの世界にくる方法。エールは3つ、確実にクリアすることがある。
 1つ目はレベル700を超える廃人プレイヤーであること。カンストプレイヤーなので当然クリア。
 2つ目はあちらの世界でなんらかの死を迎えること。人間誰しも死は迎えることだ。
 3つ目は、こちらの世界に執着がある者。エールはとある時期を境にあちらの世界へ向ける執着はほぼ消えてしまった。そうなった一因であるエテルネルが断定することは出来ないが、彼があちらの世界で執着出来るものを見つけなければ、ほぼ確実に『エス』を渇望する。長年共に過ごし、姉弟として死に別れる日まで仲が良かった。お互いが何に執着を持っているのかくらいはわかっている。
 アルモネが提示していた3つの条件。エールはその全てに当てはまることだろう。
 もっとも、アルモネの予想が当たっていれば、のことだが。

「嫌な質問をしてごめんにぇ。これ、お詫びにょ」

 元々渡すつもりであったものをインベントリから取り出して渡す。
 包装紙に包まれたプレゼントへ視線を落としたウルドに開けてみるように促した。

「これ……」
「あいつ、写真にはちーっとも興味なかったから、この家には1つもないよにぇ」

 A4サイズの写真立て。その中に入っているのは、ローテブルに置かれた豪華な食事と、ソファに座ったり、立って行儀悪く足を乗せたり、酒をらっぱ飲みしていたり、説教をしていたりと、自由に過ごす『好敵手の溜まり場』の姿があった。
 その写真は驚くことにウルドの視線をうけて10秒ほど動きだす。
 ソファに座っていたエテルネルが背後からきた自分のサポートキャラクターに料理を手渡されて食べたり、それを見ていたエールがむっとしているところに、ウルドがワインを渡す。立って足をソファに乗せた亜紀沙がコリネに注意を受けていたり、酒を瓶ごと飲んでいるスラッガードに、リリネアがもっと飲めとワインだけではなく他の酒を勧め、それをおろおろと見守る月下天津の姿があったり。
 天啓人でも入手しづらいレアアイテム。とある高難易度遺跡の最下層でしか手に入らないもので、写真立ての中に10秒の動画をはめ込むことが出来る。
 ただの写真でもよかったのだが、エスが終了すると聞く前に、元々エールにプレゼントしようとスラッガードと亜紀沙、そして自分のサポートキャラクターであるナハトを連れて取りに行ったのだ。
 設定して、包装したものの、渡す前にエスが終了するお知らせを聞いてしまったので、結局渡せず仕舞いだった。

「本当に、エールを一生待つことになっても、後悔はないかにょ」

 余計なおせっかいであることは重々承知している。
 それでも、エテルネルは聞きたかった。
 あちらの世界で、エテルネルのせいでエールは──。

「はいっ。勿論です!」

 写真立てをぎゅっと抱きしめ、目尻に涙を浮かべながら微笑むウルドをみて、エテルネルは目を細めた。
 彼女が待つと決めたのならば、もう、エテルネルから言えることはなかった。
 第一の目標である写真立ては渡せたのだ。それでよしとしよう。
 程々に義姉妹の会話を楽しみ、門限の前にエテルネルは送迎を断って1人、帰路につく。

「無駄、でもないけど。使わずに済んでよかったにょ」

 インベントリから出したそれは、『フレンドリング』というもの。
 合意の上で設定した一対のリングで、ダンジョンやイベントクエスト、クエスト等の特殊時以外にフレンドを呼び出すことが出来るアイテム。勿論、呼び出す時に相手が受けるかどうかは相手が決めることだし、一回の使用でアイテムが壊れる仕様だ。
 リリネアに確認しないと使える分からないことで、使えるとしても、呼ばれた側が大きなリスクを背負う可能性はあった。例えば、呼ばれた瞬間に五体満足ではなかったり、記憶が抜け落ちていたり、最悪死んでいたり。あちらの世界からこちらの世界へくる時期が同じとは限らない上に、アルモネが言っている条件が本当に合っているという確証もない。出来るなら使用は避けるべきだろう。
 ウルドにこのアイテムの存在を教えるか迷った。エールも持っていたはずなので、すでに知っている可能性もあった。今日、あの状態でそれを言わなかったということは、知らないのか。それとも本当に待つつもりでいるのか。

「ご都合主義なんて、望まないってことかにぇ」

 ピンッと真上に飛ばしたリングをキャッチして、エテルネルはインベントリにリングを仕舞う。

「やっぱり、家族ってちょっぴり会いたくなるもにょか」

 浮かべた表情は見た目の年齢に合わないものであったが、雑多な人混みは背の低い彼女の表情を確認する者はおらず、咎める者はいなかった。

しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...