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学園編

41特殊技能を持つ少女 ぱーと1

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 幼い頃から、村の中でも少女は特殊な存在だった。
 優しい母と元傭兵の父に恵まれたが、その他の大人からは『気味が悪い』と言われていた。言葉の成長が遅れているからという理由ではない。人々は、彼女に本能的な恐れを抱いたということ。
 それを正確に理解したのは、物心がついて、村の中を自由に行動出来るようになってからだ。
 自由にとはいえど、常に大人の視線はあった。幾ら自分の苦手な子供であっても子供は宝。それが村の共通認識であり、心根の良い両親に世話になっている人も多かったからであろう。不義理を働くような者も少なかったことが一因かもしれない。

「だぁれ?」

 それは本当に偶然であったのか。今でも彼女は首をかしげる。
 村から少し外れた場所にある湖に、花摘みに出かけていたのだ。
 少し離れた場所では村の者が薬草を摘んでおり、そのついでで少女の面倒を見てくれていた。
 湖に佇むその存在に声をかければ、その存在は目を見張る。

『お前、私が視えるのか』

 それが初めての邂逅。そして、少女の特殊技能が目覚めた瞬間でもあった。

*****

「フィリ?」

 ぬっとエテルネルが顔を覗かせれば、寝ぼけたフィリネは猫の尻尾を踏んだときのように毛を逆立てて椅子から勢い良く立ち上がった。
 そこまで驚かれるとは思っていなかったエテルネルも仰け反りつつ、ひくひくと口端を震わせる。

「フィリの居眠り凄いにょ」
「エテ、ちゃん?」
「授業の終わり3分前に寝るなんて、中々に出来る所業じゃないにょ。休み時間に近づくほうが目がさめないかにょ」
「えと、眠く、て」

 困惑気味にそう言ったフィリネに、エテルネルはニンマリとする。

「終わり3分前なんて先生が気づいても指摘しにくいしにぇえ。考えるにぇ」
「わざと、じゃ、ないんだ、けど」
「そういう天然なところ、いいと思うにょ」

 授業に対して生真面目なフィリネが居眠りするのは確かに珍しいが、睡魔に抗えないのは仕方のないことだろう。

「居眠りに態とも天然もないと思うけど」

 冷静なツッコミを入れたのは、前列に近い席で授業を受けていたフォスターだった。

「フォスター殿下」
「いーや、眠いもにょは眠いにょ」
「そんなの、気合いでどうにかなるんじゃないかな」

 ふん、と鼻息を鳴らしている彼も眠たい時があるのだろう。王子と言う複雑な立場だ。居眠りしないように努めていることは知っている。
 立場云々など爪先ほどにも縁遠いエテルネルからすれば、頑張ってるなーくらいにしか思わないが。他人は他人。己は己だ。後になってから勉強すればよかったとあちら・・・では後悔したが、今のところ授業で分からないところもない為気にしない。

「気合いが足りないと、ほほう、私には気合いが足りてないとにょ?」
「事実やる気もないと思う」
「エテ、ちゃん。殿下。喧嘩、は、だめ」

 バチバチッと睨み合いをする2人をわたわたとフィリネが止めるまでがここ最近の流れである。

「フォスとのこれは喧嘩じゃないにょ。軽口の叩き合いって言うにょ」

 今までエテルネルのような軽口を叩く友をもったことがないらしいフォスターは、とても楽しそうにエテルネルと言い合いをする。普通、王族といえば周囲を自分と同じ派閥の貴族で固めることが多いため、平民を傍に置くその様子は、他の子供達からするととても不思議に見えることだろう。
 エテルネルも始めは距離を置こうかと思っていたが、プレゼントをしたエテルネルのことを彼はとても気に入ってしまったようだ。元々興味はあったみたいだが、休日明けから更に親しくしようと近づいてくるようになった。

「フィリも殿下呼ばわりじゃなくてフォスでいい」
「いえ、他の、人の、視線が、こわい、ので」

 視線を彷徨わせて震えるフィリネは控えめに言ってとてもかわいい。緩みそうになる頬を必死に固めるフォスターの様子は実に愉快に見えた。
 週末はお忍びということもあって殿下呼びはしていなかったが、学園では貴族の目が辛いのだろう。
 渾名呼びを許しているフォスターも口調が週末とは違うので、こちらは敢えて『つくった』口調。ということなら、彼はフィリネに渾名呼びを拒絶されても何も言えない。

「エテ。これが普通の反応だよ」

 ごほん、と咳払いをしてエテルネルに振ってくる。
 確かに、フォス、とエテルネルが呼び出してから周囲の視線も厳しく感じられるが、それがなんだというのか。

「にゅ。私が異常と言いたげだにょ。否定しないけど」
「否定しないんだ」

 びしっとツッコミを忘れないフォスターは中々見どころがある。
 休日を経て急に馴れ馴れしいところはあるが、どこか懐かしい軽口の叩き合い。
 それを楽しみながら、エテルネルはちらりと周囲を見渡して、出そうになった溜息を堪えた。

「お貴族様の事情とか、どうでもいいにょ。私には関係ない」
「え、あ、うん。うぇ?」

 事実、天啓人であるエテルネルにしてみれば、貴族であろうと、平民であろうと変わらない。どちらかといえば天啓人であるか、そうでないか。それによって、もし戦わなければならなくなった場合の対処が変わる。
 天啓人であれば出来得る限り友好的な関係を築きたいが、アルモネの予想が正しいのならば、この世界にくる天啓人はエスにおいて変人、超人、狂人と呼ばれる部類ばかり。それは『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』に所属していたエテルネル自身も分かっている。自称戦闘狂ではないエテルネルの判断はまさに戦った時に確実に勝てるかどうか、というだけなのであちらの世界から切り離された今、相手の社会的地位を考慮して対応することはあっても、自身に当てはめて考えることはまずない。
 故にここではフォスターが望んだから渾名呼びもしているし、気安くしているが、そうでなければまず関わりさえしないだろう。
 きっぱりと言い切ったエテルネルに対して、フォスは驚いたような顔だ。

「おかしいこと、言ったかにょ」
「今更畏まられても困るからいいけれど、いや、こう……建前と本音を」
「第3王子に対して渾名呼びしている時点でその前提は崩れているがにょ」

 現在は私的な場か否かと問われれば半々、という状況だ。学園という場所において身分を振りかざすことは天啓人であるリリネアが許さないが、人の上に立つことを求められる人材を育成、人脈づくりの場とするにいたっては多少なりとも身分を気にするものなのだろう。だから王子という立場に敬うという行為は否定されないし、また、王子という立場を使って権力を行使することは褒められる行為ではない。
 だからエテルネルは思うのだ。王族という立場は、この学園において微妙であると。
 そしてフォスターがただの個人として、ただ1人の少年として生きていられるのは、学園の中だけ。身分の垣根を越えた友情は、学園にいる間でしか育めない。

「それはそうと、ご飯いくにょ。学食楽しみにょ」
「エテちゃん、毎回、言ってる、ね」
「たまにはオムライス以外も頼んだらいいんじゃないかな」

 とんとんとんっと行儀悪く机を叩いて催促するエテルネルに、フォスターとフィリネは苦笑する。
 それに対してエテルネルは鼻を鳴らした。

「しょうがないにゃあ。今日はオムそばにするにょ」
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