けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

42特殊技能を持つ少女 ぱーと2

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「ふっふふーんふーん」

 少し調子の外れた鼻歌に、フィリネとフォスターは苦笑する。

「エテ、ちゃん。ご機嫌、だね」
「昼食を食べに学園に通ってるのではないよね」

 フィリネはともかく、フォスターの言葉にはくるんっと後ろを向いて鼻を鳴らした。

「なにをいうにょか。一般を学ぶためだにょ」
「一般について問い詰めたいけど無駄な気がする」
「ふっふふーんふーん」

 多少一般から外れるというのは個性の1つなのである。故に、エテルネルは自分をちょっと個性的な生徒、という認識から外れないように努力している。確かに、天啓人として全力を出した場合と今の状況を考えると抑えていることになるが、教師から見たエテルネルは問題児として認識されている。主に居眠りで。
 食堂は広く、初等部用に作られたものではあるが、それでも全員がくるとなると結構手狭に感じる。
 中にはランチボックスを持って中庭に行くものもいるが、大概の生徒はこの食堂で食べるのだ。

「混んで、る、ね」
「どうしようか」
「んー」

 見渡しながら、エテルネルは仕方ないと肩をすくめた。

「私が席取りするから、2人で先に取りにいくにょ」
「あ、それなら、私も、いく、よ?」
「フォスに先に取りに行かせるのはいいけど、私達が帰ってきた時、他の子達が群がってると避けるし。フォスもそれは流石に気分悪くないかにょ」

 身分を気にしてフォスターを座らせ、エテルネルとフィリネが食事を取りに行った場合、フォスターに他の貴族たちが群がっている可能性は十分ある。というよりも十中八九そうなるだろう。
 断るのも面倒な様子が易易と思い浮かんだフォスターがげっそりと頷いた。

「あしらえるだろうけど、面倒だろうね」

 フォスターを見て、フィリネを少し首を傾げた後に、第3の提案をする。

「それなら、エテ、ちゃん。殿下と、一緒に、いって。私が、席、とるから」
「むむむ」
「確かにそのほうがいいかな」
「どういうことにょ」

 理解が出来ないエテルネルを挟んで、フォスターはフィリネの言いたいことを理解したらしい。

「いいからいこうか。フィリ、よろしく」
「まかされ、ました」

 ビシっと敬礼するフィリネは可愛かった。
 エテルネルがこれ以上説明を求めても今の状態では無理だと悟って、人混みに紛れそうなフィリネを呼び止める。

「あ、待って待って。フィリ。何食べるにょ」
「えっと、Cランチ、が、いい、な」
「わかったにょ。後でお金もらうから席お願いにぇ」
「うん、ありがとう」

 ここには貸出用のカートが置いてあるので、一応1人でも複数人の料理を持ち運ぶことは可能だ。
 しかし、フォスターが待っているにせよ、並ぶにせよ。エテルネルとフィリネのどちらかがいないと、しつこく昼食を誘ってくる貴族達がいるのだ。一緒に昼食を摂る前、沢山の貴族から誘われてもかわして1人で昼食を摂ることが多かったらしい。
 列を崩さないように並んでいると、フォスターの視線がフィリネをおっていることに気づいた。

「フィリが気になるにょ?」

 前回聞いた時は全力否定した彼だったが、穏やかな笑みを浮かべた。

「多少なりとはね。前にもいったけど、もってる技能のことで周囲と馴染めてないから」
「馴染めてない、にぇ。危害を加えられるまでには発展してないにょか」
「恐らく、そんな場面になってしまったら、フィリは被害者ではなく加害者側になるから、かな」

 恋に落ちた、ということではないのか。いや、自身の恋に気づいた様子はなさそうだ。
 その瞳には純粋な友人に対する心配がある。

「加害者側、にぇ」

 すぅっとエテルネルは目を細めた。
 フィリネの意思に関係なく、加害者側に回ってしまうということは、自動的に発動する【能動技能】かもしくは【特殊技能】のどちらかだ。しかし【能動技能】は補助系の技能になるので、自身では発動の有無を調節できない【特殊技能】ということになる。

「フィリを見てないとどこで席とるかわからないしね」
「んー、それは大丈夫」
「ペンダント?」
「そう。知り合いに貰ったにょ。【周囲感知】が出来るにょ」

 エテルネルはペンダントを見せた。
 これはフィリネの生まれた村であるネフリティスで、天啓人にあるアルモネに貰ったラピスラズリにエテルネルが【特殊付与】を施したものだ。そもそも【特殊付与】は自分が持つ技能ではないと付与が出来ない。
 本来なら必要のないペンダントではあるが、カモフラージュのために使わせて貰っている。
 ちなみに、一緒に【特殊付与】されている【鑑定】については教えない。アルモネは何も言わなかったが、ウルドによれば重複しての【特殊付与】は天啓人以外には難しいとのこと。こんなところで自らが天啓人と繋がりがあるのだと誇張したところで、余計な災いの種しか齎さない。

「へえ。装飾品に【特殊付与】を施すのは聞くけど、何故守護系じゃなくて【周囲感知】なのか聞いても?」
「だって【周囲感知】なら、迷子になっても同行者を見つけられるにょ」
「迷子対策なんだ……」

 実際【補助技能《アシストスキル》:周囲感知】は便利な機能で、一定の範囲内であれば特定の相手を追うことは可能である。害意を持つ相手──王都に来る前にあった敵襲が良い例だ──も感知する。アイコンが色分けされ、【鑑定】と合わせて使用すればどんな魔物かも分かるすぐれもの。
 相手の速度、角度を計測し、それを戦闘に活かすのはエスでは定石だったのだ。カンストプレイヤーであるエテルネルが使いこなせるのは当然であった。

「あ、順番来たにょ。Cランチと私、オムそば!」
「Aランチを1つ」

 恰幅の良い女性に注文し、ランチを受け取ってカートに乗せた。
 始めエテルネルがカートを押そうとしたのだが、フォスターよりも身長が低いエテルネルはカートを押すと前が見えなくて危うい、という理由からフォスターに掻っ攫われてしまった。王子に使用人の真似事なんてと睨み付けてくる貴族たちの視線が熱いこと。
 勿論、痛くも痒くもないから放置するに限る。
 きょろきょろと周囲を見回すフォスターに、エテルネルは【周囲感知】を使って案内した。

「フィリあっちにょ」

 カートの角を持って方向を誘導する。
 フォスターがカートを押すので、嫌がらせをしようものならもれなくフォスターにも被害が及ぶ。それが怖くて手出しできないという状況は、中々に愉快だ。
 確かに、フォスターと一緒にいるのはフィリネよりもエテルネルが最適だった。
 嫉妬という殺意が来ようが、エテルネルは全く気にしないのだから。

「おまたせにょ」
「席取りありがとう」

 奥まったところにある4人席で座るフィリネの元に向かえば、彼女は花が咲いたような笑みを見せた。
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