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学園編

47文化祭準備 ぱーと3

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 翌日、2本のミサンガを持ってきたエテルネルに、昨日の放課後でいなかった生徒達も群がった。
 そこにはフォスターの姿もある。

「こちらの赤と黄色が女性用、青と緑が男性用に出来ますね」
「色を変えれば好みのものにも出来るでしょうし」
「この模様以外も作れるかな」

 フォスターの一言で、全員の視線が一気にエテルネルへと向いた。
 それに対するエテルネルの応えは是だ。

「やろうと思えばどんな文字でも。2色だけじゃなくて、糸の組み合わせで多色にもできるにょ」
「なんだか難しそうですわね」

 ふうっと、不器用であることを自覚している生徒が一言漏らす。
 それに対してエテルネルはふるふると首を振った。

「編み物よりは簡単だにょ。棒にくくりつけて編んでいくだけだしにぇ」

 この世界にセロハンテープなんて便利なものはない。机にぺたっと貼って編むほうが楽だと思うが、やろうと思えば端を長くした上で、椅子にくくりつけて編み込んでいくことも可能だ。
 確かに【生産技能《メイキングスキル》:裁縫】があれば作業の短略化は出来るが、技能など全く無くとも短時間で出来ることも事実。慣れるまでに時間がかかる人もいるだろうが、それでも簡単な部類に入ることは間違いない。

「一体感を出すために、始めはこちらの二種類でクラスの人数分作りませんか。こちらを作りたい人の練習も兼ねて作れれば良いですし、不格好なものを他人に差し上げるのは流石に憚られますもの」

 貴族の女子生徒がそう提案すれば、賛成だと声が上がる。今はまだ休憩時間のため、この場だけの意見でしか無いため、このあとのホームルームで提案することにした。

「色んな種類のミサンガがあると良いですわ。基本はこちらにして、応用は各々ということで」

 きらりと女子生徒の目が光ったのはきっと幻覚ではない。
 結局ホームルームでは好印象に受け止められて、意見は採用された。
 放課後には男女問わず一度やり方を見てみる、という話になる。

「危険なのは、お友達だからと作ることを頼まれることです」

 商家の男子生徒がそう言って警告すると、心得ているというように貴族は頷いたが、平民の生徒達はなにが悪いのか、という表情だった。
 貴族というのは流行に敏いもので、平民にまでその流行が降りるのは時間差がある。
 例えばハンカチに刺す人気の図案があったとしよう。貴族では大体広まっているから当然目新しい価値というのは平民に降りてくるころには下がっているものだ。だから、刺繍上手な人がその図案を元に大量に作ったとしても平民には新しいが貴族にはそうではないものとして映る。
 しかし、今までにミサンガという物はなかったそうなので、貴族にさえ流通してない新商品ということになる。加えてここは学園。平民も貴族も流行に関してはさほど差はないのだ。

「友達だから、ということで作ってあげてしまうと、目新しさはなくなってしまいます。故に文化祭の頃合いには皆持っているもの、という認識になってしまうので、買い手も少なくなります」
「本来なら、作れる技術をエテさんが独占することが正解ですが、あまり器用ではない方にも簡単にクラスの出し物として作れるようにという優しさから来ておりますのよ。恩を仇で返す真似など許しませんわ」

 ぱちんっと、持っていた扇を閉じて、商家の男子生徒に続けて貴族の女子生徒が牽制する。
 別に優しさから言った訳ではなく、ただの提案だったのでそこまで大事になるとは思ってなかったエテルネルとしては気まずい。そういうことにしておいてほしそうなので、黙っていることにした。

「他のクラスの子が持っていたら、まずその子に親しい人から当然、誰があげたのかは推測出来ますのよ。学園という狭い箱庭ですもの。家族、親戚もダメですわね」
「あ、ずっとダメってことではなく、文化祭さえ終われば解禁にしないかにょ?」

 エテルネルはすっと手を上げてみる。

「あら、この際技術を独占して利権を得る。という手法もありますのよ」

 なにかを生み出す時、そこに権利が発生することは昨日今日、皆が騒ぐ様子で理解したつもりのエテルネルだ。けれど、ミサンガをエテルネルが本当に考えた訳ではなく、ただの懐かしさから作ってみて、出品しようという軽い考えだったのだ。

「でも、ミサンガって、例えるなら、刺繍と変わらないにょ。図案だって、色んな人がいるから流行り廃りもある。それに、ミサンガがもし流行れば、お小遣い稼ぎにも出来るんじゃないかにょ」

 フィリネのように遠方から来ている平民の子供達には国から補助金が出ているが、当然お小遣いに割り当てられるものはとても少ない。フィリネも手紙を節約して両親にあてている。
 そういった平民の子供達が稼ぐ方法は生徒間で行われる小さな売買だ。値段も生徒間で決めるものだし、トラブルも多少あるものの、貴族が平民が作ったものを買ったり、それで才能を見出されて召し抱えられることもあるのだと、エテルネルは今朝フォスターから聞いた。
 慈悲であるつもりは毛頭ない。ただ、エテルネルは責任を皆に押し付けているだけに過ぎないのだから。
 これがどういう作りのものであるかを知っているから、エテルネル側からしてみればたかがこんなもの、という意見にもなるかもしれない。けれど、本当に今までなかったという場所でなら、確かに目新しさに皆飛びつくのかもしれない。

「興味のある人は、今日の放課後。一緒に作るにょ」

 そういったところで、授業終了の合図が鳴る。
 ぱんぱんっと、オルマが柏手を打って注目を集めた。

「これで大体は固まってきたとおもうから、エテさん。そっちは任せても大丈夫かしら」
「ま、問題ないんじゃないかにょ」

 適当に返せば、オルマは苦笑する。
 肩をすくめたあとに彼女は授業終了を告げて教室から出ていった。
 ざわめきが大きくなる教室内で、不安そうなフィリネの肩を叩いて落ち着かせる。

「お人好しですのね」

 そう声をかけてきたのは、貴族の女子生徒だった。

「ルシャ・キートよ。エテさん」
「エテにょ。さっきはありがとにぇ」
「あら、お礼を言われる筋合いはなくてよ」

 くすっと微笑む彼女は、次いでフィリネにも視線を向ける。
 びくっとしたフィリネを冷めた目で見つつ、彼女は視線をエテルネルへと戻した。

「お昼休みに少しよろしいかしら」

 ルシャの申し出が何なのかは分からないが、エテルネルは頷いたのだった。
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