けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

46文化祭準備 ぱーと2

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「うー、ん」
「おりょ。フィリってばどうしたにょ」

 一日の授業が終えても首を捻って考えている様子のフィリネにエテルネルは声をかける。
 そういうエテルネルはすでに帰り支度を済ませているのだが。

「ん、とね。文化祭、なにを、つくれば、いいのかな、って」

 集団として結束力が絶対な劇や、料理に注意しながら接客をしなければならない喫茶店にならずほっとした様子だったが、今度は露店で何を出品すればいいのか迷っているらしい。
 露店のルールはホームルームで大まかに決め、何か問題があればまた皆で話し合おうという流れだった。
 1つは1人5点まで出店してもよい。数が多いとそれだけ商品のチェックをするのが大変だし、初等科である自分達が値札をつけて管理するのは大変だと商家の男子生徒の意見だ。工作が苦手な生徒なら1点だけでいいし、得意な生徒なら5点まで出せる。しかも、芸術的なものであれば、貴族の目にとまって召し抱えられるかも、というありえない妄想をする子供も中にはいるらしい。冗談半分だと思うが。
 2つはブースをアクセサリー、服、家具、芸術品の4種類に分けること。危険物や食品は取り扱わない方向だ。これはオルマが始めに言っていた危険な出し物、自分で調理するものは禁止というルールに基いている。もしブースの商品が少なければ、違うブースと併合させるし、逆に多ければブースを分ける予定だ。
 一週間後までに自分がどのブースに出店するのか投票し、役割分担も決めていく。
 3つは他人の作品を貶めないこと。オルマからの提案で、創作意欲を出すためにも、他人の作品を評価しないことを生徒に約束させた。これを守れない場合は貴族平民問わず、一週間のトイレ掃除という罰があるらしい。
 以上の3つが露店を行う上で大きなルールだ。

「エテ、ちゃんは、決まった?」
「まあにょ。ミサンガを作ろうと思って」
「ミサン、ガ?」

 こてんっと首をかしげるフィリネはとても可愛い。
 フィリネが復唱した時点で周囲にいる女子生徒の耳が大きくなったかのような幻覚がしたが、製法が知られたからといって特に困るものではない上に、特殊なものでもない。ありそうで、少なくともこの国にはミサンガがないらしい。新しいもの好きの貴族女子は今の言葉にエテルネルへにじり寄りそうな気配だ。

「組紐と違ってミサンガならお手軽だしにぇ。あ、そっちの人も話聞くかにょ」

 ちょいちょいっとにじり寄って来ていた女子生徒を呼べば、その女子生徒は飛んで来て、他の生徒もなんだなんだとエテルネルの周りに集まる。

「実物はないから説明しにくいがにょ。紐と紐を編み込んで作ったもにょで、切れるまでつけていると願いが叶うって言われているにょ」
「願掛け、かしら」
「そうだにぇ。あの人が戦場から帰ってくるまで髪の毛は切らない。そんな感じの願掛けに似てるにょ」

 似たような物を東の果の国で売られているようなことを本で読んだことがあります、と本好きの生徒が言った。実際に商品として売られているような物を自分達が作れるのか、という疑問にエテルネルはにっこりと微笑む。

「簡単にょ。やり方さえ覚えてしまえば、色も、模様もその人で違ったものが出来るし、応用させればアクセサリーだけじゃなくてコースターだって作れるにょ」
「そちら、わたくしでも作れるかしら」

 不安そうに、困った顔をしている貴族の女子生徒。
 先程劇が良いと言った彼女は、桜色に似た薄いピンクの髪を編み上げており、恐らくその髪は侍女がしたのだろうと思う。何かをしてもらうのが貴族の役割。でも、決まったからには自分の手でなにか作りたいという意思がそこにはあった。

「まずは皆で材料を持ち込んでやってみるにょ? 材料は購買にもあるしにぇ」
「ちょっとまった!」

 ぴっと手を上げて一同を止めたのは、商家の男子生徒だ。どうやら話を聞いていたらしい。

「どうしたにょ」
「すっごい、良いアイデア浮かんだんだけど、ここにいる皆。聞いてくれませんか」

 頬を紅潮させて言った彼は、エテルネルの手をとった。

「まず、今日教えずに明日、現物を持ってきてほしいんだけどできる!?」
「え、あ、まあ。作れるけどにぇ」

 引き気味に答えたが実際にミサンガは簡単な模様であれば一時間程度で作れる。縦の糸が5本で作るのなら細いし慣れているので手早い。文字などを入れようとするとそれなりに考える時間は必要だが、ストライプ模様なら簡単だろう。

「ちょ、ちょっと。どういうことですの」

 先程の女子生徒が静止をかけると、男子生徒はエテルネルの手を話して咳払いをした。

「失礼。まだ現物を見てないのでなんともいえないのですが、ミサンガなるものは我が国に浸透していないアクセサリーです。そこの彼女が言うように東の果にある国が作ったというクミヒモなら本の資料で見たことはありますが、それに近いものであれば、新しいアクセサリー・・・・・・・・・が、文化祭で販売されることになりませんか」

 男子生徒のこの言葉に、ぴんっと意図を見出したのは貴族出身の女子生徒達だ。平民出身の女子生徒はよくわからないという顔をしているが、平民貴族入り混じる学園で起こる事態を、正確に貴族出身の女子生徒達は理解した。
 かくいうエテルネルも、彼らがなにを言いたいのかわからないので黙って見ているしかない。なにが起こったのかわからなくて、思わずフィリネを顔を見合わせた。

「貴族は総じて新しいもの好き。宣伝と称してこのクラスの者全員にまずはミサンガを着用させる」
「出来が良ければ、こちらから言う前にそれはなにかと聞かれるでしょう」
「その時に適当な逸話と合わせれば、ロマンチックな話に弱い貴族子女はまず食いつくでしょうね」
「宣伝文句は、戦場に行く恋人の無事を願って編んだ自分の髪と同じ色のミサンガを相手の手首につけた、とか。勿論その恋人は帰ってきて無事に結ばれたっていうのが通例でしょう」
「いい宣伝文句ね。事実かどうかはともかく。いいと思うわ」

 発案のエテルネルを置いてけぼりにして、商家出身の男子生徒と貴族出身の女子生徒の話はエスカレートしていく。この2人の応酬には周りもついていけないようで、総じてぽかんと口が開いていた。
 ミサンガは元々想いや願いを込めて作られたもの。で、紐の色によって意味が違ってくると言われている。けど、そんな説明をしたところで、あちらの世界の配色がこちらにあるわけではないだろう。色にこだわらず、この世界の好きな色、逸話にそって作っていくのが良いのだと思って、エテルネルは口出しを控えた。

「クミヒモ、作れ、る?」

 気になったのかこそっとフィリネが聞いてくる。
 嘘をつく必要もないとエテルネルは頷いた。

「作れるにょ」
「「本当(ですの)!?」」

 先程まで他の生徒など眼中にない様子だったのに、彼らは前のめりにエテルネルへ近寄った。
 エテルネルも勢いにたじろぎながら頷く。

「でも、組紐は作る道具も用意しなきゃいけないし、ミサンガがおすすめにょ」
「クミヒモ……組ヒモ……組紐、ですか。発音を覚えました」

 本で読んだだけの言葉を、エテルネルの発音で覚えたらしい。

「ミサンガ、と、組紐……って、なにが、違う、の?」

 フィリネの問いかけに、エテルネルは頬を掻く。
 エテルネルがあちらの世界で生きていた頃、映画の影響で組紐を作るようになった人も多かったが、エテルネルは手慰みに、と、祖母が使っていた本格的な丸台と呼ばれる組紐の道具を父が持ってきてくれた。作り方は祖父母と暮らしていた頃に教わったのだ。幼い頃から親しんでいた道具は、大人になった彼女の手がやり方を覚えていた。

「ミサンガは、幸せを願って編んだ物で、組紐は……縁を結ぶ。モノを結ぶ。人と、人を結ぶ。結びの意味が込められた物」

 幼いころに教わっただけなので、意味を全て思い出せるわけじゃない。ただ、優しい祖母が教えてくれた物。そして何より『結び』を大切にした物ということ。

「でも、作るならミサンガにするにょ。そっちの方が簡単だしにぇ」

 なにかを提案しようとしていた商家の男子生徒は、初期投資もかかって教える気がないのなら仕方ないと、肩をすくませた。貴族の女子生徒は糸のランクをつけることで平民と貴族で区別つけるのはどうかと提案する。
 こうして、翌日にエテルネルが持ってきたミサンガを元に、決まらない子たちにつくってもらうのはどうだろうと話が進むのであった。
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