けもみみ幼女、始めました。

暁月りあ

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学園編

51それは麻痺毒のように

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※前方に戦闘描写ではなく、敵味方関係ない一方的な暴力描写あります。ご注意ください。


*****

 ネフリティス村を旅立って、三日目のことであった。
 それまで慣れない旅に苦戦しながらも、エテルネルが幼い見た目ということもあってか見知らぬ人たちの優しさに助けられながらもここまで進んでこれた。
 アルヴハイルという少し大きな街に立ち寄り、駅馬車を乗り換えるところであった。

──エテちゃん、アルヴハイルという街は少し治安が悪いから、早めに出発してね。

 出立前にイリシャから聞いたことを思い出しながら、エテルネルは最低限必要な食料や水などを補給するために雑貨屋へ立ち寄る。

「……!」

 雑貨屋から出た瞬間に、路地裏で争うような声を聞いた。
 エテルネルは思わず、治安が悪いと言われたはずの街の路地裏へと足をむける。

「だからよぉ。少し大人しくして……」
「触れるな!」

 筋肉が服を押し上げ、巨人と呼ぶに相応しい獣人の大男が、上質そうなドレスを来た娘に手を伸ばして、持っていた扇で叩き落された。
 叩き落された手を擦りながら、大男は顔を真赤にさせる。

「こんの、こっちが下手に出てたら調子に乗りやがって!」

 エテルネルが見つけたのは、大男がか弱い娘の頬を殴りつけたところであった。

「っあ、ぁぁあぁぁあぁあああ!」

 壁に叩きつけられた娘のどこかの骨が折れる、鈍い音が響いた。
 痛みに顔を歪ませる娘に、大男は醜悪な笑みを浮かべてその首をつかむ。

「おぉ、おお。生まれだけで、その場に立ってるだけのお嬢様が。やってくれたな」
──才能だけで、その場に立ってるだけのくせに

 大男は娘の体を舐めるように見て、服に手をかける。
 その瞬間、エテルネルの体は本人の意思とか関係なく動いていた。

【弓技能《ボウスキル》:直進矢】

 地を蹴り、インベントリから出した弓矢を構えて、エテルネルは大男の、娘の首を掴んでいた左腕を射抜いた。
 それが、初めて、この世界に来てからエテルネルが『人』を傷つけた瞬間。
 ドスッという音と、吹き出す赤黒い血しぶき。

「ぐっああぁああっ」

 娘を離して、左腕をかばう男に、もう一撃。エテルネルは構える。

【能動技能《オートスキル》:威圧】

 大男は額に脂汗を流しながら、大きく見開く。
 どんな奴が攻撃してきたかと思えば、幼女と言っても相違ない年ごとの少女だったからだろう。
 もっとも、それは、見た目だけの話ではあるが。

「お前、なんだって……」
「失せろ」

 死にたくないのなら。
 そう、福音に滲ませて構えるエテルネルに、大男は敵わないことを本能的に悟った。
 路地裏で女子供が暴行されるなんて、このアルヴハイルでは日常のこと。
 それはこの領地の当主が、それを止めようとしていないのも行為が加速する理由だ。
 大男にとっての日常は、目の前の少女にするりと覆させられる。
 走り去った男を見ながら、エテルネルは自分の腕が震えていることに気づいた。
 必要であれば、もう片方の腕も射抜くつもりであった自分に、恐怖する。
 力は人に向けて振るうものではない。そう、教えられてきたはずであったのに。
 大男の左腕を射抜いた瞬間、とくになにも思わなかった自分に、エテルネルは背筋がぞくりとした。

「違う……」

 別に、記憶と大男の姿を重ね合わせただけではない。
 エテルネルは、唇を噛み締める。
 エテルネルが何も行動しなければ、娘はどうなっていたのか想像に容易い。
 それを助けて救われたのは、果たしてエテルネルか。娘か。


*****

──当てはしても殺しはしない。

 その考え方は、エテルネルの腕があってこそだろう。エテルネルの弓術は、エスの中でほぼ百発百中。あちらの世界で得意なものはゲーム補正としてエスの中でも強化されていた。
 例えば、エースの場合。組手を得意としていたからか、肉体強化などに関しては他の天啓人と同じだが、戦いの最中に相手の動きがゆっくりと見えたり、軌道が予測したりとあちらの世界で達人と呼ばれる領域の体験はいくつもしている。同じように祖父から教わっていたエテルネルだが、エールほども得意ではない為、その頻度は低く、そのかわりに射掛ける時は似たような体験をした。
 こちらの世界に来てからというもの、まだ死闘という戦いはしていない。だから、エスの補正が今もかかっているとは言いづらいが、それでも、あちらの世界に居た時よりも感覚としてはエスに近いものだった。
 それでも、当てても殺さないなんて考えは、傲慢であるとエテルネルは考え直す。
 今回はアドニスが避けれるだけの技量を持っていたが、エテルネルは当たっても構わないと思っていたのだ。エテルネルの【周囲感知】で感知が出来ないもの、ということは、自分を害することが可能であるということ。当たっても構わないという思考が、恐怖からくる本能からだったとしても。それを完全に肯定してしまえば、エスのエテルネルを肯定し、あちらの世界のエテルネルの存在モラルが自分の中で薄れてしまうような気がした。

「ゲームとしての感覚が、麻痺させているのかにゃ……」

 つぶやいてみた言葉が、そっくり自分の胸に当てはまっているようなきがする。
 そして、この世界に来てから感じていた違和感。口調。エスの最後に今の姿に変わるまで、エテルネルは何度転生を繰り返そうが妙齢の白エルフとしての態度を崩してはいなかった。
 通常なら、久々にあったアルモネやリリネアなどの知り合いが、口調や違和感を指摘するだろう。知り合いの誰もがエテルネルの違和感を、口調を指摘しない。ロールプレイングの一環として見られている可能性があるものの、口調を訝しむ様子さえない。

「体に、感情が引きずられる。これは、ほんとに……」

 こちらの世界にきた日にも感じたが、思考回路までが体の年齢に見合うものになろうとしていないか。
 あちらの、日本の当たり前だった感覚が消え、こちらの世界の感覚が当然として体がすでに受け入れている。いや、元々エスに存在していた体だったから、それは当たり前なのか。

「エテ、ちゃん?」

 エテルネルを不安げに覗き込んできたフィリネに、エテルネルははっとする。

「え、あぁー。なんでもないにょ。なんでもない」

 にぱっと笑みを浮かべて、やり過ごしたのであった。








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