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氷星凪

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最終章

第14話:訴え

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「……なぜだ。なぜ、アルラがここに……!」
 プロティアは刀を地面につきながら、手を震わせた状態で立ち上がる。発生した閃光により黒い帽子の両端のつばが燃えて無くなっており、頬の部分は外装が剥がれて内部の基盤が剥き出しになっていた。ノードはそんな彼の方へと顔を上げ、堂々と口を開く。
「簡単な話だ。お前達はアルラの技術力をみくびり過ぎた。お前達が本格的な監視を始める前、こいつはライクアの体と一体化する発信機を作り、それによって俺の体には通信機能と録音機能が追加された。そのスイッチが、ここ」
 見せつけるように半分後ろを向き、そのうなじのコンセントを親指で指す。
「俺は、お前があの日話があると言った時からどこか怪しいと思い、念の為気付かれないように首のスイッチを押して、彼女の携帯に俺達の会話を流していたんだ。何か情報になれば、と思ってな。そしたらお前の見せてくれた監視カメラの映像に、電話を耳に当てる彼女の姿を見て確信した。もう俺の作戦は成功してるって、まあ正直アルラの察する能力が高かったっていうのもあるけど」
「僕を、僕達を騙してたっていうのか……?」
「そういうことになるわね。そのまま私はインスの策略に気づいていないフリをして、ノードに継承式の日に警備をしたいなんていう適当な口実を作り、監視カメラ上でガジェットの改良をしても不自然じゃない環境を作った。カメラの位置もすぐに気づけたわ、なんせあの溶接マスクには赤外線が見える機能があってね。だから他のガジェットも弄りながらなるべく画角の死角になるところで、本当に必要なものを作ったのよ。これ、鍵に変形出来る髪留めピン。形状ゆえに奴らから没収されることも無かったし、牢屋の鍵の形もお偉いさんに会った時になんとなく覚えてたから。あとは、うちのハナコを呼んで、Q.E.D。どう? 納得いった?」
 髪を掻き上げ、勢いままにその場で刀を振って苛立ちを見せるプロティア。瞬間的にビッグコアへと近づこうとするが、損傷ゆえか遅れて反応したノードに追いつかれ、拳と刀がぶつかる。
「どうして、どうしてなんだ! 全てはライクアのため! ライクアが幸福になるために必要なことなんだ! なのに、なぜ君はそんな崇高な行為の邪魔をする!? 同じ種族のライクアだというのに!」
「同じ種族だからさ! だから……こんな形じゃだめなんだ。ただ力を振り翳し合えば、最後に残るのは争いだけだ! 人間に復讐したって……何も生まれない。俺は全てのライクアを救うと決めた。だから、憎しみしか背負えなくなったお前達インスのライクアも俺は救う!」
「いいから……そこをどけぇ!」
 ノードの腕を翻し、プロティアは燕返しを繰り出す。避けようと体を動かすも、切っ先がビッグコアに触れるのを見て、そのまま体を入れ込む。刀が胴体を切り裂く。だが、ノードは歯を食いしばって不動を貫き、そのまま勢いよく振りかぶった拳を彼のみぞおちに放つ。彼の体が勢いよく宙を舞い、王城の壁へとめり込んだ。煙。彼は床へと這いつくばり、全身を身悶えさせる。ノードは顔を上げると、継承式の様子を生中継している無人カメラに向かって、画面の奥の人々と目を合わせた。
「この映像を見てくれている人間。今、お前達はライクアとどう向き合っている?  俺は、今年学校を卒業したばかりの何の特別でも無いライクアだ。俺はずっと人間が嫌いで、あんな奴ら死んじまえばいいって、毎日暴力を受けながらそう思ってた。でも、一人の、ライクアを大切にする人間に会って、俺は、この世界を守りたいと思った。でも、今、ビッグコアへ襲いかかった彼や巷で人間を殺してるそいつらもライクアだ。彼らは自分達が自由になりたくて復讐を始めた。そんなこと本当は良くないはずなのに……だけど彼らにはそう選択するしか無かったんだ。非道な奴らしか彼らは会ったことなくて、非道な経験しか出来なくて……」
 ノードはアルラと一度目を合わせて、声を張り上げる。国を超え、海を超えた遥か遠くにも聞こえるほどの大きさで。
「俺は……いつか人間とライクアが共存出来る世界を実現させたいと思ってる! どれだけ時間がかかっても、どれだけ誤った道を選択してもいい。でも、最後には両者が歩み寄り、両者が笑える景色がそこにあって欲しい。人間だけじゃない、お前達ライクアも一緒に作り上げていくんだ! 争いだらけの毎日なんかよりもずっと平凡で、ずっと退屈で、ずっと大切に思える日々を!」
 はぁ、はぁ、と肩を揺らして息切れする。王城中にこだました声が響き続け、それが国中に伝播するように鳴り止まない。足音がして、その方へ顔を向ける。
「まさか、君が理想論を言うようになってしまうなんてね……」
 プロティアが体を極度に前にせり出した姿勢で近づいてくる。足はふらつき、顔からむき出しになってる回路からは火花が散っていた。
「劣等生君……! 現実ってのはね、そう簡単に変わるものではないんだよ。だから今ここで……僕達が全てを終わらせるんだ……!」
 被っていた帽子を投げ捨て、彼は黒いコートをも脱ぎ捨てる。そこで露わになった彼の全身に、ノードは思わず驚愕した。コンセント。コンセント。コンセント。破損して内部基盤が露出している以外の全ての肌を埋めるように、彼の体にはどこを見てもコンセントしか無かった。彼が手を天に上げ、大きく叫ぶ。
「さあ、同じ黒服の同胞達よ! 僕に力をくれ!」
 瞬間、どこからともなく王城の天井を突き破って黒いコードが、壁や床を這いずって凄まじい勢いで彼に近づいてくる。そしてその先端のプラグが一斉に、彼のあらゆるコンセントに挿さった。轟音。刹那、激しい閃光が辺りを駆け巡り、ノードとアルラは天井まで吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。あまりにも強い衝撃、ゆえに立ち上がれない。プロティアの体は、異常なプルの量にもはや支配されかけていた。自身の肌も焦げて黒く染まり、青色の双眸はコンマ単位で点滅。意識的ではない動作で四肢をありえない方向に曲げたり、動かしたりしながら彼は徐々に足を進め、あろうことかビッグコアへと近づいていく。
「謝罪しよう。僕も君達を本気で信用していたら、こんなことは計画などしていなかった。だが、君達を国の中心に集めて注意を惹きつけておくのはやはり正解だったようだ」
「……ぐっ……! なんだ……と……?」
「今、国土の外側のへりに、国を囲むようにして黒服達が並んでいるんだ。そして彼らはうなじのコンセントに両端がプラグになっているコードの一端を挿している。そして、合図をすると、僕の体にそのもう一方のプラグが全て挿さる。つまり、数百人、いや数千人以上のプルが一斉に僕に供給されているんだ。つまり、目的は一つ。そう、それはこの莫大なプルをビッグコアを通じて逆流させ、国全体を雷で破壊すること……!」
 ビッグコアのガラスのカバーを開け、中の既にプルがほとんど消費された前継承者の首を持つと、彼はうなじに繋がっているビッグコア内のコードを力づくで引っ張った。コンセントとプラグを無理やり分離させ、彼は継承者を退ける。そして自分自身がビッグコアの中に入ると、最後に残った彼のうなじのコンセントに勢いよくプラグを挿した。
「うっ……! ぐぁぁぁぁああああああ!」
 強烈に耳をつんざく叫び声と共に内部で無数の反射を繰り返した青い稲妻が外にも漏れ出し、ビッグコア全体が青い渦のような電流に包まれていく。徐々に彼の声は電撃の発生音と同化し始め、そして遂にビッグコアから真上に稲妻の柱が空へと伸びた。とてつもない衝撃音。その音で城内で気絶していた人が意識を取り戻し、その人がまた別の人を起こしてという連鎖が起こる。だが、そんなことは梅雨しらず、城の上部を突き破った稲妻の柱はそこから大きな雷を放出し、瞬く間に王城を襲った。地面が大きく揺れる。それから複数の雷鳴が重なるような音が聞こえてきた。落雷だ。文字通り、世界の崩壊が始まったのだ。城が天井の崩壊と共に、段々と全体が崩れていき、大広間には瓦礫が容赦なく降り注いでくる。先程まであった絢爛な城の様子はもう無く、ありとあらゆる場所に飾ってあった美術品は無情にも粉々に砕け散った。城内で意識を取り戻した一部の人が逃げ惑う。這いつくばっていたアルラも立ち上がり、手をこちらに差し伸べると、ノードはそれを掴んでなんとか立ち上がる。彼は目の前の叫び散らかすプロティアの入ったビッグコアを見ながら、崩れそうになる膝をなんとか持ち堪えらせて。
「止めなきゃ……俺達で……」
 その瞬間、上で大きな音がした。見上げると、天井が大きく崩落し、その一部が大きな石塊となってこちらに迫ってきている。ノードはアルラと目を合わせると、すぐに近くのバイクへと乗り込んだ。とにかく逃げなければ。そんな思いはもうお互い伝えずとも視線だけで理解し、彼女はハンドルを強く捻った。駆動音、そして推進。すぐ後ろで石が落ちた衝撃音がして、その破片が頬を掠めた。そのままの勢いで二人は王城を飛び出し、風を切りながらナーリブの領土内を駆け抜けていく。
 そこはまさに、地獄絵図だった。王城であったものは瓦礫の山となり、その中心から伸びる光の柱から落とされた雷が国中のあらゆる所へと降り注ぐ。石造りの建物は木っ端微塵になり、木製の建物は燃え、煉瓦造りの道路は抉れる。人々の悲鳴と雷鳴が重なり合い、最低な和音が響く中、地は揺れ、天の怒りに耐えられないと嘆いていた。走る車体が何度も激しく動き、体が常に振り落とされそうな状態。ナーリブとネスメイを隔てていたあの屈強かつ巨大な石壁も雷で次々と崩れ、礫の雨を降らしている。人々が向かっている先はレイルベルの港の方面。恐らく船に乗せてもらって国外に避難するのだろう、とアルラが言っていた。民衆が必死に「生」を求め、足を動かして駆けていく様を見ているうちに、ふとノードは一人の存在を思い出す。
「そういえば……シルバさん、この状況で逃げられてるのか……!?」
「……! 確かに……。子どももいるし、いつも歩くだけで大変そうにしてるし……! 一旦、向かってみる……!」
 ハンドルを捻って更に速度を上げる。レイルベルへと急ごうとする人々の群衆は路地に詰まるようにして、避難とは思えないゆっくりとした歩みを行っていた。ハンドルを捻りながら車体を上に持ち上げ、彼らの頭の上を通過して行く二人。そんな中、進行方向とは逆にあるシルバの家へと向かっている際に、群衆の中に彼女らが混じっているの発見した。安堵の気持ちを持ちながら、二人は声を掛けに向かう。
「シルバさん! 大丈夫でしたか?」
「あー! アルラちゃん、それにノードさんも! よかったわぁ……家でテレビを見てて心配したのよ、あなた達のこと」
「お兄ちゃん!」
 ノードは彼女の腕に抱かれていたトロンに笑顔で手を振り返す。だが、その瞬間。その人々の群衆の上の空で、柱から放出された大きな光の渦のようなものが現れた。轟く雷鳴。人々が恐れ、慄き、嘆いて、ほとんどが絶望した表情を見せる。中には手を合わせて祈る者も。その不穏な雰囲気は、まだ幼き子供にも伝わるほど明らかだった。人々がこの場からすぐに立ち去ろうと、足を動かそうとする。しかし、列が進む速度は変わらない。そして結末の決まった筋書きをなぞるように、その光の渦は一つの大きな幹となり、そのまま群衆の中心へ向かって落雷した。まずい。このままじゃ。ノードは咄嗟にバイクの座席に立ち上がり、足で蹴って飛び上がると、体を宙に浮かせた状態でその雷を手で受け止めた。民衆と雷の間に入るノード。目下には目を瞑り、頭を抱える人々が見え、雷を止める手がじんじんと燃えているような感覚になる。天の怒りを民が拒むなど愚かしい。そう嘲笑うように雷は勢いを増し、ノードは地面へと押されていく。ほぼ足が民衆の頭に付く寸前の状態。必死に叫んで、唸って。どうにか押し返そうとノードは全身に力を込める。これは天の怒りではない、同じ民の起こした災害なのだ。その始末は同じ種族の民が付けなければいけないんだ……!
 その瞬間、足を押される感覚がした。思わず目線を下げる。そこには彼の足を手で押し返そうと奮闘している人間達の姿があった。
「頑張れ……! 頑張れライクア……!」
 いつしか一帯の人間が必死に彼と同じ苦しみを受けながら、なんとか雷を押し返そうとしていた。聞こえてくる応援。その声は二十人にすら満たず、足を押しているものはせいぜい五人ほど。それでも、彼は湧き上がるものを感じた。今、ここにいる彼らを守らねばならないと。
「うおおおおおおお!」
 押されている手を蹴り、勢いよく飛び上がる。そして、民衆の手が自分の体に触れてないことを確認した瞬間。彼は全身の放電を一気に解放する。青い稲妻に包まれたその体は雷を天に押し上げるように空へと推進していき、同時に両手で少しずつその電気エネルギーを吸収し始めた。この感覚。アルラを殺そうとした黒服の一閃を無効化した時と同じ。もしかしたら、これを使えば……。光の渦から振り下ろされた雷は、彼の掌へ吸い込まれていき、徐々に勢いを減らしてしまう。そして、遂に彼が拳をゆっくりと握り込むと──。雷もろとも光の渦は、空から姿を消した。雲の近く。重力を思い出した彼の体は、瞬く間に民衆の元へと落ちていく。そんな彼をバイクに乗って飛んできたアルラが受け止め、後部座席へと乗せる。宙を舞う桃色の車体に走る青い光が残像を残し、民衆はそれを見上げた。彼女は彼を肘で小突く。
「いきなり飛び出したりしないでよ! びっくりするじゃない……!」
「……わりい。どうしても体が先に動いちゃって……」
「あんたらしいと言ったら、そうだけど。でも、私もいるんだから」
 銃を掲げる彼女。その目を見て、覚悟を決める。拳から入ってきた電撃の余韻がまだ全身に染みる中、彼はビッグコアから伸びる光の柱に視線を向けた。
「アルラ。俺、一つ思いついたことがあるんだ。この惨劇を、二人で止める方法……」
「……何?」
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