あなたの声を聴かせて

紅羽 もみじ

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事件録1-3

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 放課後を見計らい、平端は再び学校へ足を運んだ。校門の前で張り込み、新川の友人と思われる保坂が出てくるのを待つためだ。

(署にも戻って情報を整理してみたけど、なーんか引っかかるのよね…。成績はそれなりに優秀、友人関係も問題なし。あと考えられるとしたら、家庭環境だけど、家に行っても被害者の思念は感じられなかった。学校にずーっと居着いてるってことは、現場だからってことの他にも何かあるんじゃないかなぁ…)

 ああでもない、こうでもないと思案しているうちに、目当ての人物が校門から出てきた。

「あなた、保坂さん?」

 急に呼び止められた生徒は、何事かというような顔で平端を振り返った。今日の授業中に、涙を溜めてトイレに駆け込んだ人物に間違いないと確信し、平端は相手の反応関係なしに話し始める。

「ああ、よかったー。合ってた、保坂さんで間違いないね?あ、私、警察署の平端って言います。ちょっと時間いいかな?」
「え、あ、はい…?」

 完全に平端のペースに飲まれてしまった保坂。平端はマイペースに保坂に質問を続ける。

「新川さんとは、仲のいい友達だったって、担任の先生から聞いたの。だから、今回のことで何か知ってることあるかなーって思って、聞きにきたんだ。」
「……」

 ここまで話し切って初めて、平端は、また自分のペースに巻き込んでしまった、と気づく。幸い、今日の授業のように泣いてはいないが、辛そうに顔を歪めていた。

「あー、ごめん、ね?いきなり聞かれても困るよね。」
「……いえ、気にしないでください。」
「保坂さんのことは、担任の先生に聞いたんだ。そういえば、今気づいたんだけど、あの先生すごいよね。」
「何が、でしょうか。」

 取り調べなのか雑談をしにきたのかわからないような話を繰り出され、さらに困惑する保坂。それに構わず、平端はマイペースに話し続ける。

「それがさ、今日の午前中、新川さんがいた教室の様子をちょーっと覗かせてもらってたの。その授業の途中で出てきたのが保坂さんだったんだけど、私、席の位置もあなたの特徴も話してないのに、それは保坂さんだって当てちゃったんだよね。」

 平端の話に困惑していた保坂だったが、途中から少しずつ怯えるような表情になった。

「……新川さんとは、仲良かったし。先生もそれは知ってたので…。」
「そっか、そのこと知ってれば当てちゃうか。生徒のこと、よく見てるいい先生なんだね。よく相談とかのってくれるの?」
「そう、ですね…。進路の話とか、勉強の質問とか、よく相談してます。」
「人生相談とかは?」
「人生相談…?」
「ほら、青春真っ只中なあなた達には、色々と悩みがあるんじゃない?人間関係の悩みとかさ。なんか、そんな相談ものってくれそうな優しそうな先生だったから、しないのかなって。」
「さ、さぁ、どうでしょう……、私は、特に…」
「ふーん、そっか。人気ありそうな先生なのになー。」
「…他の子は、相談してるかもしれないですけど…」
「あ、やっぱり?じゃあ新川さんもしてたのかなぁ。」
「……」

 新川さん、という言葉を出すと、保坂はなぜか黙り込む。平端は保坂にもう少し突っ込んだ質問をしてみるか、と切り出そうとした時、沈黙を破ったのは保坂からだった。

「……あの日、新川さんは…愛美は、用があるから先に帰ってて、って言ったんです。」
「いつも一緒に帰ってたの?」
「私も、愛美も部活には入ってなくて…。いつも、一緒に帰ってました。でも、その日だけは、先に帰っててって…。そしたら、あんなことに…。」
「その用事ってのは、何も言ってなかったんだ?」
「…聞こうかと思ったんですけど、ちょっと聞けそうにない雰囲気だったので…。でも、あの時聞いてたら…、私が終わるまで待つよって言ってたら…、あんな、ことには…」

 保坂は心底後悔しているのか、話の途中からまた涙を溜めて泣きそうになっていた。何か用があって、学校に残っていた。仲の良い保坂にも言えない用事。何があったのか…と思案していた時。

「平端さん、うちの生徒に何してるんですか。」

 背後から、新川の担任教師が声をかけてきた。教師は、保坂を庇うように平端の前に立つ。校門付近で話していたところを、担任に見られたらしい。

「僕、言いましたよね、保坂と新川は友人だったと。保坂は新川を亡くして傷ついてるんです。これ以上追い詰めるようなことをするなら……」
「せ、先生、大丈夫です、大丈夫ですから…」

 潮時か、と平端が身を引こうとした時。ぞっと背筋が凍るような被害者の霊の思念を感じた。思わず振り返ると、恨みを込めた形相で、二人の姿を睨みつけている。平端は再び担任と保坂を見るが、霊が睨みつけている対象がどちらか判別がつかない。

(どちらか、なのか、どちらも、なのか…)

 平端の挙動に、担任と保坂は困惑した表情を浮かべるが、平端はじゃあ、最後に一個だけ、と話題を切り出す。

「保坂さんが話してくれたんですけどね、新川さんが亡くなる前日、いつも一緒に帰っているところを、先にかえってて、と言ったそうなんです。先生は何かご存知で?」
「……そんなこと、初めて聞きました。少なくとも、僕のところには来ていません、勉強のために残ったとか、相談のために残ったのでは?」

 担任は顔を少し曇らせたが、流暢に答えを返す。平端の背筋には、睨みつけるように二人の方向を見据える霊が立っている。
 しかし、これ以上二人と対峙しても答えは出ないと思った平端は、何か思いついたことがあったら電話してくれ、と担任と保坂にそれぞれ名刺を渡し、その場を去った。

 署に戻った平端は、担任、保坂と対峙した時の霊の思念と、その身辺から聴取した事情とのズレに違和感を感じずにいられなかった。

(少なくとも、保坂さんと話をしていた時、思念は感じなかったのよね…。保坂さんが授業を抜け出して、トイレに駆け込んだ時は、恨みというか、怒りの念に近かった気がするし、何より悲しそうな念が強かった。思春期の女の子ってわかんないわぁとか思ってたけど…。)

 その時、平端の脳裏に担任の言葉が浮かぶ。『二人はライバル同士だった』、ということは。

(二人は成績の優劣を争うライバル。と同時に友人。同じ大学か、もしくは相手より上の大学に行こうと対抗心を燃やしていたとしたら、生きて勉強を続けられる保坂さんを見て羨む気持ちや、いつか自分の成績を抜く場面が出てくると思ったら、悔しくなる…。)

 平端の中で、少しずつ思念から読み取る情報と、事情聴取から聞き取った情報、観察した情報がパズルのように組み合わさっていく。

(ん?じゃあ待て待て、あの霊が保坂さんと担任の先生がいた時に睨んでいた相手は…?)

 平端の中で事件の核心に迫ろうとしていた時、公務用の携帯に着信が入った。見覚えのない番号だった。

「はい、平端です。」
「あ、あの!さっきの、刑事さんですか。保坂、です…」
「保坂さん?何かあったの??」
「お、お願い、助け…」

 保坂との連絡はそこで途切れた。
 最後まで聞き取れなかったが、保坂からのSOSであることは明らかだった。

「塚本さん!!」
「な、何だよ。」
「一緒に来てください、例の学校の生徒から連絡が!!」
「は??何があったって…」
「急いでください!詳しいことは話しますから!!」

 用件も何もわからない状態で塚本は平端に引っ張られ、二人は学校へ急行した。
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