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18.変化
【ジョシュア視点】
両親の訪問をなんとか乗り切った。
アナベルはプレゼントの刺繍入りハンカチやお菓子作りを頑張ってくれた。
しかも、あまり日がないというのに、手を抜かず素晴らしい出来だった。
アナベルは日々進化している。メキメキと腕を上げている。
それは3年後の離婚に向けて自立するための準備をしているからだろう。
両親が来ると知った時、アナベルが契約婚のことを打ち明けようと言いかけた時、俺は待ったをかけた。『離婚させられ、意に沿わない令嬢と無理矢理結婚させられる』とかなんとか言い訳までして。
キャシーと別れてそんなに日が経ってないというのに、楽しい時だってたくさんあったはずなのに、キャシーのことなんか綺麗さっぱり吹き飛んだ。というか黒歴史化してしまった。
今はアナベルのことが気になって気になってしょうがない。
朗らかで笑顔が眩しい。何より、何事にも一生懸命に取り組む姿勢が好ましい。
それに、長いこと病床に臥せっていたせいか、ガルシア家に来た時は棒切れみたいな子供だったのに、食事をまともに摂れるようになったからか、遅い成長期がやって来たようだ。まるで蛹から美しい蝶に羽化しているかのように、少女から大人の女性になろうとしている。
平民と再婚するための手段としての貴族との結婚はもう必要なくなったので、アナベルのことを考えるならば、契約解除して、早く解放してあげた方がいいのだろう。平民になったとしても、離婚したって、こんなに素敵な女性なのだから引く手数多だろう。
でも、解放してあげられそうにもなくなってしまった。
もし、『本当の夫婦になりたい』と言ったら、アナベルはなんと答えるだろうか。キャシーと結婚したいからと契約結婚を強要したサイテー男の俺だ。すぐに心変わりする男、浮気する男と思われていて、『信用できない』と言われそうだ。
あー、俺に絆されてくれないだろうか。なあ、アナベル。
ーーーーーーーーーー
コンコンコン
と、アナベルの部屋のドアをノックする。
「やあ、アナベル」
「あら旦那様、どうされました?」
アナベルは今日は午後からの授業がないため、自室にいた。本を読んでいたアナベルが顔を上げた。
ソファに座るように促されので俺は腰掛けた。アナベルも正面に座った。
「何を読んでたんだ?」
アナベルはにこやかに
「マリンに借りた恋愛小説です。貴族の青年と花屋の娘のラブストーリーなんです。今、巷で流行っているんですって」
と。
ブブッ
マリンが淹れたお茶を噴きかけた。
「ケホケホ。へー、そんなのが流行ってるんだねぇ」
花屋と商会の違いはあるが、平民との恋愛は自分の中では黒歴史と化している。話題を変えねば。
「コホン。年に一度王家主催の夜会があるんだ。今度は次の開催までに時間に余裕があるから、俺と一緒にダンスのレッスンをしないか?直接パートナーとだと効率がいいだろ?」
なんて言いながら、他の男とは踊ってほしくないだけだ。
「やっぱり、次回のダンスは不可避ですか?」
アナベルは、自信なさげに俺を見た。
「そうだね。それに俺がアナベルと踊りたいんだ」
アナベルは目を大きく見開き、そして顔を赤らめ
「……頑張ります。でも、覚悟していてくださいね?」
「?何を?」
「旦那様の足を沢山踏みますので」
「ははは、最初から踏む前提なんだ」
「私の運動神経のなさを甘く見てはいけませんよ」
アナベルは、ふふふ、と口元に手のひらをあてて笑いながら言った。
「靴に鉄板を仕込んでおかないといけないな。ダンス講師も手配しないといけないか。……そろそろ仕事に戻るよ」
俺は名残惜しく立ち上がった。
「旦那様、お仕事頑張ってくださいね」
アナベルはにこやかに送り出してくれた。
あー、やっぱり可愛いな。癒される。
俺はドアをパタンと閉じ廊下に出た。執務室に戻ろうとした時、
「わ、若旦那様」
部屋の外に控えていた侍女のマリンに呼び止められた。
「何だ?マリン?」
「お忙しいところ大変申し訳ないのですが、若奥様の件でお伝えしたいことがあるのです」
「アナベルの件?」
「はい」
「どんなことだ」
「若奥様はガルシア家に来られてから普段着を着替えたり、湯浴みの時も『恥ずかしいから』とご自分でされるのです。でも、ドレスは流石にご自分では無理なので、私共が仕付けるのですが…、あの、その……」
マリンは言いにくそうにしているので、
「どうした?」
と急かした。
マリンは意を決したように、
「背中に鞭で打たれたような跡がいくつもあったのです!私たちやドレスの仕立て屋にも、若奥様は口止めされましたが、やはり若旦那様にはお知らせしないといけないと思いまして……」
と。
「え、何だって、鞭!?」
マリンはビクッとした。
「あ、いや、すまない。大きな声を出して。教えてくれてありがとう。もうアナベルのところに戻っていいよ」
「はい」
鞭?鞭だと?アナベルは虐待されていたのか?病気のせいで細かったんじゃなかったのか?!
なんてことだ。
ハート男爵には2回会ったが、とてもそんなことするような人物には見えなかった。すると義母が?!
俺は執務室に戻り、ケネスに
「至急、ハート家について調べるんだ!」
と指示を出した。
両親の訪問をなんとか乗り切った。
アナベルはプレゼントの刺繍入りハンカチやお菓子作りを頑張ってくれた。
しかも、あまり日がないというのに、手を抜かず素晴らしい出来だった。
アナベルは日々進化している。メキメキと腕を上げている。
それは3年後の離婚に向けて自立するための準備をしているからだろう。
両親が来ると知った時、アナベルが契約婚のことを打ち明けようと言いかけた時、俺は待ったをかけた。『離婚させられ、意に沿わない令嬢と無理矢理結婚させられる』とかなんとか言い訳までして。
キャシーと別れてそんなに日が経ってないというのに、楽しい時だってたくさんあったはずなのに、キャシーのことなんか綺麗さっぱり吹き飛んだ。というか黒歴史化してしまった。
今はアナベルのことが気になって気になってしょうがない。
朗らかで笑顔が眩しい。何より、何事にも一生懸命に取り組む姿勢が好ましい。
それに、長いこと病床に臥せっていたせいか、ガルシア家に来た時は棒切れみたいな子供だったのに、食事をまともに摂れるようになったからか、遅い成長期がやって来たようだ。まるで蛹から美しい蝶に羽化しているかのように、少女から大人の女性になろうとしている。
平民と再婚するための手段としての貴族との結婚はもう必要なくなったので、アナベルのことを考えるならば、契約解除して、早く解放してあげた方がいいのだろう。平民になったとしても、離婚したって、こんなに素敵な女性なのだから引く手数多だろう。
でも、解放してあげられそうにもなくなってしまった。
もし、『本当の夫婦になりたい』と言ったら、アナベルはなんと答えるだろうか。キャシーと結婚したいからと契約結婚を強要したサイテー男の俺だ。すぐに心変わりする男、浮気する男と思われていて、『信用できない』と言われそうだ。
あー、俺に絆されてくれないだろうか。なあ、アナベル。
ーーーーーーーーーー
コンコンコン
と、アナベルの部屋のドアをノックする。
「やあ、アナベル」
「あら旦那様、どうされました?」
アナベルは今日は午後からの授業がないため、自室にいた。本を読んでいたアナベルが顔を上げた。
ソファに座るように促されので俺は腰掛けた。アナベルも正面に座った。
「何を読んでたんだ?」
アナベルはにこやかに
「マリンに借りた恋愛小説です。貴族の青年と花屋の娘のラブストーリーなんです。今、巷で流行っているんですって」
と。
ブブッ
マリンが淹れたお茶を噴きかけた。
「ケホケホ。へー、そんなのが流行ってるんだねぇ」
花屋と商会の違いはあるが、平民との恋愛は自分の中では黒歴史と化している。話題を変えねば。
「コホン。年に一度王家主催の夜会があるんだ。今度は次の開催までに時間に余裕があるから、俺と一緒にダンスのレッスンをしないか?直接パートナーとだと効率がいいだろ?」
なんて言いながら、他の男とは踊ってほしくないだけだ。
「やっぱり、次回のダンスは不可避ですか?」
アナベルは、自信なさげに俺を見た。
「そうだね。それに俺がアナベルと踊りたいんだ」
アナベルは目を大きく見開き、そして顔を赤らめ
「……頑張ります。でも、覚悟していてくださいね?」
「?何を?」
「旦那様の足を沢山踏みますので」
「ははは、最初から踏む前提なんだ」
「私の運動神経のなさを甘く見てはいけませんよ」
アナベルは、ふふふ、と口元に手のひらをあてて笑いながら言った。
「靴に鉄板を仕込んでおかないといけないな。ダンス講師も手配しないといけないか。……そろそろ仕事に戻るよ」
俺は名残惜しく立ち上がった。
「旦那様、お仕事頑張ってくださいね」
アナベルはにこやかに送り出してくれた。
あー、やっぱり可愛いな。癒される。
俺はドアをパタンと閉じ廊下に出た。執務室に戻ろうとした時、
「わ、若旦那様」
部屋の外に控えていた侍女のマリンに呼び止められた。
「何だ?マリン?」
「お忙しいところ大変申し訳ないのですが、若奥様の件でお伝えしたいことがあるのです」
「アナベルの件?」
「はい」
「どんなことだ」
「若奥様はガルシア家に来られてから普段着を着替えたり、湯浴みの時も『恥ずかしいから』とご自分でされるのです。でも、ドレスは流石にご自分では無理なので、私共が仕付けるのですが…、あの、その……」
マリンは言いにくそうにしているので、
「どうした?」
と急かした。
マリンは意を決したように、
「背中に鞭で打たれたような跡がいくつもあったのです!私たちやドレスの仕立て屋にも、若奥様は口止めされましたが、やはり若旦那様にはお知らせしないといけないと思いまして……」
と。
「え、何だって、鞭!?」
マリンはビクッとした。
「あ、いや、すまない。大きな声を出して。教えてくれてありがとう。もうアナベルのところに戻っていいよ」
「はい」
鞭?鞭だと?アナベルは虐待されていたのか?病気のせいで細かったんじゃなかったのか?!
なんてことだ。
ハート男爵には2回会ったが、とてもそんなことするような人物には見えなかった。すると義母が?!
俺は執務室に戻り、ケネスに
「至急、ハート家について調べるんだ!」
と指示を出した。
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