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第一部
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時は戻り昼食時。
相変わらず生徒会役員は全員、この生徒会室で食事を摂っていた。
テーブルに広がっていた書類を片付けると自ら作った弁当や、売店で買ってきた惣菜パンなど各々カバンから取り出し役員たちは食事を始めていた。
仕事を中断して食事をしている役員たちとは違い、生徒会長であるアランは売店で購入したサンドイッチを口に含みながらパソコンと睨めっこしていた。
「え、何エド。あのエリオットと会話をしたの!?」
そんな食事中、突然ディアナは声を上げた。
アランはパソコンから視線を外し、ディアナたちの方へ顔を向けた。
「……うん。……転んだ時……書類拾ってくれて、運ぶの……手伝ってくれた」
「へー、そーなんっすか。珍しいっすな」
「確かに、俺っちもそう思う。エリオットって、デュオのやつとしか話さないからな」
……珍しい、のか?
学園内で変装中のエリオットとは、未だに会ったことのないアランは首を傾げた。
そんな時、紅茶を嗜んでいたクライヴが口を開いた。
「でも、彼は面白い方ですよ」
クライヴの一言に、皆は胸を突かれる。
あんぐりと口を開いた生徒会役員達の姿を見て、クライヴは不思議そうに首を捻る。
「は、嘘……。まさか、他人に興味が無いクライヴが……」
先ほどの言葉に、ザックスは呆気に取られる。
「わぁ……クライヴ、珍しい」
ディアナは口元に手を添え、言葉を発した。
確かに、クライヴにしては珍しいな。
普段から生徒会メンバー以外とは深く関わらず、仕事以外では庭園で一人にお茶をしていることが殆どだ。
本人には言ったことはないが、あまり人と関わることが好きではないように見受けられる。
「……なんですか、そんなに珍しいですか? ……私だって、人と関わることくらいありますよ?」
ムッと眉を顰めると、再度紅茶を嗜み始めた。
「でもさ、俺っちはエリオットより、あの転校生の方が気になる」
「あー、あの転校生っすか」
シドの言葉により、話題はエリオットからアリスティアへと変わる。
「よく風紀委員のセドリックと一緒にいるんだが、なんか親衛隊の話によると良くない話を聞くんだよなぁ」
「……良くない、話だと?」
アランは食事の手を止めると、シドへ顔を向ける。
良くない話。それが親衛隊の愚行を招きかねないことであるのならば、早急に対処しなくてはならないことだ。
「そう。風紀委員長の名前をブツブツ言いながら廊下を歩いていたりとか……あ、後、会長のことも探していたらしい」
「え? なにそれ。アラン、何か関わりあったの?」
「いや、これといって……ないな」
思い返しても、先ほど腕に抱きついてきたこと以外関わりは無かったはずだ。
そもそも、あの転校生は入学式にいたわけではない。
だというのに、何故俺様の名前も顔も知っていたのか。
アランは首を捻る。
輸送されたパンフレットや資料にでも記載されていた可能性もあるのだが、だとしても何処か引っ掛かる。
形容し難いこの違和感に、アランは息を吐くと珈琲を口に含んだ。
◇◇◇
遂に、この日が来てしまった。
朝、エリオットは目を覚まして一番にそう思ってしまった。
食事をし、準備をしているとすぐに学園へ向かう時間が来てしまう。
フレと共に学園へ向かっている時でさえ、無駄に緊張し、胃に穴が開きそうだ。
学園へ着くと校庭へ促されると、現在クラスごとに二列ずつ列を作っている最中。なので一番後方にフレディと隣り合わせで立つと、他のクラスの生徒たちが集まるまで待つことになった。
次第に他のクラスの生徒たちも集まりだし列を成すと、一人の男子生徒が拡声器を手に持ち朝礼台の上に現れる。
茶髪に紅い瞳。そして、あの白を基調とした軍服を羽織っていた。
その男子生徒に見覚えがあった。
そう、あの日散歩として学園内の中庭に来てしまった時に遭遇してしまった男子生徒。
薄々感じていたが、やはり生徒会役員であったようだ。
思わずため息を漏らしてしまうと、拡声器から声を発せられた。
「静粛に。今日は知っての通り新入生歓迎会だ。今年は宝探しゲーム、その後立食パーティという予定である」
立食パーティ。その言葉を聞いた途端、エリオットの瞳は輝き始めた。
え、本当か!? 立食パーティなのか!?
宝探しゲームなんていうのをさっさと終わらせて、美味しいものを食べに行きたいっ!!
エリオットの脳内には、昔口にした数々の料理が蘇る。
そんな妄想に耽っているエリオットのことには気が付かず、アランはルール説明を始めた。
「宝探しゲームのルールは簡単だ。すぐ近くの森に埋められた箱を探し出せばいい。中には、あたり券とハズレ券のどちらかが箱の中に入っている。また、崖などの危ない場所にはないからくれぐれも近付くなよ」
魔道具によって地図が映し出されると、アランはチョークの様なもので崖付近にバツマークを付ける。
前世の時代には存在していなかったプロジェクターの魔道具だが、あの持っているチョークはそのプロジェクターによって映し出されたものに直接書くことが出来る代物だ。
「見事あたり券を見つけられた者には、我々生徒会と風紀委員会が出来る限り願いを叶えよう。それからもし、ゲーム中に何か問題でもあったら、巡回している生徒会と風紀委員会に言うように」
そろそろ説明も終わる頃だろうと、エリオットはバレないように密かに欠伸をする。
そんな時、爆弾は落とされた。
「……そうだ、不正なんてしてみろ。生徒会長である俺様が黙っていないからな」
束の間、エリオットの思考は停止する。
…………は? い、今何て……。
動き始めた思考回路を使い、朝礼台の上に立っている者の言葉を拾い上げていく。
…………生徒会長、確かに生徒会長と言った。
関わりたくない人物、ナンバーワンな生徒会長!?
驚倒してしまいそうなエリオットの脳内に、記憶が蘇る。
そうだった……あの時何処かで見たことがあると思えば、エリオットが入学式に見たからじゃないか!!
思い返すと、入学式で体育館に並べられた椅子に座るエリオットの視線の先には、壇上の上に立ち在校生代表として挨拶をしている生徒会長の姿。
そうだ、そうだよ。あれは生徒会長だったんだ!!
脳裏に蘇った光景に対し、気が動転しかける。
落ち着け落ち着けと、オロオロし始めたエリオットを見て、フレディは首を傾げていた。
「……質問とかはないようだな。では、始めっ!」
アランの合図により、生徒達は蜘蛛の子の様に一斉に森の方へと散っていった。
……よくあんなにもやる気に満ち溢れているな。
エリオットはため息が漏れそうになるのを押さえると、フレディが言葉を掛けてくる。
「じゃあ、エル。僕たちも行こうか」
「……どうしてもやらなくちゃいけないのか?」
「まあ、形だけでもやらないとね」
出来れば、こんな面倒臭いことなんてしたくない。
早いところ立食パーティとやらに行きたいものだ。
あぁ、早く……美味しいものを食べに行きたい。
「それに、あたり券を引けば食堂の料理一年間無料とかにしてもらえるよ」
「……え、それ……本当か!?」
「うん。生徒会とか風紀委員会に興味無い人とかは、そういうのお願いしているみたいだよ」
もし、一年間無料になれば……値段なんて気にせずに沢山食べれるし、それにデザートも頼み放題ではないのか!?
「よしっ。俺も食堂の料理一年間無料を目指すぞ!!」
「ふふ、エル。やる気だね」
俄然張り切り出したエリオットの様子を、フレディは微笑ましそうに眺めていた。
その後二人は森の奥に足を運ぶと、あたり券を探し始める。
が、そう簡単には見つかるはずはなく、二人はただ森の中を散策しているだけであった。
フレディは持っているスコップで木の根元を掘るが何も出てこず、土を埋め返した。
よくよく考えれば、この広大な森の中で埋められている箱を探すなんて至難の業ではないか。
何処かに目印とかがあればいいのだが、そういうのは無さそうだ。
「なかなか見つからないなぁ」
「そうだね。……もしかしたら中央の方かもしれないね」
「そうか。なら、そっちに向かってみるか」
地を踏みしめ、歩き出す。
先ほどまではあんなに生徒がいたというのに、森の中に入ってしまうと誰一人見掛けなかった。
他の皆は中央の方に集まっているのだろうか。
そんなことを考えながら歩くが、二人が辿り着いた場所は中央付近ではなく、崖近くであった。
「……道、間違えたか?」
「そのようだね。ここは危ないし、早く離れよう」
エリオットは踵を返そうとした時、とトンっと誰かに軽く背中を押された様な気がした。
声を出す暇もなく体は傾き、そのまま地に向かって宙を舞う。
「エルっ!!」
フレディの叫ぶ声が耳に届いたが、エリオット自身は冷静であった。
……んー、別に浮遊魔法を使えば大丈夫だよな。
しかしエリオット自身、下へ降りるべきか、上に上がるべきかで迷っていた。
下へ降りれば目立たないがフレディと合流するのに手間取ってしまう。
逆に上に上がればすぐさまフレディを安心させることが出来る。
…………そもそも浮遊魔法くらい、普通だよな。
うんうんと頷き、魔法を発動させて早いところフレの元へ戻ろう。
気が付くと、あと数十秒で地面に到達してしまうところまで地面が迫っていた。
もうそろそろ発動させようか。
「アンヴォルーー」
──言葉を発した、その時であった。
突然、エリオットを追うように崖から飛び降りた一人の生徒。
その顔を見て、エリオットは瞠目した。
…………は?
茶髪に紅い瞳。特徴的な純白の軍服を羽織っている男子生徒。
せ……生徒会長っ!?
思わず叫び出しそうなのを抑えると、同時に生徒会長であるアランはエリオットを抱き寄せたのであった。
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