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第一部
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しおりを挟む突如脳内に戦闘BGMが鳴り響く。
頭お花畑のアリスティアと、厨二病風紀委員セドリックが現れた。
選択肢は問答無用で逃げる一択なのだが──
「ちょっと待ちいやっ! お二人さん、せっかくだから一緒に何か食べようや!」
「そうですよ。一緒お食事しましょう!」
二人のお誘い攻撃が急所に当たる。
セドリックに腕を掴まれ逃げることが不可能になってしまい、フレディに助けの意を込めた視線を送るが……。
「え、と、僕たちはちょっと……」
「何言ってん。一緒に食べようやっ」
しかし、フレディも腕を掴まれ双方逃げることも何かしらの攻撃を与えることも不可能になった。
話術でどうにかしようとしても、セドリック相手では分が悪い。
どうするかと、対処法を考えている時。
「もしかして、お二人方たこ焼き苦手なんですか?」
アリスティアの言葉を聞き、思わずエリオットはハッとする。
何故そんなことを言うんだよっ!
た、確かセドリックはたこ焼きが大好物……そんなものを苦手なのかと聞いたら──
「なっなんやと!? たこ焼き苦手なんっ!?」
セドリックの攻撃力が忽ち上昇する。
セドリックは信じられないとふらふらした後、残っていたたこ焼きを口に放り投げると再度エリオットとフレディの手を掴んだ。
「それなら、たこ焼きを好きになってもらうように、自分の部屋でたこパするでっ!!」
「えっ!?」
突然の急展開に呆気に取られる。
このまま二人のペースに呑まれしまうと一環の終わりである。
だから何としても拒否をし続けなくてはならないのだが。
「いや、俺らは──」
「それはいいですね!」
「なら行くで!!」
「ちょっ!!」
為す術もなく、二人のペースに呑み込まれてしまう。
こうして有無を言わさずに、セドリックは二人を引き摺るようにこの場を後にした。
つまり、この攻防戦の結果。エリオットとフレディの敗北で幕を閉じたのであった。
◇◇◇
場所は変わって生徒会室。
休日だというのに生徒会長アランは椅子に寄りかかり、その手には一枚の紙を持っていた。
「……で? 自首してきたと」
「あぁ、だが三人とも傷だらけなんだ。けれど何度理由を問いただしても口を固く閉ざしたままで何も言わないんだ」
風紀委員長のディランがそう説明すると、アランは紙を口元へ添える。
「……誰かが制裁を加えたのか? それとも、黒幕が……」
「いや、黒幕の線は無い。彼らがそう言っていたから」
「そうか」
となると、やはり誰かが制裁を加えたとしか考えられない。
仮に誰かに何かをされたわけでもなく、ただの怪我や仲間内の喧嘩となれば口を割らないのはおかしいことだ。
ならやはり、第三者の手によって怪我を負わされたという線の方が考えとして普通だろうか。
しかし、一体誰がそんなことを……。
制裁を加えて利益が出る人物……駄目だ、思い当たらない。
あの場にいた者たちは俺を始め、皆顔を確認出来ていなかっただろう。
だから除外していいと思うが……如何せん、何の手掛かりがない。
この手掛かりが全くない状態で、制裁を加えた者を割だそうなど不可能に等しい。
「……防犯カメラは観てみたか?」
「確認はした。だが不審な者も、またあの三人の姿も映ってはいなかった」
「…………」
駄目だ。もう手の打ちようもない。
「まあ、誰かが制裁を加えたとしても、犯人は見つかったんだ。一先ずそれでいいと俺は思う」
「…………そう、だな。だが、処分はどうなるんだ」
ディランは一瞬眉を顰めると、口を開く。
「……退学に、なるかもしれないな」
「それは仕方ないだろう」
人の生命を奪いかけたのだ。
罪に問われないだけ充分軽いだろう。
退学処分になるのであれば書類を準備するかと、アランはデスクの引き出しを開けた時ーー
「諸君聞いたぞっ! あの一件の犯人捕まったとな!」
……途轍もなく面倒臭い者が扉を勢いよく開け放ち、現れた。
「……リル」
ディランはため息混じりに眼鏡をクイッと上げる。
「お前、もう少しゆっくり入って来い」
「ふふ、いいじゃないかぁ。僕と君の仲だろ?」
「俺様はお前と仲良くないと思っているがな」
「むー、アーくんは冷たいにゃぁ~」
彼女の名前はリル・ロンズデール。
広報委員の委員長であり、この生徒会長の俺様の次……いや同じくらいと言っても過言ではないほど、謎に権力持っている者だ。
彼女に逆らえば次の日、表に出ることが出来なくなる。そう恐れられている。
「で、聞いたぞっ! アーくんにディーくんお手柄じゃないか!」
くるりと楽しそうに回る。
腰近くまであるウォームグレイの髪がゆらゆらと揺れる。
「……いや、お手柄というか、彼らが自首してきたんだ」
「でもお手柄といえばお手柄にゃ~」
むふっと猫口になると、眼鏡をピコピコと上下に動かし始めた。
……何してんだ、こいつは……。
アランはため息をつく。
この者を相手するのは体調が万全な時がいいというのに、何故徹夜明けの今日に限って目の前に現れるんだ。
掴みどころがなく、何を考えているか分からない者より、まだ他の委員長を相手している方が数十倍も楽だ。
「で、処分をどうするのか決めたのにゃ?」
「……多分、退学になると思う」
「おぉ、これはこれは中々の処分ですなぁ」
「お前はどうせそれを記事にするんだろ? それならさっさと書きに消えろ」
情報ならもう全て伝わっているだろう。
地獄耳なリルならば、確実に。
だがリルは紫色の瞳を細めると、口元に人差し指を当てると不敵な笑みを浮かべた。
「むー、僕はまだ帰らないよ~。でさ、僕良いこと思いついたのにゃ~」
「良いこと?」
ディランがそう尋ねると、リルはぴょんっと跳ねる。
「そうっ! どうせなら被害者くんに、三人の処分を決めてもらうというのはどうかにゃ!?」
「はぁ? 何言っているんだ。んなこと、させるわけにはいかないっ!」
被害者に処分を委ねる。
ある意味、それは良いことかもしれないが到底許可は出せない。
「んー、そうかぁ。なら僕、アーくんのとっておきの秘密暴露しちゃうぞ!」
「ひ、秘密?」
アランは思い当たらなかった。
どうせリルには珈琲よりココアの方が好きだとか、族の総長しているとか知っているだろう。
他に……秘密と呼べるのはあっただろうか。
リルは胸元で手を握り締めると、瞳をうるうるさせながら、言葉を吐き出した。
「そう、春の兆し、桜花の候。桜が舞い散るある日、アーくんは中庭で遭遇した謎の少年に出会い、そして一目惚れしてしまったのです」
「…………………………は?」
思考が停止した。
ヒ……ヒト、ヒトメ……ボレ?
少しずつ言葉を拾い上げていく。
誰が……この、俺様が……誰に。
その時脳裏に浮かんだのは、あの時声をかけた、あの紅髪に金色の瞳の────
「なっ、何言ってんだお前はっ!!!!」
ガタンっと大きく音を立て、椅子から立ち上がる。
積み上げられていた書類が落ちたが、そんなことは気にしていられない。
「あぁ、禁断の……恋っ」
「何が禁断の恋だっ!! 俺様は惚れてなんかないっ!!」
ダンっとデスクを叩く。
「何を言っているんだい? あの少年が消えてしまった時、アーくんの頬は紅潮していたというのに」
「んなの、見間違いだろっ!!」
この俺様が、誰かに惚れるとは到底考えられない。
そもそも好意を寄せている者がいたとしたら、親衛隊の過激派が黙っては──
そこでアランは気が付いた。
リルの思惑に気が付いてしまった。
目を見開いたアランの表情を見て、リルは微笑む。
「で、どうするのにゃぁ~? 嘘か実かはこの際どちらでもいいとしても、このことが親衛隊に伝わってしまえばどうなるんだろうなぁ~」
「……アラン」
「くっ」
これは脅しだ。受け入れなければ言うという脅しだ。
リルは武力行使でどうにかなる者ではなく、だからといって放置しこの話をばら蒔かれてしまえば終わりだ。
リルが言うこと、記事にしたこと、それらは全て事実のことだと言われ続けている。
例え否定したとしても、全員に信じてもらえるとは限らない。
確実に大事になってしまう。
「……アラン、流石にこれはお前の負けだと思う」
「いや、だがっ」
「好きな人がいるのであれば応援するが、このことが公になることだけは避けなくてはならない。お前だってただでさえ仕事が多いというのに、これ以上増えるのは避けたいだろ?」
確かにディランの言う通りだ。
もう、これは受け入れるしか道はないだろう。
流石に親衛隊が暴動を起こしてしまえば、風紀委員の仕事が膨大に増えてしまう。
それだけではない。生徒会にも対応を求められ、全ての仕事を後回しにしなくてはならない。
俺様だけならまだしも、他の役員にまで被害が被ってしまうのであれば……。
不本意だが、リルの提案を受け入れよう。
「……分かった。リル、お前の提案を受け入れてやる」
ため息混じりに言葉を吐く。
「流石アーくん!! 話せば分かってくれると思っていたにゃっ!」
「だが、一つ訂正させてもらう。俺様には好きな人なんていないっ!」
「むー、まぁ、そういうことにしておいてあげるにゃ。じゃあ僕はもう帰る~」
「さっさと帰れっ!」
リルはふふっと笑うと、この場を後にした。
「……俺もそろそろ帰るか」
「そうか。報告ご苦労だった」
リルに続くように、ディランも生徒会室を後にした。
一人っきりになると、アランはドサッと椅子に身を沈めた。
……あの時、俺様以外の役員は生徒会室に閉じこもっていた。
それに、周りにも人の気配なんて一切なかった。
……あいつは、一体何処から見ていたんだ。
息を吐く。
本当に、あいつと話すと面倒臭いし疲れるな。
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